日本には江戸時代から、日常生活の中で自然に生まれた庶民のコミュニティがあった。共同井戸の周りに集まって、洗濯の合間に主婦がさまざまな情報交換を行う井戸端会議だ。現在、その共同井戸の代わりをコインランドリーが担おうとしている。とはいえ、コインランドリーを設置するだけで自然とコミュニティが立ち上がるわけではない。福岡市の六本松エリアで、コインランドリーを中心として食や文化の交流を目的に集まってくる人たちに、公民館のようなコミュニティの場を提供しようとしているのが「裏.六本松プロジェクト」だ。

最初から“裏”のまちをつくる

 福岡市中央区にある六本松エリアは、2009年に移転するまで九州大学のキャンパスがある学生街だった。その跡地はUR都市機構が中心となり、法曹地区と住宅地区からなる複合的な都市計画が進められ、高層マンションや飲食・雑貨店が入る複合施設などが完成した。再開発された六本松エリアは、新制九州大学の発足によって1950年に閉校となった旧制福岡高等学校の同窓会「青陵会」の名前を残した「青陵の街・六本松」として、幅広い年齢層が住む新たなまちに生まれ変わっている。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
かつて九州大学六本松キャンパスの正門近くに立っていた「青陵乱舞の像」は、まちの歴史を引き継ぐシンボルとして地下鉄六本松駅近くに再建された(左)。六本松には、学生街の名残をとどめる一角もまだ多い(右)(写真:元田 光一)

 地下鉄七隈線六本松駅の目の前に広がるエリアには、福岡市科学館や九州大学法科大学院、スーパー、蔦屋書店などが入る複合商業施設「六本松421」が建つ。このような六本松の表の顔となる施設から東に数分、学生街の名残を残す下町感あふれる場所に2020年5月に建てられたのが、木造2階建ての小さな商業施設「裏.六本松プロジェクト」だ。

 オーナーの松島凡氏はもともと六本松で生まれ、東京の大学に進学。その後は都内で就職し、本の流通などに携わってきた。長年勤めた出版流通会社を退職後、55歳で六本松に戻ってきた松島氏が駐車場になっていた生家の跡地に作りたかったのは、コインランドリーを中心とした大人が集まれるコミュニティスペースだ。

 「都内にある裏原宿や裏神楽坂のようなエリアは、表通りが一通り発展した後に人々が新たな刺激を求めてできたものなので、裏通りが栄え始めるまでに長い時間がかかります。そして、表通りの繁栄が一巡りした後には、サブカルチャーや思いもよらないビジネスが展開され、やがて地元の文化として裏のまちが定着します。だったら、六本松には最初から“裏”のまちを作って、そこで少々毛色の違ったことをやってみたいと思いました」(松島氏)

「裏.六本松プロジェクト」は木造2階建ての建物にコインランドリーや本屋、カフェ、フレンチレストランなど衣と食を満たしてくれる商業施設だ(写真:元田 光一)
[画像のクリックで拡大表示]