最近耳にする機会が多い「関係人口」という言葉。移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉だ。総務省も「関係人口」ポータルサイトを展開するなど、ここ数年、関心が高まっている。そうした流れを受けて、「おてつたび」というマッチングプラットフォームが注目されている。どんなサービスなのだろうか。株式会社おてつたびの代表取締役CEO 永岡里菜さんや、サービス利用者の方にも率直な意見を聞き、その魅力や意義について探ってみた。
(※この取材はオンラインで行いました)

 人手不足に悩む地方自治体や地域の事業者と、観光ではなく、ユニークな経験・体験を得ることを旅の目的としている若者を結びつけるサービスが「おてつたび」だ。参加応募倍率は3〜5倍にもなるという。

 まずは、そのサービスフローの概略をつかんでおこう。

(1)若者の受け入れ先となることを希望する事業者は、仕事の内容、定員、募集時期などを「おてつたび」に申請
(2)「おてつたび」側はその内容を審査し、問題がなければマッチングサイト上にアカウントを作成
(3)事業者はこのアカウントを使って、人手がほしいときに募集をかける。登録費・掲載費は無料
(4)応募者は、自分の興味関心に従って応募
(5)参加者は、事業者が用意した宿泊施設で寝泊まりしながら、指定された「お手伝い」を行う。事業者からは参加者に一定の報酬が支給される。それを交通費に充てるのか、観光に使うのかは、参加者の自由
(6)事業者には、参加者が地域の魅力を発見するための自由時間の設定や、交流の場を設けることなどが求められている。基本的に、午前中と夕方にお手伝いを行い、 昼間は自由時間
(7)「おてつたび」自体は、事業者からのマッチング手数料収入が主な収益

永岡さんの二つの思い

 「おてつたび」はどのようにして生まれたのだろうか。代表を務める永岡さんは、まず、子どもの頃の体験が大きなきっかけの一つになっていると語った。

 「私は三重県尾鷲市で生まれ、愛知県名古屋市で育ちました。尾鷲は漁業と林業のまちですが、名古屋からも電車を乗り継いで3~4時間かかるような場所に位置することもあり、「尾鷲の出身です」と言っても『それ、どこ?』と聞き返されることが常ですね(笑)」

 「でも私は尾鷲が大好きで、夏休みになると毎年、祖父母に会いに尾鷲に行くのが楽しみでした。まちを歩いていると、地域の人が『永岡さんとこのお孫さんかね』と声をかけてくれたり、海に行った帰りに祖父の行きつけの店でかき氷を食べたり。私にとっては夢の国みたいでした」

株式会社おてつたび 代表取締役CEO 永岡 里菜さん(特記なき写真はZoomのキャプチャー)
株式会社おてつたび 代表取締役CEO 永岡 里菜さん(特記なき写真はZoomのキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 尾鷲には尾鷲の良さがある。それを知ることができたのも、尾鷲に住む祖父母の孫という関係があったからこそだと、のちのち気づいていく。

 もう一つの大きな出来事は、起業する前に担当していた仕事でのことだ。

 「起業前は、第一次産業をサポートするプロジェクトで地域を巡っていました。そこで、地域の背景や物語を知ることにとても喜びを感じている自分自身がいました」

 一緒にお酒を飲んだ人が熱く語る地域への愛や、自分の仕事への思い、そういったものにとても惹かれたと永岡さんは言う。

 「地域には、自分の人生を生きている人が多くてかっこいいとも感じました。特に観光地がなくて知られていなくても、素敵なものがある地域はたくさんある。それに気づいたとき、自分にとって夢の国だった尾鷲のことを思い出しました」

「おてつたび」という新しいジャンルを生み出す

 永岡さんの思いが「おてつたび」というかたちを取るまでには、しばらく時間がかかった。ベンチャー企業を退職したあと、永岡さんは社会起業家向けプログラムなどで起業に向けた学びを実践していく。

 「地域に人が来る仕組みをつくりたいと語るうちに、思った以上に私はまだまだ地域のことを知らなかったと自覚させられました。それではダメだと思った私は、東京の住まいを引き払って、フリーランスで稼いだお金を夜行バスにつぎ込んで、いろいろな地域に行くということを繰り返しました」

 「当時は思いやビジョンを地域の方に話してみても、『旅は楽しいもの、仕事はつらくて大変なもの』という先入観は根強くて、『旅先で仕事する人なんているわけない!』と何度も言われました」

 「新しいことに対する正解は誰にもわからないものです。だから新しい概念である『おてつたび』をつくるまでには、ひたすら仮説検証を繰り返してきました」

 それは、いわば「おてつたび」という新しい概念をつくる苦労だったといえる。

 最初の事例は、志賀高原で有名な長野県の山ノ内町。2019年1月、β版の「おてつたび」はリリースされた。

「おてつたび」がつくりだす世界観

 「『その地域のことを誰かに話したくなる』『大切な人を連れて行きたくなる』『名前を見るだけでうれしくなる』といった地域への想いが生まれることや、地域の方と『おてつたび』参加者との間に、 中長期的で温もりのある関係性ができることが理想です。そのためには、参加者には地域の表側の部分だけではなく、裏側についても知ってほしい。その中でこそ、人々の営みや文化、大切にしているものを知ることができるからです」

 たとえ同じ地域に「おてつたび」に出かけたとしても、参加者それぞれが全く異なるエピソード、気づきをもって帰ってきてくれるという。

 「岡山県の宿に『おてつたび』に行った学生さんは、おてつたび先の方と意気投合してプチ移住。現在は大学の授業をオンラインで受けながら、宿の動画制作もしています。それも、お互いを知ったからこその関係性です。『おてつたび』は、人と人との接点をつくることができる仕組みなのかなと思います」

 地方の事業者が抱える共通課題は「高齢化と人手不足」。80代の人が力仕事を毎日している状況も全く珍しくない場所に「おてつたび」を通して孫世代の若者が手伝いに来る。若者が来ることによる人手不足の解消という側面はもちろんだが、来てくれたこと自体をとても喜んでもらえるという。

 そして、一方の参加者からも「とても良かった!」といううれしい感想が。例えば旅館の方がお客さまを迎える前に部屋を暖めたり、深夜まで料理の仕込みをしたり、お見送りのときはお客さまの姿が見えなくなるまで頭を下げ続けたり――。それまで知らなかった小さな気遣いを知って感動した、という声をもらうという。