岩手地所北上駅前ビル(岩手県北上市)は、県内で初めてBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)評価を受けた建物だ。盛岡市を中心に貸しビルや駐車場などを所有・管理する岩手地所(盛岡市)が建設したテナントビルで、2020年1月に完成した。

外観写真(写真:小原建設)
外観写真(写真:小原建設)
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 延べ面積2764m2、5階建ての建物は、東北・秋田新幹線の停車駅でもあるJR北上駅から西北方向へ延びる大通り沿いに位置している。駅から歩いて最初に目に入る建物コーナー部分は黒色系の外装材で仕上げ、横に続く白色系の外装材との組み合わせで外観に変化を与えている。

 北上市内にはトヨタ自動車やキオクシア(旧・東芝メモリ)などの工場がある。「こうした企業に関係するテナントの需要を見込んで計画した。おととし、ZEBのセミナーに参加して関心を持っていたこともあり、当初からZEBをめざした」(小原与一・岩手地所総務部長)

 外皮性能を高めるなど工夫を施した結果、創エネルギーを含めない一次エネルギー消費量削減率(その他エネルギーを除く)は61%となった。屋上に設置した25.2kWの太陽光発電設備による創エネを含めると同69%となり、ZEB Readyに該当する。環境省の「ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業」の補助金を得て建設した。

 オフィスビルのなかでも、テナントビルはZEBの実例が少ない分野と言える。環境共創イニシアチブに登録しているZEBのうち「事務所等」は80件ある。そのほとんどが自社ビルで、テナントビルは10件に満たない(20年1月末時点)。理由の一つは、ZEB化に伴う初期投資のコストアップをテナントの賃料に反映しにくく、事業メリットが得にくいからだ。

 岩手地所北上駅前ビルも周辺の相場を見て賃料を設定し、ZEBによる上乗せは特にしていない。「投資の回収年数は少し延びるが、室内の快適性が高ければテナントの入居期間の長期化や空室率の低下に結び付けられる」(小原氏)と、長い目で見た効果を見込む。

 また、補助金の申請に伴う難しさもある。

 補助金は、設計に基づいた省エネ計算を行って申請する。計算に関わる間仕切りの位置や設備機器などを変更して設計内容が変わってしまうと、別途手続きが必要になる。

 入居企業が決まっていないテナントビルは、設計内容とは異なる状況が入居時に起こりやすい。そうした点が、申請のネックになる。そこで岩手地所は早期にテナントを募集して入居企業のめどを立て、各社にヒアリングを実施。間仕切りをはじめとする条件を早めに固め、実際の設計に落とし込んでいった。

基準階の執務スペース(写真:久慈設計)
基準階の執務スペース(写真:久慈設計)
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