地域との調和を重視

 このように竹LABOは、宇部市および小野地区との調和を重視している。31の部屋がある元中学校の校舎を活用することがその表れの一つだ。竹LABOの運営を担うエシカルバンブーは新商品の製造拠点を理科室に置いているが、水回りの設備や残されたビーカーなどが製品の試験や開発に有効活用できているという。

 エシカルバンブーの田澤社長は「コストを抑えることや資源を無駄にしないという観点はもちろんだが、小野中学校の資産をなるべくそのまま活用することで、卒業生をはじめ地域の方々の生活や在り方を尊重したいと思った」と語る。

小野中学校の卒業生の作品をオーナメントに活用したり、教育用に使われていた紙すき作業の説明パネルなどをそのまま保存したりと、可能な限り資産を活かしているという。「ものを無駄にしないというのが昔からの日本人の考え方でもあるし、また、この土地に敬意を払いたいという思いもある」(田澤社長)(写真撮影:筆者)
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竹製品を総合的に集め、竹の情報を発信

竹のミュージアムに置かれた「竹チェロ」。竹の音楽ユニットである「竹凜共振」が設計・製作した。竹LABOでは2021年度内にも竹チェロ製作のワークショップを開始する予定という(写真撮影:筆者)
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 竹LABO内の「総合展示室」や「竹のミュージアム」を中心に、竹関連の品が多数設置されている。竹かごやざるなどの竹を活用した日用品や工芸品はもちろん、生け花の講師による竹をメインに使った作品、あるいは尺八や「竹チェロ」など、竹を素材に使った楽器もある。

 竹の専門家からの期待感は強く、「この施設を通じて、日本の竹文化を広く伝えてほしい」との応援メッセージが複数届いているという。竹を総合的に扱う専門施設は世界的にも珍しく、インドやインドネシアなどから「竹LABOを見学したい」という問い合わせもあったという。

生け花・草月流の講師による竹を使った作品(写真撮影:筆者)
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こちらは竹LABO内で製造された竹楽器の例。竹楽器のオーケストラなどで使われる。山口県は竹楽器のオーケストラが4団体(所属者は合計100人程度)あり、その規模感は全国の自治体の中でも随一という(写真撮影:筆者)
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尺八や竹のパンフルートなど竹による管楽器も展示されている(写真撮影:筆者)
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竹関連製品の展示の一つとして、竹を利用したLEDキャンドルホルダー群を別の部屋に配した。竹に穴を開けて照明を灯す「竹あかり」の制作・プロデュースを手がける熊本県のグループ、「CHIKAKEN(ちかけん)」のデザインによるもの。販売商品の製造は竹分野の製造事業者で、同じく熊本県の企業、グリーンネクサスが手がける。障がい者の雇用を進めており、このホルダーの製造には障がい者が従事している(写真撮影:筆者)
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地域の竹を利活用し、「竹の良き循環」をめざす

 竹LABOでの活動で原料とする竹は、基本的にすべて宇部市小野地区など近辺で伐採された竹だという。「竹の地産地消に力点を置いている」と田澤社長は語る。

 近年、「竹害(ちくがい)」という言葉がある。かつて日本でも盛んだった日用品や建材、食用にするタケノコのために植えられた竹が、時代の変遷とともに管理者不在となり無法に繁殖、その結果、里山、住宅地、農地、電力や鉄道などのインフラ設備、河川などへと侵入している状況を指す。処理が難しく、難儀している地域も少なくない。

竹LABOのディレクターを務める、エシカルバンブーの田澤恵津子社長(左)と、竹LABOの活動に自治体の立場から協力している、山口県美祢農林水産事務所森林部の宮﨑清主任(右)(写真撮影:筆者)
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 「竹が多い地域では、自治体や地域の住民団体などが竹の伐採を進めている。だが、人手不足やコストの問題、そして竹ならではの繁殖力の強さと堅い材質が相まって、思ったようには進んでいないのが現状だ」。山口県美祢農林水産事務所森林部の宮﨑清主任はこう語る。

 一方、京都・嵐山の「竹林の小径」のように、芸術としての評価が高く、観光資源としても注目されている竹林も存在する。「こうした竹林は、手間暇をかけてきちんとメンテナンスしている」(宮﨑氏)という違いがあるのだ。

 そこで竹LABOでは、竹を使った事業を育成しながら「売れる竹製品」を市場に送り出し、得られた収益が小野地区に還元される流れを構築することで、この小野地区に美しい竹林をつくるという構想を描いている。

