ファンの観点から横須賀を見る

コラボ企画の発案はどのような形が多いのですか。

大道企画の生まれ方はさまざまで、コンテンツ事業者の方々からお声がけいただくこともあれば、横須賀市からコンテンツ事業者に企画を持っていくこともあります。最近はこれまでの実績もあって、コンテンツ事業者の方から「横須賀市に持っていったら何か面白いことができるかも」というご認識でお声がけいただき、その結果、企画が成就することが増えてきたように感じています。

 一様に数えるのは難しいのですが、これまでにコラボしたコンテンツ数は、15ほどあります。同じコンテンツで繰り返し同じ種類のイベントを開催するケースもあれば、あるときはグルメスタンプラリー、あるときは声優のトークイベントなどといった具合に形を変えながら展開することもあります。さらには、特定のコンテンツで組んだ事業者から「今度は別のコンテンツで実現できないか」というご相談を受け、別個、企画を進めるケースも生まれています。

小山田たまゆらのように、そもそも作品の舞台が横須賀でしたら、それが直接コラボの切り口となり得ます。最近「聖地巡礼」と呼ばれる動きが見られるように、作品のファンは作品内に登場した場所に行ってみたいと思いますので。

 舞台として横須賀が選ばれているゲームもあります。例えば「シェンムー」というゲームは1986年の横須賀が舞台です。主人公は18歳の男性で、ゲームを進行させる上で(横須賀市内の)ドブ板通りで聞き込みをしたり、横須賀の倉庫街で働いたりすることが必須になります。シェンムーのファンたちにとって、横須賀は第二の故郷のような印象になるのだそうです。

 (筆者注:「シェンムー」シリーズはセガによるテレビゲーム。1999年に第一作目の「シェンムー 一章 横須賀」が同社のゲーム機・ドリームキャスト向けに発売された。1986年頃の横須賀市内のドブ板通りなどがゲーム内の空間として緻密に再現されている)

 リマスター版の「シェンムー I&II」が2018年11月に発売されたことを機に、横須賀市では2018年12月から2019年2月にかけてコラボ企画「シェンムー 聖地巡礼キャンペーン」を実施しました。ファンの方からは「実家に帰ってきたような気分だ」というお声もいただきました。また、シェンムーには海外にもファンが多いのですが、実施期間中には欧州から来日したファンが企画参加店舗に来訪しまして、店舗側も盛り上がりました。

 (参考:シェンムー聖地巡礼キャンペーン

 コンテンツの舞台が架空の世界で、横須賀市を直接的に扱っていなくても、何か共通項があれば企画として成立する可能性があります。横須賀市では2019年と2020年、スマートフォン向けゲーム「アズールレーン」とのコラボ企画を実施しています。記念艦「三笠」は横須賀市の歴史資産でして、この記念艦「三笠」をトリガーにした企画となっています。

横須賀市内の公園・三笠公園内にある記念艦「三笠」。内部は展示館となっており入場可能だ(写真:筆者)
横須賀市内の公園・三笠公園内にある記念艦「三笠」。内部は展示館となっており入場可能だ(写真:筆者)
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企画参加店舗を核にしたリアルなコミュニティーが醸成

アズールレーンとのコラボ企画は、新型コロナの流行の影響を受けてオンラインで完結するイベントとなりました。予期せぬ状況になったわけですが、それでも2019年に実施した前回のコラボ企画の成功を受けて、参加店舗のモチベーションは高いと聞きました。

小山田おっしゃるとおり、 アズールレーンのコラボ企画は、2019年に初めて実施しました。海戦ゲーム「World of Warships」も含めた二つのコンテンツとのコラボ企画として、「『WoWS×アズレン』コラボイベント『三笠大先輩の横須賀散策』」という名称で実施しました。開催期間は2019年4月6日から5月26日でした。

 一方、今年2020年は新型コロナ禍のことを踏まえて、「『YOKOSUKA×アズレン』コラボイベント『三笠大先輩のおうちで横須賀散策』」と題して、アズールレーンとのコラボ企画はオンラインでの開催という形をとりました。こちらの期間は2020年7月4日から8月31日です。

