約1万2000ヘクタールの竹林面積を持つ山口県。この広さは全国で4位という(出所:林野庁「森林資源の現況」)。その山口県の西部、周防灘に面する宇部市に、世界的に見ても珍しいという竹の総合施設がある。「竹で地域を元気にする総合施設」のコンセプトを掲げ、竹に関連する事業の立ち上げ支援や竹にまつわる情報を発信。それにとどまらず、地元の団体と連携し、地域の文化やコミュニティの継承にも力を入れている。

 「竹LABO」と名付けられたこの施設は、2020年2月29日にオープンした。竹関連事業者向けのインキュベーション施設、シェアオフィス、竹製品のミュージアムや共同工作室などで構成するこの施設、立ち上がり時期にちょうど新型コロナウイルス感染症の拡大が直撃したものの、すでに12の事業者が入居。竹分野の事業者からの問い合わせや見学希望の声、工芸家やアーティストからの商品展示の相談が後を絶たないという。

 インドやインドネシアなど、海外からの問い合わせも相次いでいる。2021年からはコロナウイルス感染予防対策を施したうえでの見学枠を設け、市民向けの竹楽器製作ワークショップなども計画している。

 施設の運営にあたり、地元の宇部市および市内の小野地区の“文脈”を尊重していることも特徴だ。旧小野中学校の校舎をそのまま活用。かつて小野地区で盛んだった和紙作りの伝統を次世代に引き継ぎたい住民たちと連携しながら、竹と紙すきを題材とした総合教育の提供にも力を入れている。

竹LABOの外観。旧小野中学校校舎をそのまま活用している(写真提供:竹LABO)
竹LABOの外観。旧小野中学校校舎をそのまま活用している(写真提供:竹LABO)
[画像のクリックで拡大表示]
竹LABOのエントランスには竹LABOのスタッフや地元の協力者らの手による、竹を使った装飾が施されている(写真撮影:筆者)
竹LABOのエントランスには竹LABOのスタッフや地元の協力者らの手による、竹を使った装飾が施されている(写真撮影:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]

 竹LABOの総合監修および運営受託を担うのは、宇部市と地域の任意団体「小野元気プロジェクト」からの委託を受けたベンチャー企業、エシカルバンブー。山口県と東京都内に拠点を置き、竹を原料とする洗濯用洗剤などを開発・販売している。SDGs(持続可能な開発目標)が話題になる中、健康や自然環境保護に関心を持つ顧客層を獲得し、コロナ禍の中でも前年に比べて売り上げが伸びているという。

 この竹LABOが立地する山口県宇部市では以前から、市政として竹を有効活用する方法を模索していた。その流れの中で2019年2月、「竹資源の利活用に関する連携協定」をエシカルバンブーと締結。竹製品の企画・開発ノウハウを有するエシカルバンブーと連携し、竹関連の情報発信、竹を活用した事業や製品の創出、竹林保有者および関連事業者に対する支援などに取り組むというのが、この連携協定の趣旨である。

 竹LABOは連携協定をベースに企画された施設である。エシカルバンブーは竹LABOの総合監修および運営を受託するほか、自らも入居企業の1社として竹LABO内に生産設備を持つ。

 それでは、施設の中身を見ながら、人、地域、産業の新たなコラボレーション形態のヒントを探ってみよう。

宇部から世界に竹の価値と魅力を発信

 竹LABOのコンセプトは、「竹で地域を元気にする総合施設」。冒頭でも触れたが、宇部市小野地区にあった小野中学校(統合により2016年3月に廃校)の校舎をほぼそのまま流用している。1995年に建てられたという鉄筋コンクリート3階建ての校舎は十分にきれいで、足を踏み入れても違和感はない。

 この竹LABOはいくつかの機能を提供する。一つは、竹分野の事業を手がける事業者向けのインキュベーション機能である。竹で新たな製品を開発したい、事業を立ち上げたいという竹に関心のある事業者を竹LABOが受け入れてサポート。竹製品の企画・開発、市場開拓や拡販を支援する。

 もう一つはマッチング機能だ。竹分野の専門事業者や研究者と、大手・中小企業の事業開発担当者などをマッチングし、協業を促す。異分野の人材や事業者同士をつなぐことで、竹の新しい活用方法の創出、あるいは規模感がある成長事業へと昇華させることをねらう。

