富山市の中心部に古くからある商店街。多くの店がシャッターを下ろしてしまった商店街だったが、その場所で再び、あらゆる世代の人々を呼び戻す一端を担っている店がある。2014年にイベントスペースとしてオープンし、紆余曲折を経て、2020年にミニシアター、ライブホール、カフェの複合施設としてリニューアルされた「ほとり座」だ。その創業者であり、運営を行っているのは、株式会社EVERT(エヴァート)代表取締役の田辺和寛さん。店を始めたきっかけや現在に至る過程、そしてそこから発信していきたいことは何か。田辺さんがめざすまちについて聞いた。

個性の無秩序な集まりが、まちを豊かにしていた

 富山市民の足として愛されてきた路面電車。2020年3月、富山駅を境に南北に分断していた路線が駅構内で接続することで一本化された。日本で初めて実現された接続工事は、世界的にも注目を集めたそうだ。その路面電車の沿線、中町(西町北)駅の近くに、ほとり座はある。

 中町(西町北)駅を挟んで、2つのアーケードが東西に延びている。西側には、チェーン店やファストフード店などが新しくオープンしてにぎわう「総曲輪(そうがわ)通り」。東側には、空き店舗が増える一方の「中央通り」と対極な商店街だ。現在、ほとり座は総曲輪通りにあるが、2014年、その始まりは中央通りからだった。

 「中央通りにあるビルの2階で、最初はイベントスペース『HOTORI』としてオープンしました。僕は富山育ちなんですが、昔の富山は、買えないブランドがないと言われたくらいアパレルの発達したまちで、レコード屋とか古着屋とかもたくさんあって、わざわざ他県から買いに来る人もいるほどだったんです。それに、クセのある店主が立っていたり、店員さんからモノだけじゃなく人との付き合い方を教えてもらったり、人間味のある個人店がたくさんありました。そういう人や店の個性が無秩序に集まっていたからこそ、昔の商店街というのは活気があったのだと思います」。代表取締役の田辺和寛さんは語る。

 田辺さんはDJとして音楽活動をするため、2001年から10年間、東京で暮らした経験がある。そのとき、多くの人が仕事や夢のために東京へ出るという生き方に違和感を抱くようになったという。また、YouTubeやSNSなどがどんどん発達したことで、地方からでもおもしろいことを発信していく力は持てると気づき、2011年、活動の拠点を富山に戻した。一度、県内のイベント企画会社に就職するが、自分が思い描く活動を自由にやれないもどかしさから、起業を決意。「HOTORI」が誕生する。あえて空き店舗の多い中央通りを選んだのも、「ほぼ更地のような状態なら、自分の色を出しやすい」と思ったからだそうだ。

小さなスペースから、予期せぬ交流を繰り返して発展

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HOTORIで行われたライブイベント(左)と、オーガニックマルシェ(右)の当時の様子(写真提供:ほとり座)

 「HOTORI」の開業資金は5万円。カウンターとDJブース、丸椅子40脚を用意したシンプルな店で、2人体制で運営を始めた。最初は音楽がメインのイベントスペースだったが、トークショーだったり、室内型のオーガニックマルシェの開催だったりと幅を広げたことで、お客さんからの認識も次第に変化していったようだ。

 「だんだんイベントスペースというより、『カルチャー的なものを発信している場所』という認識に変わっていったようで、他のイベントから出店の誘いを受けたり、政治の討論会を開きたいというオーダーがあったり、自分が予期してなかった展開も舞い込むようになりました。なかでも驚いたのは、なんの前触れもなく、映画の仕事をやってみませんかと誘われたことでした」

 「2016年2月のことだったんですが、公設民営方式で運営している、富山で唯一のミニシアターだった『フォルツァ総曲輪』が、行政の年度予算の打ち切りによって同年の9月いっぱいで閉めなければいけなくなった、と。でも、まちから文化を簡単に消していいわけがない、ミニシアターという文化を引き継いでもらえないか、という熱い想いをフォルツァ総曲輪のスタッフさんからぶつけられたんです」

 田辺さんは、「自分の思うように映画の仕事ができるのであれば、興味があります」と二つ返事だったそうだ。HOTORIで映画館をやるとなると、客席は置けても20席まで。小規模ではあるが、効率よくお客さんを呼べればやっていける。その計算が立つと、さっそく事業計画書をつくり、「はちどりBANK@とやま」というNPOバンクから借りた300万円を資金に、「カフェのなかで観る映画」というコンセプトで、シネマカフェ「ほとり座」を2016年11月にオープンさせた。

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映画の機材や椅子などを設え、完成したシネマカフェ「ほとり座」。上映だけでなく、トークショーも行われた(写真提供:ほとり座)

 「実際に運営してみると、人気タイトルによっては満席で観られない人が出てきたり、劇場が2階ということもあってシニア層の方が来づらいということがわかってきました。それに、ショッピングモールに行くことが多い若者にとっては、個人店って敷居が高いようで、いらっしゃるお客さんが中間層の方に偏ってしまったんですね。映画は大衆文化ですから、もっと幅広い年代の人に観てもらいたくて、出張上映というのを始めてみました。公民館、地区センター、港にある漁師の施設などに出向いて、その場でセットを組んで、映画を上映するというものです」

 「そうしたら周りの方たちがおもしろがってくれて、次第にコラボ上映会に形が変わっていきました。広い劇場をもつ『オーバード・ホール』さんから声をかけてもらって、600人を超えるお客さんを動員したこともあります。その数はどのシネコンにもない席数なので、同時に観る室内映画としてはかなりの動員数を記録したことになります」

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さまざまなまちの施設で行われた出張・コラボ上映会(写真提供:ほとり座)

 ほとり座を始めた翌年から、同じビルの1階でカフェの運営も始める。さらに2018年には、株式会社エヴァートを立ち上げて法人化。次第にスタッフも増え、着実に成長していった2019年、またも転機が訪れる。ミニシアター系の作品の上映は、ほとり座が引き継いだものの、フォルツァ総曲輪の劇場そのものはクローズされたまま富山市が所有していた。その劇場を再び稼働させたいという話が動きだしたのだ。

 「劇場の指定管理業者に認定された富山市民プラザさんから、『自分たちには施設運営のノウハウはあるけれど、映画館の中身をつくるノウハウはないから、エヴァートが指定運営業者として受け持ってくれないか』という話をいただいたんです。そこで、フォルツァ総曲輪の跡地(ウィズビル4階)にほとり座を移転することになりました」

 それが2019年12月に決まり、2020年の3月にオープンする予定で準備をしているなか、新型コロナウイルスの影響を受けた。新ほとり座は、2020年4月になんとかオープンできたが、もともとの中央通りの店舗はほぼ休止状態に。1階のカフェスペースを、週末だけや貸し切りの利用などで、時短で営業している。

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総曲輪通りの新しいほとり座は、92席の1スクリーンで上映する(写真提供:ほとり座)