 2019年の企画では声優さんのトークショーやアート作品などの展示、スタンプラリーを実施しました。スタンプラリーは、参加した横須賀市内の11店舗各店で、500円以上の買い物をするとスタンプがもらえるというシステムです。訪問した店舗の数に応じて、特典品や抽選で特別賞品が当たるというものでした。スタンプラリーの実施期間中、延べ約3000人が来店しました。スタンプラリーの総売上高は、概算で1275万円でした。

ファンは各店舗でスタンプラリー分以上のお金を使っているはずですから、店舗にとって約50日間のコラボ企画に参加したメリットは大いにあったと言えそうですね。

小山田ふたを開けてみたら大反響で、ファンが次々と来店してさばききれないこともあったそうです。企画を通じて参加店舗の常連になったファンもいらっしゃったようで、一部のファンが店舗の人と人生相談をする仲に発展したという話も聞いています。

 今夏のコラボ企画の内容としては、アズールレーンの提供元であるYostar側でこの企画用のECサイトをオープンしまして、参加店舗が企画したコラボ商品をそのECサイトで販売する形になりました。ファンの方々は目が肥えているだけに、付加価値が高く、良いと思える商品でなければ、購買にはつながりません。そこで、サブカルチャー班は参加店舗を回りながら、「あえて横須賀の泥臭さを出すようなコラボ商品を企画したらどうか」などとリクエストしました。

 15の参加店舗の皆さんとお話をしていますと、昨年の成功もあって企画への熱い思いが伝わってきました。結果、各店舗によるコラボ商品は、いずれも個性があるものに仕上がったと感じています。Yostarの方々も非常に力を入れてくださって、横須賀の風景を精緻なイラストを使ってアクリルジオラマにした商品を用意していただきました。しかも今回はYostarの方々のご厚意で、このコラボ企画の収益はすべて参加店舗に割り振ることになっています。

 サブカルチャー班は約2ヵ月の準備期間中、主に各参加店舗とYostarとの間の調整を担当しました。この調整という業務がとても大切でして、おそらく、コラボする地域のどこかがこの役割を引き受けないと、コンテンツ事業者側はとても大変ではないかと思います。各店舗からコラボ商品の案を集めてコンテンツ事業者に監修に出したり、その結果を店舗にフィードバックしながらデザインを具体化して商品化にまで持っていったりと、手順を説明するとただそれだけなのですが、そこには必要なノウハウがいろいろとあるのです。

アズールレーンとのコラボ企画で、横須賀市の参加店舗が用意した商品の例(「アズレン公式生放送~三笠大先輩のおうちで横須賀散策 トークイベント配信SP~」配信動画より)。タペストリー、ポーチ、セーラーパーカー、Tシャツ、マグカップなどが並ぶ。このほか受注生産のスカジャン、職人の手によるキッチンナイフなども用意されている。
アズールレーンとのコラボ企画で、横須賀市の参加店舗が用意した商品の例(「アズレン公式生放送~三笠大先輩のおうちで横須賀散策 トークイベント配信SP~」配信動画より)。タペストリー、ポーチ、セーラーパーカー、Tシャツ、マグカップなどが並ぶ。このほか受注生産のスカジャン、職人の手によるキッチンナイフなども用意されている。ECサイトのURLはこちら(画像は配信動画から筆者が取得)
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コンテンツ事業者であるYostarとしても、横須賀市の各店舗と組むことで大きなメリットがあることを実感し、今後もそれが見込めるため、中長期的にしっかりお付き合いしていこうという経営判断があったのでしょうね。

小山田先ほどイベントを通じてお店に通うファンが出てきたというお話をしましたが、店舗という「リアル」な場所に、ファンが集う「リアル」なコミュニティが生まれてきたのは、非常に注目すべき動きだと思っています。

コンテンツ事業者にとっては、企画に参加した店舗をバックアップすることが、自社コンテンツのファンサービスの一つと位置づけられるのかもしれませんね。

 (明日8月27日公開の後編では、オカルト分野の老舗雑誌「月刊『ムー』」とのコラボ話、横須賀市サブカルチャー班のコーディネート秘話を掘り下げます)