社員が一緒に本と著者に関わる

2018年には、福岡・天神に書店「本のあるところ ajiro」もオープンされました。

田島書店をやろうというのは、もともとは社員の提案なんです。会社の近くでアクセスがよく、気軽に立ち寄っていただける立地を探しました。他社の本も含め、詩歌と海外文学、旅にテーマを絞ってラインアップしていますが、最近は人文書や同人誌なども増えています。

天神にある書肆侃侃房の書店「本のあるところ ajiro」(写真:大塚千春)
天神にある書肆侃侃房の書店「本のあるところ ajiro」(写真:大塚千春)
[画像のクリックで拡大表示]

店長の坂脇由里絵さんは、どのような経緯で入社されたんですか?

坂脇由里絵さん(以下、敬称略)私はもともと「ajiro」が好きで、お客として通っていたんです。詩歌の本が充実していて、英語圏以外の海外文学も品ぞろえが厚い。他の本屋で見ないような本が並んでいたので、好きだなと。それで、社員の募集があったときに応募したんです。

 ここには、4000冊ほどの本や同人誌を置いています。大手取次を通さず約50社と直接取引し、同人誌は40誌ほどとやり取りがあります。特に詩歌はみんなで作り上げていく同人誌が盛り上がっていて、学生の短歌会など商業出版ではない本の活動も面白いんです。お客さまの年齢は幅広いのですが、多くの人がネットで本を買う時代にわざわざ「ajiro」に足を運んでくださるわけで、本当に本が欲しいという熱心な方が多い。作家を特定せずイメージだけで「こんな作品を読みたい」という難しいリクエストも多くて、雑誌などを読み常に勉強を心掛けています。

「ajiro」店長の坂脇由里絵さん(写真:大塚千春)
「ajiro」店長の坂脇由里絵さん(写真:大塚千春)
[画像のクリックで拡大表示]
「ajiro」店内。置かれた本のテーマは、詩歌、海外文学(小説、エッセイ、人文書)と旅。他の出版社の本や同人誌も扱う(写真:大塚千春)
「ajiro」店内。置かれた本のテーマは、詩歌、海外文学(小説、エッセイ、人文書)と旅。他の出版社の本や同人誌も扱う(写真:大塚千春)
[画像のクリックで拡大表示]

 著者のトークライブ、読書会などのイベントも随時、開催しています。新型コロナウイルスの影響で最近までイベントはオンラインでの開催でしたが、今は参加者の人数を絞って店舗でリアルイベントも開催しています。コロナ禍前のイベントには、最大60人ほどが参加していました。やはり「ajiro」で実際にイベントに参加していただくのが一番だと思いますが、オンラインのいいところもあり、参加人数に上限がない。80人ぐらいの方に参加していただいた有料イベントもあります。遠方からも参加できますから、オンラインイベントも引き続き、継続しています。

田島書肆侃侃房はどんな会社か、どんな人たちがいるのかと興味を持って、福岡を訪れる方がいらっしゃる。「ajiro」は、そうした方々を迎える当社の一つの「顔」です。その役割を坂脇が担ってくれています。

 私一人でできることは限られていますから、社員みんなに関わってもらうしかない。著者に対しても編集者だけでなく、制作とも、営業とも、発送する人間とも「つながる」ようにしています。例えば、営業の人間であれば、「これから営業的な仕事は私が担当します」と著者に連絡します。そのとき、ちょっと本の感想が言えれば、「ああ、読んでもらっているんだな」と著者もうれしいでしょう。坂脇は営業の仕事もしているのですが、とても細かく小説や歌集を読み込んでくれていて、そうしたことが大事だと思います。著者のことが分かると、出身地の新聞社に本を送ろうとか、そこの書店に声をかけてみようとか営業の戦略も考えられる。制作の担当も、自分の仕事の範囲のことは著者に直接聞きます。社員がみんな一緒に本に関わり、著者に関わる。それが書肆侃侃房の強みかもしれません。

書肆侃侃房のオフィス。全員が著者とつながる(写真:大塚千春)
書肆侃侃房のオフィス。全員が著者とつながる(写真:大塚千春)