千葉県南東部に位置する「いすみ市」は太平洋に面し、イセエビをはじめ、豊かな漁場をもったまちとして知られる。近年では、東京都内や千葉市などからの移住者も増えており、その知名度も高まっているようだ。そのいすみ市を含む房総地域で、地元の中学⽣を対象にした「⾃由の教室」という特別授業が実施されている。プロジェクトの仕掛け人は各地で地域ブランディングを手掛ける磯木淳寛氏。学校のカリキュラムとは別に、生徒たちが考える場を設ける試みで、事前情報をもとに地域で活動する人々にインタビューしたり、地域を楽しくするアイデアを考えたりする取り組みにも発展している。最近では、この活動から派生したプロジェクトとして、中学生を対象にした「『不思議な食べ物』ショートショートコンテスト」が行われた。

「食べ物はもちろんコンクリートだっておいしく食べられるようになる、うまソウドレッシング」
「花言葉の通りの感情になる、花のスープ」
「思い浮かべた人の声を自在に出せるようになる、ボイスアメ」

 2021年春、千葉県いすみ市立岬中学校の1年生による「『不思議な食べ物』ショートショートコンテスト2021」が開催された。上に紹介した不思議な食べ物の数々は、このコンテストで出てきたアイデアだ。総勢101人の作品から15本を選考してウェブサイト上に公開し、そのなかから全国の人たちによる投票でグランプリを決定した。グランプリを獲得した生徒は新聞記者のインタビューに、「ストーリーが頭の中に降りてきた」と神がかった言葉を残している。

授業中の子どもたち(写真:房総メディアエデュケーションプロジェクト)
[画像のクリックで拡大表示]

 コンテストの特別審査員の一人で、「これからの地域とのつながり方」をテーマとする雑誌『TURNS』のプロデューサーの堀口正裕さんは、「いち読者として想像力をかき立てられる作品ばかりで読み応えがあり、終始ワクワクしながら拝読しました。直ちに続きを読みたい作品もあり、選考は難航、断腸の思いで絞った」と評した。このショートショート作品で描かれた“不思議な食べ物”は、それらの作品をもとにいくつかのアイデアを実際に商品化して、地元のスーパーマーケットなどの店頭に並べる計画だ。

「自分はこう考える。あなたは?」

 「『不思議な食べ物』ショートショートコンテスト2021」を主催したのは、いすみ市に住むメンバーを中心とする「房総メディアエデュケーションプロジェクト」だ。2013年に東京からいすみ市に移住した磯木氏を中心に地元の有志が集まり、地域の子どもたちの多様な視点と思考を育む知的冒険授業を始めることになった。2017年、ある公立中学校に「房総すごい人図鑑」という名称で、授業の企画を持ち込み、スタートした。ショートショートコンテストもこの「房総すごい人図鑑」の取り組みから発生したものだ。授業は「自由の教室」という名称に変わり、それ以降も活動が続いている。

自然豊かな風景の中を走るローカル線・いすみ鉄道は全国の鉄道ファンから人気だ(写真:房総メディアエデュケーションプロジェクト)
[画像のクリックで拡大表示]
授業中の光景(写真:房総メディアエデュケーションプロジェクト)
[画像のクリックで拡大表示]

 「『自由の教室』の大きな目的の一つは、授業を通じて生徒の多様性を大切にすることです。人は本来、放っておいても一人ひとり多様であるのが当たり前なのですが、つい『ほかの人と違ってないかな? 大丈夫かな?』と考えて、周りに合わせてしまいがちです。授業では生徒同士が対話を行い、自然と自分自身を掘り下げていくので、ユニークな個性が浮き出てきます」(磯木氏)