 竹は従来、かごなどの生活用品や建材、食用(タケノコ)として長く活用されてきたものの、20世紀後半にプラスチックなどの新素材が普及し、活用の場が大きく減った。近年、天然素材の利活用で改めて注目が集まりつつあるものの、従来の用途以上のものは見いだせない状況が続いていた。

 一方、竹の素材としての可能性に着目して商品開発や市場開発に取り組んでいたのが、田澤社長が率いるエシカルバンブーである。

 竹由来の抽出液には抗菌効果や消臭効果などが確認されている。エシカルバンブーでは竹の活用方法を探求してきた研究者や竹炭職人らと連携しながら、竹炭や竹炭灰の洗浄機能を活用した洗濯用洗剤「バンブークリア」、虫除けなどに使えるアウトドアスプレー「バンブーミスト」、竹繊維を織って作られた「竹のやわらかタオル」などを開発、こだわりを持つ顧客層をターゲットに据え、新たな“竹ユーザー”を開拓してきた。

 「当社の商品の大部分はリピーター。健康志向の美容室、セレクトショップ、産婦人科などを中心に、商品のコンセプトに共感していただける販売代理店を開拓していった結果、ファンと言えるお客さまを獲得することができた」(田澤社長)。2020年12月時点で蔦屋グループ、イオングループ、大丸下関店など全国200店舗以上で販売されているという。竹LABOの運営には、同社が培ってきた竹分野のマーケティングノウハウを全面的に持ち込んでいるとする。

竹の利活用モデルを日本各地に発信

 コロナ禍が企業に与えている影響は、業種業態などの違いにより差異があるが、エシカルバンブーでは毎月の売上高が前年同月比で伸びているという。田澤社長は「コロナ禍によって外出の機会が減り、自宅で過ごす時間が増えている。洗剤など身の回りのものの質に問題意識を持った人々に支持されているのではないか」とみる。

 竹LABOの運営受託事業者であるエシカルバンブー自身、自社の竹事業をさらに発展させるべく、新たな取り組みを進めている。2021年中にも、宇部市内で竹繊維の工場を稼働させる計画だ。竹LABOから徒歩数分の場所にある元ソーイング工場の建物を転用する。

 タオルなどの竹繊維製品の生産技術は現状、日本よりも中国が先行している。その都合上、竹タオル商品を開発・販売しているエシカルバンブーも、これまでは中国の工場に製造を委託していた。中国産の竹を原材料とする中国生産から、竹LABOでも掲げる「竹の地産地消」へのシフトをめざして模索していたところ、京都府内で小規模ながら竹繊維の製造を行っていた事業者の存在を知り、エシカルバンブーがその事業を承継することになった。その事業者の設備、人材、ノウハウを足がかりとし、早期の立ち上げをねらう。

エシカルバンブーの自社設備で試験的に製造した竹繊維(手前左)や、竹繊維を使った紡績やタオル、ニットなどの試作品(写真撮影:筆者)
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 「竹取物語」を代表に、日本の伝説や神話にはしばしば竹が登場する。同じ山口県で、近年は「インスタ映えする」として有名な観光スポットの「別府弁天池湧水」は、仙人とおぼしき老翁が地面に差し立てた竹を抜いたところに湧き出てきた、という言い伝えがある。それほどに、日本文化と竹の親和性は高い。

 ひるがえって、先にも触れたように、日本各地で散見される竹害を抑え、竹林を美しく整えるには、人手の介入、つまりしかるべき投資が欠かせない。日本各地の竹資源がそれぞれの地域でうまく循環される仕組みができれば、竹害だけでなく産業振興やまちの活性化など、地域が抱えるさまざまなテーマが解決していくのではないか──。これが、竹LABOで描いているビジョンの一つだという。

 「竹LABOは有り難いことに、全国、また海外からも注目を集めている。とはいえ、竹LABOだけで実現できることは限られている。竹LABOを拠点に、まずは山口で竹の利活用のモデルを確立し、それを日本各地へと発信していきたい」(田澤社長)。

 竹LABOは2020年2月末のオープン以来、事業者などからの団体見学の希望が絶えなかったが、新型コロナ感染症の予防のために、基本的には断り続けてきた。今後は事前予約枠を設け、感染予防対策を施したうえでの団体見学希望を受け付ける予定だという。