 総合監修と運営を受託しているエシカルバンブーは、竹を使った洗濯用洗剤や消臭剤、竹繊維のタオルといった商品の開発・販売を通じて、マーケティングや販路開拓の経験を積んできた。この経験を通じて事業者のサポートを進めていく。2020年12月時点で、12の事業者が竹LABOに入居しており、事業の立ち上げや新商品の開発に取り組んでいる。

 前述の通り、エシカルバンブーも入居企業の1社として竹LABOを利用している。同社はここに竹を原料とする消臭剤・抗菌剤の生産設備を置いた。商品開発と技術検証、特許の取得は終了しており、2021年中にも販売を始める計画だ。また、竹の研究を手がける研究機関や大学と連携しながら、抗菌効果など商品のエビデンスを得る作業も進めている。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
エシカルバンブーの主力商品、洗濯用洗剤の「バンブークリア」(左)と、虫除けなどに使うアウトドアスプレーの「バンブーミスト」(右)。いずれも竹を原料とし、健康や環境問題に関心を持つ顧客層のニーズに応える商品特性にしたことが特徴。例えばバンブークリアは竹炭、竹炭灰、工場のある土地の湧き水のみで構成していながらも、洗浄力を確保したという。エシカルバンブーは地元で長く竹炭の窯元を運営してきた住民の知見と協力関係により生まれた商品だとする。「原料である竹の伐採、商品の企画・製造・検品、そして販売に至るプロセスを自社で一貫して担うことで、製品の品質確保に努めている」(エシカルバンブーの田澤恵津子社長)(写真提供:エシカルバンブー)
宇部市に本拠を置くデザイン会社のオープンハウスも竹LABOに参加している。同社は竹を素材に活用した自転車の製造を進めている(写真撮影:筆者)
宇部市に本拠を置くデザイン会社のオープンハウスも竹LABOに参加している。同社は竹を素材に活用した自転車の製造を進めている(写真撮影:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]

地元の紙すき文化を、竹を交えながら引き継ぐ

 「竹で地域を元気にする総合施設」というコンセプトの通り、竹LABOは宇部市小野地区との連携を重視している。

 小野地区はかつて「小野和紙」とも言われる和紙作りが盛んだった土地。この旧小野中学校校舎にも紙すきの設備が常設されていた。竹LABOはこの設備を流用し、地域の小中学校を対象とした、竹と和紙作りを通じた総合教育の受託事業にも力を入れている。「小野地区振興対策委員会」など、地域振興に熱心なボランティア団体とも協力していることもポイントだ。

 内容は紙すきを題材に、和紙の原料となるコウゾや竹といった地域の自然資源、また伝統文化に関心を持ってもらい、さらにはSDGsにも結びつけて、地域の価値や課題を総合的に理解してもらおうというものだ。エシカルバンブーの田澤恵津子社長は、「児童や生徒の皆さんは、周りにある自然環境や地域のことに目を向けるようになってくれた」と語る。

 コウゾと竹繊維を組み合わせた新しい紙素材作りも模索している。竹LABOのスタッフ、小野地区の人々、そして地元の宇部高専の学生と手を組み、新しい活用方法のアイデア交換を進めているという。

もともと小野中学校では、小野地区で盛んだった和紙製作が授業の一環として展開されており、校舎には紙すき専用の部屋が用意されていた。竹LABOではこの設備を活用し、小野地区の人々と連携して、小中学校の総合学習向けの体験授業も提供している(写真撮影:筆者)
もともと小野中学校では、小野地区で盛んだった和紙製作が授業の一環として展開されており、校舎には紙すき専用の部屋が用意されていた。竹LABOではこの設備を活用し、小野地区の人々と連携して、小中学校の総合学習向けの体験授業も提供している(写真撮影:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]
竹LABOで試作に取り組んでいる和紙のサンプル。一番右が竹繊維100%の和紙。竹繊維とコウゾの割合を変えながら和紙を作りつつ、小野地区の人々や宇部高専の学生とともに新しい活用方法を模索している。対話の中で、アクセサリーの部材として活用するアイデアなどが出ているという(写真撮影:筆者)
竹LABOで試作に取り組んでいる和紙のサンプル。一番右が竹繊維100%の和紙。竹繊維とコウゾの割合を変えながら和紙を作りつつ、小野地区の人々や宇部高専の学生とともに新しい活用方法を模索している。対話の中で、アクセサリーの部材として活用するアイデアなどが出ているという(写真撮影:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]