好きな本を持ち出して熱海で“まち読み”を

 鍵を開けて中に入ると、そこは重厚でクラシックな書斎のような雰囲気だ。設置されたインテリアや小物も凝っていて、まるで映画や小説のワンシーンに入り込んだような気分にもなれる。棚にぎっしりと並んだ本のラインナップは、小説、エッセイ、旅行本、美術本、児童書など幅広く、約1000冊をそろえる。その中にはすでに絶版となってしまった貴重な本なども置かれている。これらの本は、ほとんどが渡邉さんの蔵書だったそうだ。この『ひみつの本屋』のもう一つの大きな特徴は、こうした本を購入するだけでなく、1泊2日という期限内で3冊まで持ち出すことができるところだ。

店内には本のほかに絵画なども飾ってある(写真:ひみつの合同会社)
店内には本のほかに絵画なども飾ってある(写真:ひみつの合同会社)
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 「旅に出たときは、普段読んでいる本とはちょっと違うものが読みたくなることがあると思います。『ひみつの本屋』を訪れて、そういう旅先での新しい本との出合いがあればいいな、と。ぜひお気に入りの本を見つけて、熱海のまち歩きを楽しみながら、まちなかで本を読む“まち読み”をしてみてください。熱海にはレトロな喫茶店や趣のある温泉休憩所、川沿いの遊歩道や海など、本を読むのにぴったりな場所がいくつもあります。そういうところでの読書はいつもとはちょっと違う感覚が味わえると思うんです。まちに本が溶け込むような一体感を楽しんでもらえるとうれしいですね」(渡邉さん)

ドアの横にある会計用の箱。本を購入した場合、代金をこの箱に入れる(写真:編集部)
ドアの横にある会計用の箱。本を購入した場合、代金をこの箱に入れる(写真:編集部)
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 店内のデスクには日記帳が置いてある。店主の日記帳だが、『ひみつの本屋』を訪れた客がここで感じたことを自由に書き残していた。

店内のデスクにある⽇記帳(写真:ひみつの合同会社)
店内のデスクにある⽇記帳(写真:ひみつの合同会社)
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 「みなさんが思い思いに書いた文章を読むと、『ひみつの本屋』で自由に空想を広げてくれていて、本当に泣けるぐらいうれしい言葉に出合ったりするんですよ。ここに来て本を選ぶことで、みなさんそれぞれに熱海のまちで新しい楽しみを見つけています。本が好きな方、熱海が好きな方に、ぜひ素敵な体験をしてもらいたいです」(田坂さん)

 2021年7月に発生した熱海市伊豆山地区の土石流災害を受け、『ひみつの本屋』では熱海市在住・勤務の人たちを対象に当面、入場無料で店を開放している。本を読むことでちょっと気持ちが楽になったり、癒やしになったりすることもきっとあるはずだ。『ひみつの本屋』は、きっとそうした本との出合いをつくってくれる。

(プロフィール)
田坂創一さん
建築家。設計事務所HAGI STUDIO勤務。同社で運営する「西日暮里スクランブル」にあるシェア本棚『西日暮里ブックアパートメント』の管理人も務める。建築業界を志すきっかけにもなり、心のバイブルとなっている一冊は、建築家・三浦丈典氏の『こっそりごっそりまちをかえよう』(彰国社)。
渡邉沙絵子さん
都内のIT企業に勤務。幼い頃から本が大好きで、同じく好きな熱海のまちで本屋をやりたいと願っていた。お気に入りは『らくだこぶ書房21世紀古書目録』(筑摩書房)など空想をかき立ててくれるクラフト・エヴィング商會の本。

(店舗データ)
『ひみつの本屋』
熱海市銀座町8-13 ロマンス座1階
books.himitsuno.jp