就労支援につながったむきホヤの加工事業

 佐々木芳和さんと和也さんは、もともと貨物輸送や水産物の卸売を生業にする四ツ目商事株式会社の経営者だ。そのため輸送や卸業のことを熟知しており顔も広い。ホヤの生産者はいるし、流通も確保されている。小売業者も知っている。包括的に解決するために何をすればいいかを模索したところ、サプライチェーンで空いていた穴を埋めること、つまり加工部分に着手することが最善策だと思い至った。

 2人はこれまで廃棄対象になっていた小ぶりのホヤを仕入れ、むき身にして食べやすく加工したうえで、流通しやすい形にパッケージ化する事業を立ち上げる。その母体となるのが2020年12月に設立した三陸ラボラトリだ。こうして廃棄対象となるホヤの商品化への道が開かれた。

 当初、身内4人でホヤの加工事業をスタート。商品化される前にすでに県内のイオン系列店舗との販売契約も成立した。しかし芳和さんも和也さんにとっては運送業との兼業で、大量のホヤを前に悲鳴を上げる日々が続いた。製造にはいくらでも人手が必要だった。

 考えあぐね、近隣で社会福祉関連の仕事をしている人に相談したところ、三陸ラボラトリを就労支援B型事業の就労施設として利用してもらえることになった。渡りに船だった。現在、社会福祉法人大洋会「星雲工房」、一般社団法人みらい大船渡営業所「ポプラ」、就労継続支援B型事業所「エクセルシオール」の3施設から、利用者が三陸ラボラトリに作業をしに来ている。

 ここで、ホヤの廃棄の解消から地域産業の持続化、また、図らずも福祉分野の就労支援という課題への見通しがついた。

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取材日における三陸ラボラトリでの製造作業の様子。ひとつずつホヤの殻を開いて身を取り出し、内臓と排泄物をていねいに取り除いたのち水洗いをしてパッケージする。量を計り、ロケット型パッケージに詰めるのは社長の妻である佐々木桂子さん
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 さらに、新たなジャンルが加わる。むきホヤが入ったロケット型のパッケージに貼られるMDシール(パッケージに貼る販促シール)に、知的障がいを持つアーティストの絵を採用したのだ。それを提供したのが、岩手県盛岡市に本拠を置くベンチャー企業、株式会社ヘラルボニーである。

知的障がいをもつアーティストの作品を起用

 ヘラルボニーは東京や名古屋にも拠点を持ち、知的障がいのあるアーティストが描いた作品の販売やバッグ・服飾品への展開など、福祉を軸にした事業を積極的に行っている企業だ。社長は盛岡出身の松田崇弥さん。今回、本社のある盛岡市でお話を聞いたのは崇弥さんの双子の兄で、副社長の松田文登さんだ。2人とも若手起業家に与えられる「Forbes UNDER 30 JAPAN 2019」に選出された経験を持つ。

 2人には4歳年上で先天性の自閉症の兄がいる。社名にはその兄が口にした“謎の言葉”を採用。ロゴデザインにも、兄が自由帳に書いた文字の雰囲気を生かしているという。

 2人は兄に対する、世間の「かわいそう」という言葉に違和感を抱きながら成長してきた。知的障がいのあるアーティストの絵と出合うなかで、アートという切り口を通じて障がい者に対する社会のイメージを変えていく、というテーマにチャレンジしようと起業した。

お話を聞いたヘラルボニー代表取締役副社長の松田文登さん(右)とプロジェクトマネージャーの丹野晋太郎さん(左)
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オープンしたばかりの岩手県盛岡市にあるヘラルボニー本社のギャラリーにて
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