マンガ、アニメ、ゲーム。根強い人気を誇る日本発祥のサブカルチャー。このサブカルチャーを地域の活性化に活用しようとするケースが増えている。サブカルコンテンツのファン、コンテンツ事業者、そしてまちの「三方良し」を実現するにはどうしたらいいか。「サブカルチャー+観光」に力を入れている横須賀市のケースを見てみよう(全2回、後編)。

 (横須賀市がサブカルチャーコンテンツとのコラボに力を入れるようになった理由や、これまでのコラボの代表例を紹介した前編はこちら

サブカルコンテンツはその種類が多岐にわたります。幅広い層に受けているポピュラーなマンガやゲーム作品がある一方で、一部のファンだけに異様に受けるディープなものもあります。知られていないコンテンツも含めて、地元の理解と協力はどのように得ているのでしょうか。

横須賀市文化スポーツ観光部観光課サブカルチャー担当の小山田絵里子氏(以下、敬称略)確かに、コンテンツによっては、お店や観光施設の理解が得にくいこともあります。実はスマートフォン向けゲーム「アズールレーン」とのコラボ企画(注:前編参照)は、立ち上げ当初、商店街の皆さんもこのゲームのことをあまり知らなくて、どのようなゲームなのかを説明しながら回りました。ただ、ふたを開けたら大反響で、アズールレーンのファンが次々とお店にやってくるという成果に結びつきました。

 これまでの経験を踏まえますと、サブカルコンテンツとのコラボ企画については、まずは実験的に実施してみて、そこで分かったことをベースに次回はどうするかを考える、というアプローチが適しているように思います。つまり、大きく当たる企画をいきなり狙うよりは、ファンと地域を結ぶコミュニティをじっくり育むつもりで進めていく。そのほうが良い結果を生みそうだと感じています。

さまざまな客層に配慮して中身を設計

アニメやゲーム以外のコラボ企画として、2018年に実施した、老舗オカルト雑誌の月刊『ムー』とのコラボイベントは非常に特徴的ですね。企画の中に、横須賀市内の神社である走水(はしりみず)神社のことや、横須賀の歴史などをうまく絡めており、地方自治体との親和性が高そうです(筆者注:当時の月刊『ムー』の発行元は学研プラス、現在の発行元は学研プラスと株式会社日本創発グループの共同出資会社である株式会社ワン・パブリッシング)。

小山田はい。この企画に関しては、年に数回、他の自治体の方から「どうやって進めたのか」と質問を受けます。

 最初は、オカルト好きな人に向けたオカルトナイトとして考えていたのですが、学研プラス(当時)の方からは逆に「最近、人気がある『謎解きイベント』でどうですか」というご提案を頂きました。教科書的な内容だけでは終わらない横須賀の裏の歴史を紐解きながら、最終的にはムーの“超記者”になる、というストーリーに仕上げました。

横須賀市は2018年、老舗オカルト雑誌「ムー」とコラボし謎解きイベントを実施した。こちらは当時使われた同イベントの中吊り広告(画像提供:横須賀市)
横須賀市は2018年、老舗オカルト雑誌「ムー」とコラボし謎解きイベントを実施した。こちらは当時使われた同イベントの中吊り広告(画像提供:横須賀市)
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 (参考:「【謎解きイベント】ムー×自治体!?横須賀の謎と不思議に挑戦するヨコスカ歴史ミステリー」)。

 アニメ、ゲーム、マンガといったコンテンツにも細かいクラスタ(筆者注:細かい好みが似通った集団のこと)がありますが、「謎解きファン」というクラスタもあって、全国各地の謎解きイベントに足を運ぶ“濃い”人たちがいます。一方で、ペリーに興味がある歴史ファンもいますし、走水神社の御祭神である弟橘媛命(おとたちばなひめのみこと)に興味を持つような日本の神様ファンもいます。

 より多くの方に足を運んでいただくためには、こうした各クラスタの楽しみ方に応えられるようにしなければいけません。ライトなファンも楽しめる一方、ディープなファンも楽しめるようにと、イベントルートの設計にはかなり配慮しました。

 参加した店舗や観光施設も企画にノリノリで、ムーというコンテンツの雰囲気を汲んだ、非常に面白いコラボ企画や商品を用意できました。イベントにはトータルで1000人ほどが参加されました。

コラボ商品はいずれも興味深いものなのですが、例えば日本茶カフェの「茶井」が提供した「ギザのピラミッドワッフル」は、ずいぶん芸が細かいですね。

小山田はい、ちゃんとエジプトにあるギザの三つのピラミッドとスフィンクスを表現するべく、三角ワッフルやバウムクーヘンが配されていました。

ムーとのコラボ企画で提供された「ギザのピラミッドワッフル」(画像提供:横須賀市)
ムーとのコラボ企画で提供された「ギザのピラミッドワッフル」(画像提供:横須賀市)

