15年で定期借家して改修

 リノベーション事業の仕組みはこうだ。

 岩岳街並み活性化会社には、投資機関であるALL信州観光活性化ファンド、NECキャピタルソリューションと、白馬岩岳観光協会、地元のスキー場運営を手掛ける白馬観光開発、旅籠丸八を運営するFunnyが参画している。同社は、ALL信州観光活性化ファンドなどの出資を受けて事業を展開する。

 同社がオーナーから定期借家で既存建物を借り受け、オペレーター会社にサブリースする。オペレーター会社は、同社が提供する初期投資費用を基に改修工事を進め、集客・予約管理、客室準備、食事の提供などを担当する。旅籠丸八もhaluta hakubaも、ゆったりと自由な時間を楽しめる滞在型ホテルとなっている。

既存建物リノベーション事業のスキーム(資料:自然と伝統の融合した白馬岩岳の街並み活性化株式会社)
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 定期借家の期間は15年程度とし、原状回復はしない前提としている。15年という期間は、なるべく短期間で投資を回収したい投資家側の意向と、自分の代で事業を一区切りさせたいと考えるオーナーの気持ちを勘案して設定した。

 「改修によって宿泊単価が上がり、客数が増え、オペレーションが効率化する。そんなメリットを示すことで投資を促す。同時に、オーナーやオペレーターの負担を減らし、それぞれが参画しやすい仕組みを考えた」(和田社長)。

 民宿では、オーナーの居住スペースと宿泊用スペースが一体化していることが多い。その場合、改修に際して両者を分離し、オーナー住戸に新しい玄関とキッチンを新設する必要がある。これらの工事費も岩岳街並み活性化会社が負担し、原則、オーナーの持ち出しはない。オーナーにとっては、改修後もまちに住み続けながら賃料を得られるのがメリットだ。今のところ「賃借+改修」の形を取っているが、条件によっては建物の買い取りや建て替えなどにも柔軟に対応していく。

 オペレーターが参入しやすいように、賃料を定額とし、低い利率を設定するなどして事業リスクを抑えている。「営業利益が多く出るビジネスモデルではないが、償却時に良い建物が残り、まちの活性化につながればいい」と和田社長は話す。

「自然と伝統の融合した白馬岩岳の街並み活性化株式会社」の和田寛社長。白馬の山に魅せられて東京から移住した(写真:守山 久子)
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 無理して高収益を求めていない理由はもう一つある。

 和田社長は、白馬観光開発のグループ会社、岩岳リゾートの社長も務めている。「まちの宿泊収容力が減るとスキー客の数にも影響を及ぼす。スキー場と地元のまちは一蓮托生の関係だ」(和田社長)。スキー場運営の視点からも、長い目で見たまちの継続性確保が重要だったのだ。

 まちの活力低下に対する危機感は、以前から地元の関係者も共有していた。2017年から、地元の関係者と白馬岩岳観光協会、白馬観光開発が地域の将来像に対する議論を重ね、白馬岩岳マスタープランを策定した。スキー客が減る中で、「グリーンシーズンを含めた通年で稼げるようにする」「スキー場のベースキャンプを整備する」などの方策を掲げる内容だ。地元の人たちにも随時説明してきた。その後、営業存続に不安を持つ個々のオーナーの声を拾い上げ、岩岳街並み活性化会社の取り組みへと結び付けた。

 和田社長は東京都の出身で、農林水産省からコンサルタント会社を経て白馬にIターンした。相談や地元の情報収集の窓口は、岩岳街並み活性化会社の取締役を務める地元出身のスキー場運営会社スタッフが担い、具体的に案件が出て来ると和田社長が運営を託す外部企業を探す。「地元出身者」と「ヨソ者」という対照的な存在が、建物と運営者をつなぐ事業の両輪となる。

宿泊と食の機能を分離

 リノベーション事業では、宿泊の形態も一新した。滞在型の宿泊ができるように、旅籠丸八では全室にキッチンや洗濯機を装備している。朝食を予約すると、運営スタッフが前日の夕方、各室の冷蔵庫にパンやハム、サラダ、卵などの食材を用意してくれる。宿泊客は室内のキッチンで卵料理をつくるなどして朝食を取る。夕食も、鍋などのメニューは各室で食べられる。

畳敷きとソファのコーナーが並ぶ壱番館の客室。ゆったりと過ごせる仕様で、背後のキッチンで調理もできる。3つの棟に、2人用のジュニアキッチンスイート(約45m2)や定員6人のプレミアムダイニングスイート(約140m2)など12の客室を用意した(写真:守山 久子)
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蔵を改装した参番館の客室。梁が剥き出しになったロフト部分に寝室を設けている(写真:守山 久子)
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 バトラーと呼ぶ運営スタッフの勤務時間は午後7時まで。携わる仕事を絞って効率化し、最小限の人数で旅籠丸八の3棟とhaluta hakubaの業務を切り盛りしている。

 別棟に設けたレストランの庄屋丸八ダイニングは別会社が運営する。周囲の民宿が使える食事クーポンも用意し、地域の食事処として機能させている。

 こうした取り組みには、周辺の民宿の業務を合理化していくねらいもある。「民宿ではマーケティングや、客の送迎、食事、掃除などのオペレーションを個々に行っている。高齢化した運営者にとって負担は大きく、『食事の支度がなければ、あと5年は営業できる』といった声も聞く。業務の一部をプロに任せるという選択肢を用意すれば、存続可能な民宿もある」(和田社長)。

 囲炉裏を備え、鎧兜などを展示した庄屋丸八ダイニングは開業後、冬季を中心にオーストラリア人などの外国人客でにぎわいを見せてきた。宿泊部門も、2泊程度が主流となる週末中心の国内客に加え、1週間から10日間の長期滞在をする外国人客を多く迎え入れてきた。1泊の平均客単価は冬で2万円代、夏は1万円代という。

 2020年冬からのコロナ禍で外国人客を中心に宿泊客は減少しているが、インバウンドへの期待は変わらない。「美しい山の風景やスキー場のバリエーションの豊富さなど、海外のスキーマーケットに対するHAKUBA VALLEYの訴求力は変わらない。コロナ禍が終わった時にHAKUBAが生き残っていられるように、当面は国内客を迎え入れる策に注力して体力を温存する」と和田社長。民宿をリノベーションするニーズにも手応えを感じている。

 「昭和時代に水路を引き、季節になると桜や紫陽花で彩られる街並みを持つ白馬岩岳エリアは周辺でもユニークな存在。まちを楽しめるエリアとしてさらに魅力を高めていきたい」と今後を見据える。