建設会社だから「資材置Bar」

東の校舎のエントランスまわり。以前、昇降口だった場所とその上階の外壁サッシを取り払った(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 耐震改修した3階建てと4階建ての既存校舎は「東の校舎」「西の校舎」と名付けられ、170人収容の宿泊室とワークショップ室、研修室などに利用されている。東の校舎にあった昇降口部分は外壁のサッシを取り払い、住宅地に面した玄関から校庭へと抜ける通り道を用意した。

 宿泊室は2、3階に設けている。上下2段のカプセル10室と個人ロッカーを並べたスペースを基本ユニットとし、普通教室の半分のスペースに一つのユニット、大部屋には二つのユニットを置く。教室の残りの空間は宿泊者の共同スペースとし、部屋ごとに畳敷きの小上がりや卓球台などを並べた。

宿泊室のカプセルベッド。上下2段に計10個を組み合わせている。対面に個人ロッカーを用意した(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]
宿泊室の残り半分の空間には畳敷きなどの共同スペースを設けている(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 遊び心に満ちた試みもある。西の校舎3階に設けた飲食スペース「資材置Bar」は、建設会社につきものの「資材置き場」をもじったもの。そのネーミング通り、足場に用いる単管など建設現場の資材を組み合わせて棚やサインをつくった。宿泊者が飲み物などの実費を払って使用する「たまり場」となる。

飲食スペースの「資材置Bar」。単管や誘導灯を駆使して内装をしつらえた(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 目につきにくい部分でも工夫を施した。

 学校の耐震補強では、窓の外にX字形の筋交いなどを入れるケースをよく見かける。比較的簡易な方法だが、見た目の存在感が大きくなるのが難点だ。ここでは「既存校舎の外観をできるだけ残す」という設計方針に沿って、室内側で耐震補強を施した。教室と廊下の間の非耐力壁を取り払い、鉄筋コンクリートの耐力壁に置き換えている。

 建築基準法上の対応も必要だった。今回の改修は「学校」から「研修所、寄宿舎」への用途変更に当たり、排煙設備などの規定が厳しくなる。例えば外に面した窓は、学校であれば一般的な窓のままでかまわない。しかし、寄宿舎では上部を排煙設備として機能させる必要があり、手が届く高さに手動の開閉装置を設けなければならなかった。そこで上部の窓からヒモ状の開閉装置を垂らし、手元で上の窓を開け閉めできるようにしている。

地元の東京藝大ともコラボレーション

 ICIキャンプは、前田建設工業のグループ社員のほか、建設工事の協力会社や異業種のパートナー、大学や研究所、アーティスト、近隣住民など多彩な組織・人との交流と、新しい価値創造に寄与する人材の開発をめざしている。日常活動を通して、さまざまなコラボレーションを仕掛けていく。黒板にチョークで描いたクジラの絵は、取手市内にキャンパスがある東京藝術大学の学生の協力を得た一例だ。体育館では、異業種企業の協力を得て、避難所用の段ボール間仕切りを設置する検証を行い、市民にも見学してもらった。

宿泊室の黒板を使ったクジラのチョーク絵。近隣の東京藝大の学生の力作だ(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 「刺激を与えてくれるベンチャーや異業種企業などとイベントを開き、勉強していく環境づくりがイノベーションに結び付く。近隣の人から聞く声も、先端的なビジネスや研究を追求する場とはまた異なる面白い発想がある」。運営を担う岩坂照之・ICI総合センターICIラボインキュベーションセンター長は、そう手応えを語る。

 ICIキャンプは本格的な稼働を始める時期が新型コロナ禍と重なり、開設後の長い期間にわたって限定的な使い方を強いられてきた。木のえんがわ内のセミナールームも、想定していた約200人という収容人数を減らして運用する。「館内の換気量を増強するなど、必要な対処を随時施してきた。今は、再開後の宿泊施設の収容数を当初想定の170人から半減させるかどうかの議論をしている」と綱川氏は言う。

前田建設工業の綱川隆司・建築事業本部ソリューション推進設計部BIMマネージメントセンターセンター長(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 並行して、オンラインでのアート展示の計画など、現状を踏まえつつ次の一石を投じるイベントも仕込んでいる。「市役所には白山西小学校の出身者もいて、施設が完成した際には涙ぐんで喜んでもらえた。ここに拠点を構える企業として、最終的に地域への波及効果をいかにもたらすかが重要だ」と、岩坂氏は気を引き締める。

前田建設工業の岩坂照之・ICI総合センターICIラボインキュベーションセンター長(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]