大きな窓が水平に延び、その外にバルコニーが張り出した外観。建物内には、黒板や床の木製タイル、掲示板や卒業生が制作したステンドグラスなどがそのまま残る。2019年11月、茨城県取手市の住宅地にオープンした前田建設工業の「ICI総合センターICIキャンプ」は、2015年度末に閉校した市立白山西小学校を活用した施設だ。宿泊と研修の機能を備えている。

 「地域の人の“記憶”を残したいと考えた。そのため校舎の外観を極力残し、室内の要素もできるだけ生かした」。設計を手掛けた前田建設工業の綱川隆司・建築事業本部ソリューション推進設計部BIMマネージメントセンターセンター長はそう振り返る。

 全国には廃校となりつつも施設が現存する公立学校が6580校あり、そのうち2割に当たる1295校の用途が決まっていない(2018年5月時点、文部科学省「廃校施設等活用状況実態調査」)。ICIキャンプは、既存の小学校を利活用する方法の一つのモデルと言える。

取手市立白山西小学校を活用した「ICI総合センターICIキャンプ」。右の3階建てが「東の校舎」、左の4階建てが「西の校舎」(写真:日経BP 総合研究所)
取手市立白山西小学校を活用した「ICI総合センターICIキャンプ」。右の3階建てが「東の校舎」、左の4階建てが「西の校舎」(写真:日経BP 総合研究所)
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かつての教室を利用した研修室。床の木製タイル、黒板、壁に掛かった額など、以前使っていた要素をそのまま利用している(写真:日経BP 総合研究所)
かつての教室を利用した研修室。床の木製タイル、黒板、壁に掛かった額など、以前使っていた要素をそのまま利用している(写真:日経BP 総合研究所)
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卒業生が制作したステンドグラスも大切に残した(写真:日経BP 総合研究所)
卒業生が制作したステンドグラスも大切に残した(写真:日経BP 総合研究所)
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 ICIキャンプは、細い道路を挟んで隣接する同社の「ICI総合センターICIラボ」と一体運用している。ICIラボは同社の技術研究所を移転した施設で、スタートアップや研究機関などとの共創によるイノベーション、新しいビジネスの実現を目的に据える。以前から所有していた社有地を使い、ICIキャンプより一足早い2019年2月に開設した。

 関係者用の宿泊施設も、もともとはICIラボの敷地内に研究所と併せて設けることを検討していた。ところが、いざ計画を進めていくと敷地の面積が足りない。そんな時に着目したのが、隣接する白山西小学校跡地だった。

 一方で取手市も、以前から白山西小学校をはじめとする市内の未使用公用地の活用法を検討してきた。ただし、閉校前にまとめた2015年3月の調査報告を見ると、白山西小学校を利活用する方法の選択肢は限られていた。敷地は約2.6haと広いが、周辺道路の幅員が狭くアクセス条件が悪い、旧校舎や体育館の耐震性が低いといった理由から、「民間企業に対して売却・貸与できる可能性は高くない」と結論付けていたのだ。体育館の貸し出しなどで細々と使用していくイメージを描いていた取手市にとって、前田建設工業の計画が「渡りに船」だったのは想像に難くない。

 取手市と前田建設工業の意向が一致し、2017年12月に両者は契約を締結。土地は20年間の事業用定期借地権を設定して市が賃貸し、校舎や体育館、プールなどは前田建設工業に売却する。地域防災計画で定めた避難場所および避難所としての機能は、これからも維持していくという条件だ。

校舎は耐震補強して宿泊室や研修室に

 前田建設工業は3棟あった校舎それぞれの耐震性を勘案して、1棟を建て替え、残り2棟は耐震補強を施して利用することにした。

ICIキャンプの建物配置図。校庭に面したセミナー棟「木のえんがわ」は既存建物を解体して新設。その他の2つの校舎と体育館は以前の建物を利用する(資料:前田建設工業の図に加筆)
ICIキャンプの建物配置図。校庭に面したセミナー棟「木のえんがわ」は既存建物を解体して新設。その他の2つの校舎と体育館は以前の建物を利用する(資料:前田建設工業の図に加筆)
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 新築と改修の設計は同社の設計部門と、斬新な木造建築の設計で定評のあるマウントフジアーキテクツスタジオ(東京都渋谷区)、ランドスケープデザインを手掛けるプレイスメディア(東京都小平市)が共同で進めた。

 北側の校庭に面した1棟は耐震性が低かったために解体。レストランと約200人用のセミナー室が入る棟「木のえんがわ」を、木と鉄骨の混構造で新設した。室内に広がる吹き抜けの大空間は、LVL(単板積層材)と鉄骨などを組み合わせた折板状の屋根で覆う。折板屋根は南の既存校舎との間にも架け、木製デッキを敷いた半屋外空間を設けた。

LVLの折板屋根で覆った「木のえんがわ」のレストラン。右奥に見えるパーティションの向こうにセミナールームが続く(写真:日経BP 総合研究所)
LVLの折板屋根で覆った「木のえんがわ」のレストラン。右奥に見えるパーティションの向こうにセミナールームが続く(写真:日経BP 総合研究所)
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東西の校舎(左)と木のえんがわ(右)の間に設けた木製デッキの半屋外空間(写真:日経BP 総合研究所)
東西の校舎(左)と木のえんがわ(右)の間に設けた木製デッキの半屋外空間(写真:日経BP 総合研究所)
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