多治見市出身の青年が、地元ローカルのフリーペーパーを原作にアニメ化を企画。焼きもののまち「多治見」を舞台に、陶芸に魅せられた女子高生たちの姿を描く『やくならマグカップも』は、企画の初期段階から自治体の積極的支援を受けて制作するという前例のない試みとなった。前編では、地元企業が10年続けた原作漫画の発行からアニメ化までの経緯を紹介した(前編はこちら)。後編では、多治見市と日本アニメーションによるアニメ制作と地元活性化の取り組みを紹介する。

 『やくならマグカップも』、略称『やくも』は、岐阜県多治見市を舞台にしたアニメ作品。2021年10月現在、春に放送したシリーズの続編『やくならマグカップも 二番窯』が放送中だ。

現在、CBCテレビほか、MBS(毎日放送)、TOKYO MXテレビなどで放送中の『やくならマグカップも 二番窯』。多治見市に引っ越してきた転校生「豊川姫乃」は、同級生らと共に陶芸の魅力に目覚めていく。同時に、高名な陶芸家であった亡き母の故郷「多治見」で、その足跡を追体験していく(資料提供:日本アニメーション)
現在、CBCテレビほか、MBS(毎日放送)、TOKYO MXテレビなどで放送中の『やくならマグカップも 二番窯』。多治見市に引っ越してきた転校生「豊川姫乃」は、同級生らと共に陶芸の魅力に目覚めていく。同時に、高名な陶芸家であった亡き母の故郷「多治見」で、その足跡を追体験していく(資料提供:日本アニメーション)
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 『やくも』は、前半15分にアニメ本編を放送。後半15分には声優らによる実写パート『やくもの放課後』を放送する2部構成となっている。後半では主要キャラクターを演じた声優らが、ゆかりの地域や施設を実際に訪問するほか、作品のメインテーマである陶芸に挑戦してみせる。本編のアニメはもちろん、『やくもの放課後』でも作品の舞台「多治見」の魅力をアピールしている。

 そもそも原作漫画が、焼きもののまち「多治見」を舞台に陶芸に打ち込む女子高生を主人公としているため、その性質上、多治見の名所や陶芸の魅力が無理なく、違和感なく作品内で表現されている。この性質が、アニメによる地域の活性化、いわゆるご当地アニメとしてのポテンシャルにつながると考えた人物がいる。『やくも』アニメ化のきっかけをつくったキーマン、日本アニメーション 制作部、制作進行の石田祐貴氏だ。

モザイクタイルで装飾されたビルが立つ「ながせ商店街」の一角。主人公たちが下校中に寄り道した際に作品中で登場した(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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モザイクタイルで装飾されたビルが立つ「ながせ商店街」の一角。主人公たちが下校中に寄り道した際に作品中で登場した(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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モザイクタイルで装飾されたビルが立つ「ながせ商店街」の一角。主人公たちが下校中に寄り道した際に作品中で登場した(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
イベントホール・美術館の「セラミックパークMINO」。作品中では、主人公たちが参加する陶芸コンテストの会場となる(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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イベントホール・美術館の「セラミックパークMINO」。作品中では、主人公たちが参加する陶芸コンテストの会場となる(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)
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イベントホール・美術館の「セラミックパークMINO」。作品中では、主人公たちが参加する陶芸コンテストの会場となる(写真:バウム、資料提供:日本アニメーション)

 石田氏は多治見市の出身。高校を卒業するまで多治見市で過ごした。その後、大阪の大学に進学。大阪での学生時代に『やくも』のフリーペーパーを手に取ったのだという。

 「地元にいた頃はまだ発行されておらず、大阪のアニメショップで初めて、『やくも』を見ました。多治見は有名な観光地ではありませんし、注目される要素の多い地域でもありません。そんな地元が舞台となっていることに驚き、興味を持ちました。その後、フリーペーパーを見かけるたびに入手し、今に至るまで愛読、大切に保管しています」(石田氏)

 当時、大学生であった石田氏にとって、当初『やくも』は知名度の低い地元が舞台となっている、単なるローカル漫画であっただろう。しかし、よく知った地元を舞台に展開される物語の魅力に引き込まれていき、やがて「アニメで動く姫乃が見たい」と考えるようになっていった。

 その後、石田氏は老舗アニメ制作会社の日本アニメーションに入社。制作進行係として勤務する。そして、入社からおよそ2年が過ぎた頃、社内の企画コンペで『やくも』のアニメ化を提案したのだ。

 通常、アニメの原作は、広く認知されている作品が選ばれやすい。原作の人気によって、成功の底上げがある程度望めるからだ。しかし石田氏は、知名度ゼロといっていい素材を、地元地域と一緒に作品化し盛り上げていこうと考えた。一般的な企画とは大きく異なる試みだった。

 「こうしたかたちで地元に貢献できるのではないかと考えました。また、この企画を最もうまくまとめられるのは、多治見出身の自分をおいてほかにいないとも思えました」(石田氏)

 アニメ版『やくも』でプロデューサーを務めた、日本アニメーション メディア部の手塚健一氏は、この企画提案を「従来とは異なる作り方ができる。これまでにない可能性があると感じました」と評価する。

 まちおこしや地域の活性化にアニメが活用される事例は多く、今では大きな成功事例もいくつか存在する。しかし、手塚氏によると、いわゆるご当地アニメというのは作品ありきの結果であり、企画の段階からご当地となる自治体を巻き込んで制作された例は「ほとんどない」のだという。『やくも』のような試みは、当然、日本アニメーションにとっても初めてだった。

 また『やくも』の企画では、声優が多治見市内を訪問する『やくもの放課後』の収録ロケもあり、地元自治体や関係団体の協力が不可欠だった。手塚氏は石田氏の企画を実現するため、自治体や原作を発行しているプラネットに協力を打診。作品舞台の地元を巻き込んだアニメプロジェクトが立ち上がる。