学生時代の体験が後押しした長岡での「居場所」づくり

 田中さんは学生時代から、さまざまな活動を通して自分がいる地域と関わってきた。高校時代には、学校があった場所の特産物だった白ナスの普及を考えたという。食用ではなく未熟果が仏壇の供え物として利用されていたのだが、これを食用に普及させるための研究を学校の活動で行い、農家と深い関わりを持つきっかけとなった。その後は、新潟が作付面積日本一である枝豆をPRする毎年開催のイベントで、2019年には1万2,000人を動員した「世界えだまめ早食い選手権」(2020年は新型コロナウイルスの影響により中止)にも携わっている。

 実は新潟市出身である彼女が、長岡に「居場所」を作りたいと考えた大きなきっかけは、大学時代の経験だ。市内の大学の3年次に、長岡市の事業に学生委員の一人として関わったのだ。2011年に長岡駅の近くにオープンした学びと交流の拠点「まちなかキャンパス長岡」を学生に活用してもらうためのイベントの企画で、施設PRのための動画も作成した。市内の学生バンドにテーマソングを作ってもらったり、動画に登場する男女をコンテストで選出したり。10社ほどの協力を仰ぎ、コンテスト参加者にはブライダルファッションをまとってもらい、ファッションショーとしても楽しめるようにした。「学生なので実現しにくい事情もあるだろうことも関係なしに、あれこれやりたいと希望を出していました。でも、それを全部できるよと言ってくれた市の職員の方がいて。そういう人になりたい、またその方と一緒に仕事をしたいと思ったのが、今の活動につながっています」(田中さん)

 「ひらく」という場を通して、利用者には新しい仕事のつながりも生まれている。

 同施設では、SNS(交流サイト)で公募をかけ、一角に置かれた棚で手作りの品々の委託販売を行っているのだが、ここで初めて自家焙煎したコーヒーの販売を始めた「南のコーヒー」は柏崎の和菓子屋の目にとまり、和菓子とコーヒーのコラボレーション企画につながった。

入口近くの一角には、手作りの品々の委託販売をする棚も置かれている。ここで初めて販売を始め、自身の活動を発信する人も(写真:大塚 千春)
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 また、「カフェとして運営する日があった方が、いろいろな人が来やすいのでは」(田中さん)と、「ひらく喫茶」を週末を中心に営業している。「ひらく喫茶」では、親交がある小千谷市のカフェ「やまもとやまCAFE 本」のカレーを出す日も。野菜をたっぷり使ったカレーなのだが、「ひらく」で開催する際は、長岡産の野菜を使ってもらうなどの工夫をしている。「とてもおいしいカレーなので、リピーターが多いんです」と田中さんは頬を緩める。

週末を中心に不定期で提供をしている「やまもとやまCAFE 本」のカレー。写真の料理には、サツマイモなど長岡の野菜を使用している(写真:ひらく)
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200人のイベント参加で得た確かな手応え

 2020年11月15日には、「ひらく」周辺にある施設などと共同で、「かきがわひらき」というイベントを開催した。「かきがわ」とは、同施設のすぐそばに流れる柿川のこと。「ひらく」に加え、長岡にゆかりのある経営者などがメッセージ付きで寄贈した本を30代までの若者に無料で貸し出す図書館「社長の図書館」、版画工房の「工房このすく」、長岡造形大学の学生作品を展示販売したシェアアパートメント「416 STUDIO WATARIMACHI」、地域のまちづくりに関わる工務店・池田組と、柿川周辺の個性的な5拠点が参加した。「ひらく」では、ワークショップやカフェ、知り合いの農家の野菜販売などを開催。20代、30代の参加者が多かったという。

 当日はスタンプラリーも行われたが、これがユニーク。柿川がかつて木材を運んでいた川であることにちなみ、廃材を利用した木片を用意。各会場で色が付けられたり、釘が刺せたり、窓や扉などのスタンプで飾れたりするようにした。会場を回ると、自分だけのオリジナルの家ができるという仕組みだ。「『かきがわひらき』に5回ぐらい参加してもらえれば、 “まち”ができる」と田中さん。スタンプラリーからできた“まち”は、各参加者のもとで長岡というコミュニティのイメージのふくらみにもつながりそうだ。

2020年11月15日のイベント「かきがわひらき」開催時の「ひらく」の様子(写真:ひらく)
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「かきがわひらき」のスタンプラリーでは、参加者が各会場を巡ることで写真のような家を1軒、完成させていった(写真:大塚 千春)
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 1ヵ月半ほどの短い期間で立ち上げたイベントにも関わらず、1回目の参加者は200人と、確かな手ごたえを得た。次回の開催は2021年4月を予定している。「こうしたことを通して、イベント参加者がこの地域にある空き家にお店を出してみようか、などという流れになったら面白い。『ひらく』だけではなく、いろいろなところに人が集まり、話ができる環境ができれば、自由に働く人が増えるのでは」と田中さん。「ひらく」は、訪れる人々にとって自分の扉を開く一つの“入り口”。さらに大きく地域とつながっていくことで、集まる人々は無限の可能性に満ちていくのだろう。