石を立てる。いつ誰が始めたのか、はっきりしない本能的な遊び。それが今では、「ロックバランシング」や「石花」という名前で楽しまれ、世界中に愛好家がいる。河原でダイナミックに立てるもよし、家で盆栽のように立てるもよし。誰もが楽しめるナチュラルな遊びでありながら、立った石たちからはアートの様相さえ感じさせる。人はなぜ、石に魅せられるのか。日本のロックバランシングをリードする「石花会」の重鎮、石花ちとくさん、石花とかんさんに話を伺った。

ロックバランシングに、和をプラスして「石花」

 河原などで石を立てて遊ぶロックバランシングが急速に広まった背景には、Flickr(フリッカー)などの写真投稿サイトやFacebookといったSNSの普及があった。

 「私の知る限り、ロックバランシングという名称を使い、写真作品として世界に広めたのは、アメリカ人のビル・ダンです。カリフォルニアのゴールデンゲートブリッジの近くで彼が大きな作品をつくったことがあったのですが、その作品を写真で見た世界中の人が驚きました。石が地面と接している面積はごくわずか。それでも石たちが、微妙なバランスを保って立ち上がっていたんです。私はその作品にとても衝撃を受けてしまって。それが私の原点です」(ちとくさん)

 ビル・ダンに続いて、ネットで注目を集めたマイケル・グラブや、ロックバランシングの入門書を書いたピーター・ジュールなどが現れ、ロックバランシングが認知されていく。さらに2012年には、BAWI(Balance Art World Intermeeting)という、世界中のアーティストが腕自慢をするロックバランシングのフェスが誕生し、イタリアを皮切りに、カナダ、アメリカへと広がっていった。

 そんなロックバランシングを日本に広めた第一人者が、石花ちとくさんだ。

 「基本的に、ロックバランシングは河原など屋外でやるもの。でも僕は公園にある石ころを持ち帰って、小鉢を用意して、家で立てるという楽しみ方をしていたんです。そしたら、鉢の中に立った石が、花が咲いたように見えたんですね」

 盆栽や生花をイメージさせる、和のテイストを含んだロックバランシング。その新しい魅力にちとくさん自身が気づいたことで、「石花」の名称が誕生した。今や、海外からもその繊細なロックバランシングが人気を集め、“#ishihana”のハッシュタグで作品を披露する海外の愛好家も増えてきている。

畳、マルタ、レンガ、石、フェルト、木など、台座が変わることで、さまざまな風情を楽しめる石花作品(写真:石花ちとく)。
畳、丸太(マルタ)、レンガ、石、フェルト、木など、台座が変わることで、さまざまな風情を楽しめる石花作品(写真:石花ちとく)。
[画像のクリックで拡大表示]

咲かせて、散らせる。硬質なのに儚い石花

 石花の楽しみ方は、ざっと次のような流れだ。

 最初は石探し。まずは灯台下暗し、庭のある人はそこから石を探してみよう。次に公園や散歩道。旅行先の川や海や山など、石はどこにでもある。そして一つとして同じものがないのがおもしろさだ。手触りのいい、触っているだけで気持ちのよい石は、自分が好きな、相性のいい石。そんな感触も大事にしながら、色や形で選んでいく。

地域や川の流域の違いによって、石の形や色が違う。風景が石の宝庫に見えてくる(写真:石花とかん)。
[画像のクリックで拡大表示]
地域や川の流域の違いによって、石の形や色が違う。風景が石の宝庫に見えてくる(写真:石花とかん)。
[画像のクリックで拡大表示]
地域や川の流域の違いによって、石の形や色が違う。風景が石の宝庫に見えてくる(写真:石花とかん)。

 いくつか集めたら、土台にする石と上に立てていく石を決める。まず土台の石を安定させ、上の石を少しずつ動かしながら、自立しそうな箇所を探る。石が立つときは一瞬、手に石の感覚がなくなる。それがサインだ。そうしたら、そうっと手を離す。石の接点が小さいほど、よりきれいな石花となる。そして、必ず写真に撮る。このとき、カメラを取ろうと体を動かした振動で石花が崩れてしまうことも「石花あるある」なので、笑って残念がろう。作品を写真に残すことに成功したら、不意に石花が崩れて怪我をしたり物が壊れたりしないように、必ず石をばらしておく。そこまでが石花のルール。これは屋外でも同じだ。石花は散るからこそ美しいのだと、肝に命じておこう。

家でトライしやすいのは小さな石。大小変化をつけてステップアップしてみるのも(写真:青木桂子)。
[画像のクリックで拡大表示]
家でトライしやすいのは小さな石。大小変化をつけてステップアップしてみるのも(写真:青木桂子)。
[画像のクリックで拡大表示]
家でトライしやすいのは小さな石。大小変化をつけてステップアップしてみるのも(写真:青木桂子)。
石花の作品例。絶妙な安定ポイントをつかむと、緊張感のあるバランスだったり、石が浮いて見えたりと、思いもよらぬ石の花が咲く(写真:石花とかん)。
[画像のクリックで拡大表示]
石花の作品例。絶妙な安定ポイントをつかむと、緊張感のあるバランスだったり、石が浮いて見えたりと、思いもよらぬ石の花が咲く(写真:石花とかん)。
[画像のクリックで拡大表示]
石花の作品例。絶妙な安定ポイントをつかむと、緊張感のあるバランスだったり、石が浮いて見えたりと、思いもよらぬ石の花が咲く(写真:石花とかん)。

愛好家たちが仲間になれる石花会

 2012年9月、日本のロックバランシング愛好家団体として「石花会」が発足した。北海道、神奈川、東京、大阪に石花会の活動拠点があり、170名ほどの会員登録数がある。石花に興味がある人なら、誰でも会員になれる。

 石花会では会員の証として、「石花名(石花○○)」を名乗ることができる。また、石花会から「石花師」として認められれば、各地でイベントを催したり、ワークショップを開催したりすることが可能となる。いわば、石花師は石花会の模範的な存在だ。

 石花とかんさんはその一人で、渋谷石花会を主宰している。

 「渋谷石花会では、テーマを決めてワークショップを開催することが多いです。たとえば、初心者向けのキットを使うワークショップ。誰にでも、まずは、『一つ立った!』という達成感を味わってもらえるよう、あらかじめ少し細工を施した石のキットを使っています。このキットを使うとみなさんとても早くできるようになるので、石花へのやる気が出てきますね」(とかんさん)

 発足時から積極的にワークショップに取り組んできた石花会。その活動や地域的広がりは、世界的にもめずらしいそうだ。

渋谷石花会のワークショップ風景。黙々と石を立てる。崩れる音がして視線が集まる。誰かが立てた石花をみんなで愛でる。そんな時間があっという間に過ぎる(写真:石花とかん)。
渋谷石花会のワークショップ風景。黙々と石を立てる。崩れる音がして視線が集まる。誰かが立てた石花をみんなで愛でる。そんな時間があっという間に過ぎる(写真:石花とかん)。
[画像のクリックで拡大表示]