ビールをはじめ、各地域の特色を打ち出した小ロット製造のクラフト飲料が話題になる中、あるクラフトコーラがクラウドファンディングで注目を集めた。それが「ぎふコーラ」だ。最大の特徴は無添加にこだわり、地元の岐阜県・旧春日村で採れる薬草を原材料に使っていること。商品を開発したのは岐阜県出身で1991年生まれの3人。2020年10月にクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で募集した第1弾のプロジェクトは、開始2日で目標金額を大幅に上回る金額で成立した。地元を盛り上げ、地元の持続性を高めようとする「ぎふコーラ」の開発経緯と商品のポイント、商品を通じた地域活性化の狙いについて話を聞いた。

Uターンして初めて知った、生まれ育った地域の文化

 「岐阜県・旧春日村の薬草を使った完全無添加」と銘打ったクラフトコーラを作るために、3人の若者がクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で募った目標金額は100万円。それが2日あまりで約276万円に到達した。

 3人は岐阜県出身で同い年。そう聞くと幼なじみか中学高校の同級生かと思うところだが、3人が揃い、チームを組む数年前までは見ず知らずの間柄だった。ただ3人には大学進学や就職などで県外に出てUターンしてきたということ、そして、それまではあまり地元の魅力がわからなかったという共通点があった。

 その3人というのが、岐阜市内でオーガニック料理専門店「to U organic」を経営する片山治さん、岐阜県揖斐川町の薬草料理店(健食茶房)「kitchen marco」店長の四井智教さん、同町地域おこし協力隊の泉野かおりさんだ。

 チームのリーダー役を務める片山さんは、岐阜県内の大学を卒業後、東京で6年間料理の修業をし、ゆくゆくは東京で店を持ちたいと考えていた。そこに母親の病気の知らせが届く。それを機に故郷に戻り、縁あって岐阜駅近くに無添加・無農薬の材料にこだわった料理店をオープンすることができた。

リーダーの片山治さんは岐阜市内でオーガニック料理専門店「to U organic」を経営している(写真撮影:中島有里子、トップ画像も含めて以下同)
リーダーの片山治さんは岐阜市内でオーガニック料理専門店「to U organic」を経営している(写真撮影:中島有里子、トップ画像も含めて以下同)
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 片山さんは自分の店で、東京で出合ったクラフトコーラブランド「ともコーラ」を取り扱うことにした。それは炭酸やお酒、ミルクで割って飲むクラフトコーラのもと(シロップ)で、今あるコーラの概念を覆すような商品だった。スパイスの利いた独特なフレーバー感があるクラフトコーラと出合い、岐阜ならではの素材でこういった商品が作れないか、と考えるようになっていった。

 調べてみると、岐阜県と滋賀県の県境にそびえる伊吹山は薬草の宝庫だということが分かった。岐阜県揖斐川(いびがわ)町にある「春日森の文化博物館」収蔵の資料によれば、16世紀に織田信長がポルトガル人宣教師の教えにより、ヨーロッパから3000種の薬草を取り寄せて薬草園を開拓したと伝承されている。1997年の調査では伊吹山山麓一帯に見られる薬草は280種類を数え、ふもとの村々では薬草を利用する文化が現代まで引き継がれていることも分かった。

 片山さんは実際に薬草を扱っている店を探し出した。それが薬草の通販もしている料理店の「kitchen marco」。四井さんが店長を務める店だった。

揖斐川町春日六合にある「かすが モリモリ村 リフレッシュ館」の薬草園。いろいろな薬草が栽培され、観察することができる。館内には伊吹山のふもとで採れた薬草を使った薬草風呂があり、観光客や地元の人が集う憩いの場になっている
揖斐川町春日六合にある「かすが モリモリ村 リフレッシュ館」の薬草園。いろいろな薬草が栽培され、観察することができる。館内には伊吹山のふもとで採れた薬草を使った薬草風呂があり、観光客や地元の人が集う憩いの場になっている
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自然に負荷をかけずに地域の薬草を調達

 四井さんは揖斐川町の出身。一度離れた故郷に戻ってきたのは、ちょうど叔母が薬草の販売を始めた頃だった。地域の資源の豊かさや、それを継承している親族が近くにいることに驚き、その世界に足を踏み入れたのだった。高校生のときに潰瘍性大腸炎を患ったことから、口にするものに気を配るだけでなく、心身を健やかに維持するライフスタイルを模索し始めたという。

地元・揖斐川町出身の四井智教さんは薬草料理店「kitchen marco」の店長だ
地元・揖斐川町出身の四井智教さんは薬草料理店「kitchen marco」の店長だ
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 片山さんは、さっそく四井さんの店を訪ねていった。四井さんによると、かつて揖斐川町春日村一帯は「薬草の里」として知られており、地域の外から薬草の買い付けに来る人々もいた。また薬草茶や薬草の入浴剤の加工販売も盛んだった。しかし高齢化が進み、担い手が減少するにつれ、薬草を暮らしに取り入れる機会は減っている。四井さんは薬草栽培・販売の作業を手伝いながら、身近に薬草を感じられ、若い世代にも注目されるものを創出できないかと常日頃考えていたのだそうだ。

 トレンドになりつつあるスパイシーなクラフトコーラを、薬草を使って作り、岐阜の特産品にしよう。そうすれば岐阜の薬草文化を新たなかたちで継承できる。2人は意気投合し、盛り上がった。地元の薬草を使ったクラフトコーラの夢を語り合い、作り始めることを決めた。やるならもう1人加えてチームを組んでやろう。できれば同い年の人がいい。

 そんなとき、偶然とあるワークショップで、揖斐川町地域おこし協力隊の泉野さんと出会ったのである。

揖斐川町まちおこし協力隊の泉野かおりさん
揖斐川町まちおこし協力隊の泉野かおりさん
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 泉野さんは、大学進学をきっかけに10年間岐阜から離れていた。京都で就職したが退職し、ベトナムのカフェで働いていた。帰国して岐阜に帰ると決めたとき、もっと岐阜のことを知りたいと思った。揖斐川町のあるワークショップに参加したとき、揖斐川町に薬草文化があったことを知り、軽い衝撃を受けた。

 「ベトナムでは日常的に薬草を使う文化があり、私にはとてもなじみがありました。それが同じように揖斐川町にもあったのです。全然知らなかった。ベトナムと似た暮らしをしているこのまちのことをもっと知りたい、そういう文化をもっと知ってほしいと思いました」と泉野さんは話す。こうして揖斐川町に移住し、同町のまちおこし協力隊として活動を始めたのだ。

 こうして「岐阜の薬草文化」をキーワードに3人が結束した。薬草の入手に関しては山の所有者に相談し、自生地に足を運んで採取したほか、栽培している農家にも協力してもらった。

 香りや効能に優れているからといって、少量しか採取できない薬草では安定的に商品を作り続けることは難しい。ある程度の量が採取でき、それでいて自然に負荷をかけないことを心がけた。

 「ともコーラ」を手がける調香師の協力のもと、最終的に使う薬草はヨモギ、カキドオシ、ドクダミ、ヤブニッケイの4種類に決定。これらを調合して、きび砂糖やかんきつ類、スパイスと煮込んで「ぎふコーラ」の試作を重ねた。

採取した原料ドクダミ(上)と下処理のために葉と茎に分けられたヨモギ(下)
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採取した原料ドクダミ(上)と下処理のために葉と茎に分けられたヨモギ(下)
採取した原料ドクダミ(上)と下処理のために葉と茎に分けられたヨモギ(下)
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