さすがは1979年から続いている長寿雑誌。「ムー好きな人」が、各店舗にいらっしゃったのかもしれませんね。

ファン、地元、コンテンツ事業者の三方良しをめざす

サブカルコンテンツとのコラボ企画で留意しているポイントはありますか。

同課サブカルチャー担当係長・課長補佐の大道裕氏(以下、敬称略)一つは、スピードです。コンテンツ事業者の側も、横須賀の店舗や観光施設の側も、お互いに「放っておかれている感」が出てくると、企画の成功に向けたモチベーションが低下してしまいます。そこで、サブカルチャー班が双方の状況を把握して、まめに報告することを心がけています。

 もう一つは、クッション役を果たすということです。コンテンツ事業者の方々は作品を扱っている観点からご要望をお持ちで、店舗や観光施設側も日々商売をしている観点から同様にご要望をお持ちです。両者のコミュニケーション不足などですれ違いが起きて、それぞれのご要望を満たせなかった場合には良くない結果を招きかねません。そこでサブカルチャー班が間に入りまして、相互の本意がきちんと伝わるよう調整するようにしています。

 コンテンツ事業者との協業には契約が欠かせませんが、契約の締結などは個人経営のお店にとって事務的な負担にもなりえます。また、コンテンツ事業者は多くの場合、事務所が東京都内にありますので、担当者の方々がしょっちゅう横須賀に来られるわけではありません。したがって、質の高い企画に仕上げるには各店舗・施設に対するフォローが必要です。例えば、「スタンプラリーのハンコはどう運用するのか」といった細かいことへの配慮も欠かせません。地元における様々な調整機能を果たしながら、またそのノウハウをもってコラボ企画の成功に向けて関係者を支援するのが、サブカルチャー班だと言えます。

「観光課」の立場から重視していることはありますか?

大道観光客に横須賀市内の各店舗や観光施設でお金を使っていただくことです。もちろん作品のファンの立場で考えてみますと、コンテンツと十分にリンクしている面白い企画内容であるかどうかが一番のポイントになります。横須賀でコラボ企画を推進する以上は、ファンが喜ぶサービス精神に溢れた中身に仕上げて、ファンの方々も、地元の店舗や観光施設も、コンテンツ事業者も、それぞれきちんとメリットが得られるものにしたい。それが、サブカルチャー班としての思いであり、めざしているところです。

 今、私たちサブカルチャー班が描いているビジョンの一つに、「横須賀市の店舗や観光施設などのグループが自主的に集まって、コンテンツ事業者と一緒に盛り上がっていく動きをバックアップする」ことがあります。言い換えますと、地元の店舗や観光施設の皆さんから「今回はこういう企画をやるので、参加する店舗は集まってください。コンテンツ事業者さんと連絡を取りましょう」などと企画が持ち上がり、その後でサブカルチャー班に声がかかるのが理想的だ、ということです。というのも、行政側による旗振りの色合いが強まってしまうと、押しつけのニュアンスが出てくるおそれがあるからです。行政は立場上、できることや関われる範囲には限度があります。

 実は、アズールレーンとのコラボ企画については昨年の反響を受け、今年も店舗の皆さんから「アズールレーンとコラボしたハロウィーンイベントをやろう」という企画の話が持ち上がったのです。サブカルチャー班の手を離れて、地元商店街が地元を盛り上げる起爆剤を生み出す形に大きく化ける見込みでした。それが、新型コロナ禍の影響で内容の変更を強いられたことは非常に残念でなりません。

こうしたハードルを乗り越え、さらに地元がコンテンツ事業者とうまくタッグを組めれば、ファン、地元、コンテンツ事業者の三方良しの姿がますます進んでいくと思います。

愛が重要

ところで、サブカルチャー班は市役所内ではどう受け止められているのでしょうか。

大道ゲームやアニメに仕事で関われる職場はなかなかないため、市役所内では人気のある部署だと認識しています。班のメンバーは皆、やりがいをもって業務に従事していると思います。

小山田「ムー」とのコラボ企画は、上地(克明)市長に何か言われるかと心配しました。しかし、そうしたことはなく、上地市長も意外にムー好きだったようです。

小山田さんは、サブカルがお好きなんですね。

小山田はい。ゲーム、アニメ、マンガが大好きでして、「東京ゲームショウ」などにも趣味と本業を兼ねて足を運んで、名刺を配りながら、横須賀市ではこういうご支援ができますと説明しています。普段からアンテナを張っておいて、横須賀市とコラボできそうな作品を見つけたら活動を紹介する、ということを繰り返してきました。最近では、過去にお話を差し上げたご縁で、具体的なご相談に発展するケースも増えてきました。

サブカル好きな小山田さんが、サブカル班の取り組みの中で大事にしていることはなんでしょう。

小山田何よりも、コンテンツの世界観を壊さないことです。ひいては作品への愛ですね。いかに作品への愛をもって、横須賀というまちと組み合わせていくかがポイントだと思っています。やっぱり愛がないと、良い内容には仕上がりません。私が知らないコンテンツのコラボ企画が立ち上がってきた場合、そのコンテンツのどこか面白いのか、何が受け入れられているのかを考えて、好きになれるように追求します。

 横須賀はとんがった雰囲気を備えていて、ゲームやアニメなどの世界との親和性が高く、ポテンシャルがあるまちです。ぜひこれからもいろいろな方々にお声がけいただければと思っています。