物語が人を集め、地域を活性化する

 「人を集め、地元を活性化するために必要なのは物語だ」

 これはプラネット代表取締役会長の小池氏が師と仰ぐ、堀貞一郎氏の教えだ。「やくも」の企画も、この考えに基づいて始められたのだという。「やくもは、堀先生の存在無くしては語れない」。そのように小池氏は話す。

プラネット代表取締役会長の小池和人氏。堀貞一郎氏と共に写った写真を前に、思い出を語ってくれた(写真:バウム)
プラネット代表取締役会長の小池和人氏。堀貞一郎氏と共に写った写真を前に、思い出を語ってくれた(写真:バウム)
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 堀貞一郎氏は、東京ディズニーランドを誘致したことで知られる有名プロデューサー。小池氏は若い頃にその著書を読んで影響を受け、その後、座右の書として事業の参考に、そして人生の励みにしていったのだという。

 「その後、幸運にも本人と出会う機会を得て、押しかけ弟子のように接するようになっていきました」と小池氏は堀氏との関係を話す。その堀氏が、地元の活性化を考える小池氏に語ったのが先の「人を集めるのに必要なのは物語」という考え方だ。

 スウェーデンの作家セルマ・ラーゲルレーヴは「スウェーデンの地理に触れながら子どもが楽しめる物語を」という依頼に応じて、児童文学『ニルスの不思議な旅』を書き上げた。オードリー・ヘプバーン主演で有名な映画『ローマの休日』は、ローマ市の人気観光地化を決定づけた。ほかにも物語が地域の魅力を強力に発信する結果となった例は数多い。堀氏の指摘は、ひとつの有力な方法だったといえる。

 小池氏はこの教えに従い、多治見市に物語を創造する試みを始める。いくつかの試行錯誤の後、多治見市を舞台にした漫画の創作に思い至った。

 きっかけとなったのは、堀氏のお孫さんの存在だった。「あるとき、堀先生がお孫さんを紹介してくれました。その後、私は堀先生のお孫さんとも親しくなっていきます。そして私が多治見市を元気にする物語を創り出そうと取り組んでいた最中に、彼が漫画で表現する物語を提案したんです。面白いなと感じ入りましたよ」と小池氏。

 同じ頃、多治見市は市制70周年記念事業のひとつとして、多治見市活性化委員会を設置。委員としてこれに参加した小池氏は、その場で漫画による地元活性化を提案する。「委員会で理解はされましたが、具体的な支援や取り組みは一切ありませんでした。自分が率先して始めるしかないな、と思い至りましたね」(小池氏)。その後、小池氏は漫画に詳しい社員をはじめ、発想のきっかけとなった堀氏のお孫さんを含む、若い友人らとプロジェクトチームを結成。具体的な作品の構想を練り始める。そうして多治見市を舞台にした陶芸漫画『やくならマグカップも』が誕生した。

これまでに発行した『やくも』は、33冊の本編と2冊の特別感謝号。バックナンバーは、PDFのデジタル版が公式HPからダウンロード可能だ(写真:バウム)
これまでに発行した『やくも』は、33冊の本編と2冊の特別感謝号。バックナンバーは、PDFのデジタル版が公式HPからダウンロード可能だ(写真:バウム)
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 小池氏は、プロジェクトチームの一員であり作画を担った梶原おさむ氏を『やくも』専任のスタッフとして社内に抱え、漫画の創作を指示。2012年2月に第1号のフリーペーパーを創刊した。以降、2020年9月の第33号まで、年4冊発行の季刊誌として、9年間近く、発行を続けた。