2021年2⽉16⽇午後7時から、オンラインで2時間にわたり開催されたミーティングの大きなテーマは「⽩浜の交通の未来を考える!」。白浜は2次交通(空港や駅から観光地までの移動手段)があまり整備されていない。町内を走る路線バスは本数が少なくて現⾦払いのみだ。移動⼿段が限られるため、回遊性に乏しい。筆者は1〜2ヵ⽉に1度のペースで東京から⽩浜を訪れているが、⾞を運転できないので、周辺の観光施設を回ることもなく、毎回ほぼアドベンチャーワールドとホテルの往復で終わってしまう。ミーティングでは、こうした観光事業に関わる課題などを話し合った。

 まずは、ドアツードアで送迎する事業を白浜で始めた会社がプレゼン。この事業は、相乗りで料金を抑えている。観光客だけでなく、例えば高齢で運転できなくなった地元の人の通院などにも活用できそうだ。続いてのテーマは、「もし今この瞬間に公共交通(電車・バス・タクシー)がなくなった場合、あなたは明日からどうやって必要な場所へ移動しますか?」。参加者からは、デンマークで使われている電動キックボード、ハワイのトロリーバス、タイのトゥクトゥクなどの意見が挙がった。

 その後、「5年後の理想の白浜の地域交通はどんな姿?」というテーマについて、最初に白浜町長の井澗(いたに)誠さんや交通事業者ら6人が3分間ずつトーク。白浜を中心にバスを走らせている明光バス社長の牧洋史さんは「交通手段が(利用者の)負担にならない、ある意味アトラクションになるほど楽しいものになったらなと思います」と発言。ちなみに明光バスは、アドベンチャーワールドと連携して、同園のパンダなど動物の写真をラッピングしたバス「パンダ白浜エクスプレス」を2019年6月から運行している。コロナ禍前は、このバスの大阪から同園への直行便も運行しており、車内でパンダなどの映像と音楽を流していた。大阪からの直行便は今年3月下旬の春休みシーズンやGWにも臨時で走らせる計画だ。

アドベンチャーワールドのパンダたちをラッピングした「パンダ白浜エクスプレス~未来をツナグSmileバス~」(写真提供:明光バス)
アドベンチャーワールドのパンダたちをラッピングした「パンダ白浜エクスプレス~未来をツナグSmileバス~」(写真提供:明光バス)
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白浜第一交通のタクシーにもパンダ。2017年8月撮影(写真:中川美帆)
白浜第一交通のタクシーにもパンダ。2017年8月撮影(写真:中川美帆)
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 JR西日本和歌山営業部長の上段(うえだん)貴司さんは「地域と共に歩む鉄道会社として今後、地方で重要になるのは、単なる地点間の移動ではなく、『パンダくろしお』のように、地域にお客様を呼び込める観光コンテンツを関係者で連携してつくること」だと指摘。「乗車自体が目的になるような列車を走らせ、繰り返し乗車いただく」ことが大切だと強調した。さらに、「例えばパンダを旗じるしにして、白浜町の交通全てにパンダのラッピングをしたり、各交通事業者、観光事業者がパンダにちなむものをプレゼントしたりする。全体で取り組めば、白浜がもっと注目される町になると考えています」と語った。

 交通事業者や交通施設の運営者が連携する動きもある。南紀⽩浜エアポート、明光バス、JR⻄⽇本の3社は、スムーズな移動や地域活性化をめざし、2019年5⽉に包括連携協定を結んでいる。空港・バス・鉄道の連携は異色。互いにライバルなのではないかと考えてしまうが、⽩浜町の⼩さなパイを奪い合うよりも、協⼒し合う⽅針のようだ。

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明光バスが運行している路線バス(写真:中川美帆)
明光バスが運行している路線バス(写真:中川美帆)
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スーパーシティにも挑戦

 まちのIT化はすでに進んでいる。白浜町はNECによる顔認証の実証実験の場に選ばれており、空港やホテル、飲食店の一部では、顔認証での支払いや部屋の出入りができる。

 白浜町にとどまらず、白浜町やその周辺エリアを含む紀南地域(和歌山県南部)でも、地域活性化のアイデアが次々と生まれ実現している。紀南地域のさまざまな場所に現代アート作品を展示する「紀南アートウィーク2021」は、2021年11月18日~28日に初開催することが決まった。

 国家戦略特区で先端技術を使ったまちづくりをめざす、政府の「スーパーシティ構想」にも積極的に関わっている。昨年は、内閣府によるアイデア公募に対し、和歌山県から推薦された南紀白浜エアポートがアイデアを提出した。空港を核にしてエリアのスマート化を進めるアイデアだ。

 2021年はスーパーシティ構想の対象区域が決まる。指定されるのは、全国で5区域ほどと狭き門だ。白浜町に隣接する人口約3800人のすさみ町は、和歌山県と共に、内閣府のスーパーシティのアイデアと連携事業者を2021年1月13日~2月3日に募集。ソフトバンクやJTB和歌山支店など21の代表事業者を2月10日に選んだ。今後は、採⽤したアイデアを基に「南紀スーパーシティ構想(仮称)」をまとめ、スーパーシティ構想の対象区域に応募して、指定を狙う予定。最新技術を活用して、観光をはじめとした地域の資源も生かしつつ、⼈⼝減少・少⼦⾼齢化と地震・津波への備えといった紀南地域の課題解決をめざす。この地域は大雨に見舞われやすいうえ、南海トラフ巨大地震が近い将来に起こると想定されている。

 アドベンチャーワールドで生まれた赤ちゃんパンダの初公開は、新型コロナ禍で延期されている。だが、間もなく公開されるだろう。公開されれば、多くの人が訪れるに違いない。パンダによるにぎわいだけでなく、デジタル化も含めたさまざまな取り組みと相まって、白浜と周辺エリアの活性化が加速しそうだ。

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アドベンチャーワールドで暮らす永明と良浜(らうひん) の娘、彩浜(さいひん)。2018年8月にわずか75gの体重で生まれ、命があやぶまれたが白浜町ですくすく成長している(写真:中川美帆)
アドベンチャーワールドで暮らす永明と良浜(らうひん) の娘、彩浜(さいひん)。2018年8月にわずか75gの体重で生まれ、命があやぶまれたが白浜町ですくすく成長している(写真:中川美帆)
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筆者 中川 美帆
福岡県生まれ、早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者経験を生かして、ジャイアントパンダにまつわる政治、経済、建設、文化、生態などの記事を執筆。これまでに世界23ヵ国・地域のパンダの飼育施設40ヵ所を訪れた。著書に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)