大阪府羽曳野市に、カフェと時計店が併設された、一風変わったケアプランセンター(居宅介護支援事業所)がある。カフェの店名は「FIKA(フィーカ)三丁目」。連日子どもから学生、医療介護の専門職、街の商店主、お年寄りといった多様な人たちが訪れる。運営しているのは、ケアマネジャーとして地域の高齢者の相談に乗り、地域密着型の通所介護施設「すごろく」も開設した株式会社山勝ライブラリ代表の山下勝巳さん。山下さんは取材にご協力いただく前から 「ひとまち結び」の読者で、編集部あてにご連絡をいただいた。高齢者が集うカフェが介護×商店街の仕組みづくりに果たす役割と、これからのケアプランセンターのあり方を聞いた。

山下勝巳さんと信乃さん
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 山下勝巳さんが招き入れてくれた「FIKA三丁目」は、カウンターとテーブル席を合わせても、わずか9席の小さなカフェだった。

 羽曳が丘3丁目にある集いのカフェは、オープンして2021年に4年目を迎える。「FIKA」はスウェーデン語で「お茶しよう」という意味だ。スウェーデンの人たちは「FIKA」と呼ばれるコーヒータイムをとても大事にしているという。単に休憩するだけでなく、コミュニケーションのひと時として重視しているのだそうだ。「FIKA三丁目」もまさにその名の通りの場所だった。

 訪れた時、店内はほぼ満席で、新型コロナ感染症対策のために設置されたアクリル板を背景に、マスクをしていても分かる笑顔が一斉にこちらへ向けられた。この地域に住む常連さんたちだ。毎日のように足を運ぶ人もいて、月に約300人が来店する。

人と交流したり、行先があること自体にも介護予防効果が認められると言われている。コロナ禍で外出が制限されるなか、「FIKA三丁目」はまちの高齢者にとって介護予防を兼ねたリハビリセンターのような存在なのかもしれない(写真:中島有里子、トップ画像も含め以下同)
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 カフェは、もともと山下さんのお父さんが40年以上営んできた「山勝時計店」だった。山下さんが生まれ育ったのもここ。それが今では多世代型のカフェとなり、2階はケアプランセンター(居宅介護支援事業所)の「ライブラリケアプランセンター」になった。「ライブラリ」と名称にあるのは、アフリカの言葉で『ひとりの老人が死ぬことは、ひとつの図書館が燃えてなくなることと同じ』という言葉を受けて、一人ひとりの「ライブラリ」を尊重しようという思いがあるからだ。時計店は、カフェの奥の一角に工房を設けて、そこで山下さんのお父さんが修理などを手掛けて継続している。

自分のパフォーマンスが喜ばれたことに味をしめて

 山下さんが介護の現場に触れたのは高校生の頃。バイク好きが高じて、ピザ屋で宅配のアルバイトをしていた時のことだった。

 当時は夜勤の病院や老人ホームなどからピザの宅配を頼まれることがよくあった。届けに行くと、支払いが済む前に、ナースコールなどで呼び出された看護師さんが飛ぶように向こうに行ってしまうことがしばしばあり、そのたびに詰所で待たされた。時間を持て余した山下さんはそこにいた数人の高齢者を前に、ちょっとした手品などをしてみせた。すると、すごく楽しそうに笑ってくれるのだった。

 そんなことがきっかけで、施設のスタッフからボランティアの声がかかり、高齢者の前でギターを弾いて歌ったり、毎回喜ばれるパフォーマンスを繰り出したりしていた。

 「高齢者に関わる仕事を調べてみると、介護福祉士という国家資格があることが分かった。それ、いいかもしれないなと。遊びの延長みたいなところで人をハッピーにできて、いい仕事だなと思ったのが介護への第一歩でした」と、山下さんは気負いなく語った。

羽曳が丘商店街の通りに面したカフェ「FIKA三丁目」の正面。2階がケアプランセンター、「山勝時計店」はこの奥で営業中だ
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 就職した医療法人で特別養護老人ホーム、介護老人保健施設を何ヵ所か異動し、介護保険制度の施行後にはデイサービスや通所サービスの施設でも勤務した。8年ほど勤めたのちケアマネジャー(正式名称は「介護支援専門員」)の資格を取得し、介護法人に転職。ケアマネジャーとして手腕を振るい、有料老人ホームの施設長も経験した。