つくりたかったのは私設の公民館

 株式会社グランドレベルがめざすもの。その象徴的存在が、東京・墨田区にある「喫茶ランドリー」だ。

喫茶ランドリーが入るビルの外観
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 株式会社グランドレベルを立ち上げようとしていた時期に、田中さんはある不動産コンサルタントから、築55年の3階建ての空きビルをリノベーションするにあたって、1階ではどんなことをしたらいいだろうかという相談を受けた。

 田中さんは、周辺に住んでいる人の属性や立地条件などを鑑みて、ランドリーとカフェを併設した「ランドリーカフェ」を提案する。ハイレベルの洗濯機を備え、洗濯の待ち時間や、単純にカフェ利用としてもくつろぐことができる場所だ。

 「まちを見渡すと人の気配はほとんどないんですが、実は、住んでいる人も働いている人もけっこういるんです。このビル自体もハンサムなので、カフェをやっている知り合いにあたればすぐに業者も決まると思っていました。ところが、飲食の専門家からみると、立地が悪いということで出店を断られてしまったのです。出店者がいないなら自分でやるしかない、と始めたのが今の喫茶ランドリーです」

デンマーク・コペンハーゲンで見た「ランドロマットカフェ」のように多種多様な人々が集えることを意識した内観
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ちょっとしたアイロンがけや縫い物をしにくるご近所さん、子連れのママさんたちの集まり、町内会の寄り合いなど地域のお客さまだけでなく、わざわざここをめざしてくる人もいるという。この日は、テレワークの男性が1人黙々と仕事をしていた

 店内に入ると開放的なテーブル席があり、その奥には「家事室」と呼ばれているランドリーブース、左手には半地下のもぐら席、一番奥には株式会社グランドレベルの事務所として機能する一角があり、中央のレジまわりには本やレコード、物販コーナーが置かれている。

 「私は当初、喫茶店の経営にも、コインランドリーの経営にも興味はありませんでした。人が集まることができて、使い続けてもらえる。それができたら、そこから何かが生まれていくと思いました」

 同時に、コペンハーゲンにある『ランドロマットカフェ』で見た風景が蘇っていました。おしゃれなカフェなんですけど、ランドリーが併設されていることで実にいろいろな人がやってくる。それがいいなぁと思って。でも、喫茶ランドリーはスタイリッシュになりすぎないようにしています。『大きな声を出しちゃいけないんじゃないか』『子ども連れは入れないのかな』なんて萎縮してほしくなくて。でもダサいと人は振り向いてくれないですよね。いろいろな人が愛着をもてるデザインをイメージしたら、雑多な空間になっていきました」

ランドリースペースは排水のために、喫茶スペースより床を高くしている。それは外からも洗濯機が見えるデザインにもつながっている
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 「最初は喫茶店として気軽に来てもらって、ランドリーも使えることに気づいてもらう。ランドリーがあるという評判が広まれば、ママたちが乾燥時間にちょっとお茶しようと喫茶を利用してくれる。場所は人に刺激を与えますから。もしかしたら私にも使わせてもらえそうかなとか、ここでイベントをやったら楽しいんじゃないかとか想像するようになってもらえたら、それを私たちも応援し、実現させていくんです。禁止事項満載の公営公民館とは違って、人のやりたいエネルギーが積み上がっていくような、私設の公民館をめざしているんです」

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最初は利用者だったというご近所の桑原さおりさん。今や売れ筋となった人気カレーの開発者でもある。喫茶ランドリーに立つ日は、息子さんが小学校からここに帰ってくる