電力の地産地消をもくろむ

 グリーンリバーホールディングスを率いる長瀬氏は、宮崎県都城市の出身。キャリアのスタートは、地元九州で父親が経営する建設会社での勤務だった。

 「大学で経営を学んだ後、父の会社に入社しました。建設業のあり方から財務まで、経営の一通りを学ぶ機会がありました」(長瀬氏)

 建設会社に勤務するなか、農業との最初の出会いが訪れる。

 「もともと農業には興味がありました。何かをやってみたいと思い、趣味で週末農業を始めたのです。妻の父親が地元の農協職員だったので、そのツテで農地を借り新潟茶豆──、いわゆる『えだまめ』を作りました」と長瀬氏。

 しかし農村での農作業を進めるうちに、畑で作物を育てる行為そのものより、農村コミュニティーにおける経済観に興味が移っていったという。

 「農村コミュニティーの中では、『農業機械を貸してもらったら収穫した豆を贈ってお礼をする』『ちょっとした手伝いの見返りには、作物や農具・消耗品などを受け取る』など、通貨を介さない物々交換や、労働への見返りで地域経済が成り立っています。経済や経営を学んできたためか、そうした独特の経済のあり方を興味深いと感じました」(長瀬氏)

 その後、間もなく長瀬氏は父親の会社から独立、グリーンリバー社を率い独自に建設業を始める。週末農業は数年間の趣味であったが、この経験が後に、長瀬氏の事業に影響を及ぼすことになる。

グリーンリバーホールディングス代表取締役の長瀬勝義氏。同社は北陸新幹線関連事業の建設工事から太陽光発電所の設計・施工と、順調に事業を拡大し、今、農業分野へと進出する(写真:バウム)
グリーンリバーホールディングス代表取締役の長瀬勝義氏。同社は北陸新幹線関連事業の建設工事から太陽光発電所の設計・施工と、順調に事業を拡大し、今、農業分野へと進出する(写真:バウム)
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 独立した長瀬氏は、太陽光発電所の設計・施工会社としてグリーンリバー社の経営を軌道に乗せ、太陽光発電など再生可能エネルギーの「固定価格買取制度(FIT)」を追い風に事業を拡大していく。また、「デジタルグリット」構想で有名な、東京大学の阿部力也特任教授(肩書は当時)との親交により、国内の電力事業の仕組みや複雑な事情、海外での先進的な取り組みなど、電力事業への理解を深めていった。そして、やがて「電力の地産地消」という構想に思い至る。

 長瀬氏によると、「太陽光発電所は、広い土地が必要なので田舎に作られる例が多い」のだという。また電気というのは、送電距離が長くなるほど送電ロスが生じる。そのため、変電所から遠い山間部などの太陽光発電所で発電した電力は効率的に使うことができない。一方、電力を送電ロスが少なくなる近隣地域で使用できた場合、そのコストは大幅に低下するのだという。「理想的なのは、発電したその近隣地域で電力を使用することなのだ」と長瀬氏は解説する。

「電力の地産地消」という理想を語る長瀬氏。かつての農業体験が、独立した小さな経済圏構想の基になったのだという(写真:バウム)
「電力の地産地消」という理想を語る長瀬氏。かつての農業体験が、独立した小さな経済圏構想の基になったのだという(写真:バウム)
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 しかし田舎の山間部には、農業くらいしか産業がない。農業におけるエネルギー利用について、長瀬氏は次のように話す。

 「私の生まれ故郷、宮崎県ではマンゴーが有名です。宮崎は暖かいイメージがありますが、実はマンゴーを豊富に作れるほど、温暖ではありません。マンゴーの生産には、主にボイラーによる暖房が使われています。これは、石油の価格によって農業が大きく影響を受けるということです。しかし、化石燃料を使わずに、地域の太陽光発電によってエネルギーをまかなうことができれば、農業は安定化しさらに進化することができるでしょう。日本の農業を強くするためには、現在のエネルギー事情のままではだめです。化石燃料への依存から脱し、電気を使った高効率な農業が必要です」

 農村コミュニティーがまとまって、独立した太陽光発電所を建設。送電コストの安い近隣地域で電力の地産地消をする──。

 長瀬氏の考える「電力の地産地消」を簡単にまとめると、そのように理解できる。農業を中心に独立した小さな経済圏を創り出そうとする考え方は、かつて新潟茶豆を作っていた際の農業体験から生まれたものなのだという。

 この理想に近づくためには、まず農業が化石燃料への依存から脱し、より安定化・効率化する必要がある。長瀬氏の次の目標が定まった。電気を使って農業を高度化し、その技術で地方の農村経済を変えていこうとする試みだ。