2025年に大廃業時代を迎える日本。そのほとんどが中小企業・小規模事業者と言われる。未曾有の危機を救うべく、地域ぐるみで事業承継に向き合うプラットフォーム「ニホン継業バンク」が2020年にスタートした。立ち上げたのは、東京から岡山に移住した一人の男。元タワーレコード勤務のアイデアマンが見つめる地域の未来を紹介する。

金儲けよりも地域の八百屋を救うビジネスがしたい

 後継者未定により、2025年には127万社の中小企業・小規模事業者が廃業する可能性がある。そのうち、約半数の60万社が黒字廃業に追い込まれるかもしれない──中小企業庁が発表した数字は各所に衝撃を与えた。これに対し、同庁では「事業承継ネットワーク」や第三者承継を促す「事業引継ぎ支援センター」などで支援を行う。それでも事業引継ぎ支援センターによる累計引き継ぎ件数は2401件(平成23年度〜平成30年度実績)に過ぎず、まだまだ浸透しているとは言い難い。

中小企業・小規模事業者が直面する課題(出展:中小企業庁 中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題)
中小企業・小規模事業者が直面する課題(出展:中小企業庁「 中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」)
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 中小企業・小規模事業者の事業承継が進まないのは、従来のM&A(合併・買収)のロジックが上手く当てはまらないためだ。M&Aは成功報酬をはじめとする仲介手数料で稼ぐビジネスモデルで、ある程度の譲渡金額にならないと成立しにくい。この時点で、かなりの数の企業が弾(はじ)かれてしまう。時代の流れを受け、最近では小規模向けの手軽かつ低コストによるネットのマッチングサービスも出てきたが、いずれにしろ手数料を介した“売却”が基本。売買という意味では正しいが、本来の意味での事業承継とは性格が異なる。

 このじれったい状況に楔(くさび)を打ちたいとの思いを胸に、2020年1月にスタートしたのが「ニホン継業バンク」だ。おもに全国の人口5万人以下の自治体を対象に、自治体と事業者が一体となって事業承継に取り組むスキームで、M&Aとは異なるソーシャルビジネスを柱とする。立ち上げたのは、岡山市に拠点を置く編集・広告・マーケティングが主業の「ココホレジャパン」。代表を務める淺井克俊さんは東京都世田谷区からの移住者であり、2012年、岡山県瀬戸内市の地域おこし協力隊への参加を機に縁もゆかりもない岡山にやってきた。

 「金儲けよりも地域の八百屋を救うビジネスがしたい」と淺井さん。ニホン継業バンク設立の背景には、ココホレジャパンが手がけていた小規模事業の引き継ぎで四苦八苦した経験も反映されている。もともとタワーレコードで働いていた淺井さんが、いかにしてここにたどり着いたのか。アイデアマンならではの発想力と行動力を、その言葉からあぶり出していく。

自治体との協働で地域の未来を変えるスキーム

以前はタワーレコードに勤務していたとか。

 はい、タワーレコードに9年半勤めていました。「NO MUSIC, NO LIFE.」の制作やブランディングに携わっていたのですが、一方でフジロックフェスティバルでごみ袋を配るなどのソーシャル活動にも力を入れていたんです。その中でNPO法人やNGOとの付き合いが生まれ、「いつかはソーシャルビジネスをしてみたい」との気持ちが湧き上がってきました。

 改めてキャリアを見つめ直すきっかけになったのは東日本大震災。子どもが生まれたり、管理職になったりと自分の環境が変わる中、「ここで生活をシフトしないとこのままだろう」と考え、岡山県瀬戸内市の地域おこし協力隊に参加することに決めました。それが2012年のことです。

横浜市で生まれ育った都会っ子が大胆な決断をしましたね。

 最初は都会から地方を見ていたので、そこにオルタナティブな生き方があるかもしれない、面白そうだなぐらいの認識でした。いずれにしろ地域おこし協力隊の任期は最長3年間だし、起業するつもりで乗り込みました。これまで培った広告やマーケティングのメソッドを使い、少子高齢化の課題に対して解決を図りたかった。そこで協力隊の活動と並行してココホレジャパンを創業したんです。

 実際に来てみると、これまでの常識が通じない部分もたくさんありましたけどね。田舎には広告やクリエイティブな仕事に対する概念がないので、当初は本当に苦労しました。でも、弊社は高品質なコンテンツが売り。多少経済的に辛くても、正当な対価をいただくように努力してきました。初めから安売りを前面に出していたら、ここまで持たなかったと思います。

ココホレジャパン 代表取締役社長	淺井克俊さん(写真:小口正貴)
ココホレジャパン 代表取締役社長 淺井克俊さん(写真:小口正貴)
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2015年には「ままかり」をリボーン(再生)した「ままかRe:Project」を開始。これを始めようと思ったきっかけは。

