地域活性化に必要なのは物語だ──。師と仰いだ人物の言葉を糧に約10年間続けた、地元ローカルの漫画フリーペーパーがまさかのアニメ化。全国区のコンテンツへと成長した。焼きもののまち「多治見」を舞台に、陶芸に魅せられた女子高生たちの姿を描く青春ストーリー『やくならマグカップも』アニメ化の軌跡を追う。

 近年、アニメ作品を通じて、まちの魅力を広めようとする試みが多くみられる。アニメファンが作品のモデルとなった地域やロケ地を巡る、いわゆる「聖地巡礼」のための観光誘致が分かりやすい例だろう。2000年代後半以降、いくつかの成功事例が現れたこともあり、現在、アニメによるまちおこしは広く定着している。

 こうした試みは、まず完成されたアニメ作品が先にあり、自治体をはじめとした、まちおこしを狙う側はこの作品をうまく活用する。すなわち、たまたまロケ地やモデル地となった自治体が、アニメ制作会社へ提携を持ちかけ、まちおこしや地域活性化に役立てようと試みることが多い。

 しかし、このような活用事例と一線を画すアニメ作品がある。岐阜県多治見市を舞台にした『やくならマグカップも』、略称『やくも』だ。

 地元企業がおよそ10年の期間にわたって刊行を続けた漫画フリーペーパーを原作に、老舗のアニメ制作会社「日本アニメーション」がアニメ化。自治体も企画初期から全面協力に乗り出し、活用推進事業を立ち上げた。

多治見市のIT企業「プラネット」が刊行しているフリーペーパー『やくならマグカップも』。2012年から年4冊発行している。最新号は2021年9月発行の「特別感謝号vol.2」。地元の自治体施設や協力店のほか、東京・名古屋・大阪のアニメショップなどで配布されている(資料提供:プラネット)
多治見市のIT企業「プラネット」が刊行しているフリーペーパー『やくならマグカップも』。2012年から年4冊発行している。最新号は2021年9月発行の「特別感謝号vol.2」。地元の自治体施設や協力店のほか、東京・名古屋・大阪のアニメショップなどで配布されている(資料提供:プラネット)
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 『やくならマグカップも』は、2021年4月から6月まで中京圏を対象としたCBCテレビをはじめMBS毎日放送、TOKYO-MXテレビなどで放送された。続編となる『やくならマグカップも(以降、やくも)二番窯』も、同じくCBCテレビ(同10月1日から)などで放送開始された。

 多治見市に引っ越してきた転校生「豊川姫乃」が高校の陶芸部に入部、同級生らと共に陶芸の魅力に目覚めていく姿を描く。同時に、亡き母がかつて高名な陶芸家であったことを知り、両親の故郷である多治見市に色濃く残る母の足跡を追体験していく青春ストーリーだ。作品中では、陶芸のまち「多治見」の実際の風景が随所に表現されている。

主人公の豊川姫乃の自宅は、多治見本町オリベストリートに実在する店舗がモデルとなっている。本町オリベストリートは多治見観光の中心地だ(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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主人公の豊川姫乃の自宅は、多治見本町オリベストリートに実在する店舗がモデルとなっている。本町オリベストリートは多治見観光の中心地だ(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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主人公の豊川姫乃の自宅は、多治見本町オリベストリートに実在する店舗がモデルとなっている。本町オリベストリートは多治見観光の中心地だ(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
レトロで特徴的な街灯を備えた多治見橋。作品中では主人公たちが、登下校などで幾度となく往復する(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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レトロで特徴的な街灯を備えた多治見橋。作品中では主人公たちが、登下校などで幾度となく往復する(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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レトロで特徴的な街灯を備えた多治見橋。作品中では主人公たちが、登下校などで幾度となく往復する(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
多治見駅北口の虎渓用水広場。かつては農業用水として利用されていた歴史的施設「虎渓用水」を活用してつくられた公園。市民の憩いの場となっている(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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多治見駅北口の虎渓用水広場。かつては農業用水として利用されていた歴史的施設「虎渓用水」を活用してつくられた公園。市民の憩いの場となっている(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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多治見駅北口の虎渓用水広場。かつては農業用水として利用されていた歴史的施設「虎渓用水」を活用してつくられた公園。市民の憩いの場となっている(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)

 原作漫画を作ったのは、多治見市に本社を置くIT企業の「プラネット」。主に歯科医院向けの業務管理ソフトを開発し、サービス展開をしている。多治見市に生まれ育った、代表取締役会長の小池和人氏が1995年に創業。事業を拡大し、現在は地元の有力企業に成長している。

 「やくも」は、小池氏が地元の魅力を広める試みとして2011年に企画を開始、翌2012年から季刊誌として発行し続けてきた漫画冊子だ。自主制作のフリーペーパーとして、地元の協力店や自治体関連施設のほか、大都市部のアニメショップや書店などで配布してきた。この原作漫画に日本アニメーションが目を付け、アニメ化を企画。プラネットや自治体に協力を依頼し、今回のアニメ化が実現した格好だ。

 およそ10年間、地方で続けてきた小さな試みが、大きな飛躍を遂げることになった。