 ままかりはニシン科の小魚で、酢漬けで有名な岡山の名産品。移住するまでまったく知らなかったんですが、食べてみたらすごく美味しかった。でも周りの人に聞いたら、ままかりは土産物であって日常的にはあまり食べない、食べてもお年寄りがほとんどだと言われて。こうやって埋もれている名産品がたくさんあるんだろうなと思えて、イタリア風に味付けをアレンジし、岡山の可能性の再提案として自社で事業を立ち上げました。

 食べやすく加工し、パッケージも可愛くして、無印良品の通販でも買えるようにしたところ、20代の女性にすごく受けました。ただ、生産や販売が大変で、主業との兼ね合いでそこまでリソースを割けない事情も重なり、ここ数年はずっと事業譲渡先を探していたのが本音です。結果的に2020年4月、岡山県倉敷市のデニム生地会社に譲渡することができました。

なるほど。事業譲渡先を探す経験がニホン継業バンクの構想につながったのでしょうか。

 振り返ってみると、きっかけの一つはそこでしょうね。それから、最近まで定期的に請け負っていた地方創生雑誌の『TURNS』(ターンズ)で継業特集を手がけたことも大きかった。その特集で地域の継業の現実に真正面から向き合い、大変さを知ることができましたから。

 ままかRe:Projectの事業譲渡では、僕自身がM&Aのマッチングサービスを利用して譲渡先を必死に探しましたが、なかなか見つかりませんでした。この事業自体は数百万円の価値しかなく、成功報酬が頼りのM&Aビジネスは成り立たないからです。だけど、岡山周辺にはそんな小規模事業者がたくさんいる。調べるうちに、2025年には127万社の小規模事業者が廃業に追い込まれる大廃業時代がやってくることがわかってきた。そのとき、次に扱うテーマは“継業”ではないかと、ぐっと解像度が上がりました。

ニホン継業バンクがこれまでのM&Aマッチングとどう違うのかを教えてください。

 M&Aマッチングは地方でも最低1億円程度の契約金額でないと扱いません。一般的に1億円で手数料が500万円ですから、それでようやくビジネスが成立する計算。売る以外の選択肢がないから、市場のニーズは多いのに小規模事業者の事業承継を担うプレーヤーがほとんど存在しないんです。僕が利用した小規模事業を扱うネットのマッチングサービスはありますが、これってそもそも地方の高齢の経営者には難易度が高いですよね。サービスの登録や問い合わせに田舎のおじいちゃん、おばあちゃんが自分で対応できるとは思えない。

 だから僕らは、売却ありきではないアプローチを提供しようと考えました。求人でも弟子でもいいから承継者を探して、企業の売買の前段階に介入する方法です。ひとことで言うならニホン継業バンクはM&Aに依らない、地域ぐるみで継業を支援するプラットフォーム。日本には今、1724の市区町村がありますが、そのうちの7割が人口5万人以下と言われています。僕らが救いたいのはこれら5万人以下の小さな地域の仕事です。127万社の約1%、1万2000社の救済をミッションに掲げています。

 このスキームでの顧客は自治体になります。事業者、応募者が無料で利用できるのが特徴です。まずは自治体が年間利用料を支払い、ニホン継業バンクに専用ページを開設。自治体は地域で“継いでほしい人”を掘り起こし、現場に足を運ぶオフラインの面接によって情報を収集します。これでネットに不慣れな高齢者でもスムーズに活用できます。ページに掲載する情報や記事の公開はすべてココホレジャパンが代行し、そのページを見て“継ぎたい人”が照会してきたら、自治体が問い合わせに対応。継いでほしい人に継ぎたい人の情報を伝え、最終的にマッチングを図ります。

継ぎたい人のフロー。高齢者の多い地域の事業者がオフラインで申し込めることにこだわった(出典:ニホン継業バンク)
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継いでほしい人のフロー。高齢者の多い地域の事業者がオフラインで申し込めることにこだわった(出典:ニホン継業バンク)
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ニホン継業バンクのスキーム。左が継ぎたい人、右が継いでほしい人のフロー。高齢者の多い地域の事業者がオフラインで申し込めることにこだわった(出典:ニホン継業バンク)

 これに加え、自治体には事業者向けの啓発用チラシやレポート、詳細な管理画面、開設した自治体同士のコミュニケーション機能も提供します。自治体が熱心に掘り起こしてくれれば、極端な話1000件でも、僕らが記事を書いて公開する仕組みです。こちらもたくさん汗をかくので、自治体の皆さんも汗をかいて事業承継に本気で取り組みましょうという協働のスタンス。もしも1000件の事業承継が実現したら、その地域の未来の景色は確実に変わります。100年後も安泰になるはずです。