2021年4月、ある水族館が開館20周年を迎えた。山梨県忍野村(おしのむら)にある「森の中の水族館。」だ。正式名称は「山梨県立富士湧水の里水族館」で、“海なし県”唯一の水族館として話題に上ることも少なくない。ここは河川湖沼に生息する淡水魚を中心に展示している全国でも珍しい淡水魚専門の水族館だ。水族館が開設された理由や魅力を、管理・運営している同水族館の飼育スタッフに聞いた。

海なし県でも水産業が盛ん!?

 山梨県は南に富士山、西に南アルプス、北に八ヶ岳、東に奥秩父山系を控え、県土の約8割が森林という自然環境にある。周囲にそびえる2,000m級の山々と豊かな森林が、豊富で良質な天然水を育み、国内のミネラルウオーターの約4割が山梨県で生産されている。

 山梨県立富士湧水の里水族館のある忍野村も、富士山の伏流水を水源とする湧水地が点在する。国の天然記念物であり、富士山世界文化遺産の構成資産である景勝地「忍野八海」を有する水の里だ。

東富士五湖道路山中湖ICから車で5分ほどの位置にある山梨県立富士湧水の里水族館。エントランスホールへは池に架かる橋を渡って入る(写真:中島 有里子)
東富士五湖道路山中湖ICから車で5分ほどの位置にある山梨県立富士湧水の里水族館。エントランスホールへは池に架かる橋を渡って入る(写真:中島 有里子)
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建物の周囲は池に囲まれ、1階内部は「横見水槽」として一部がガラス張りになっているので、池で泳ぐ魚たちを横から見ることができる(写真:中島 有里子)
建物の周囲は池に囲まれ、1階内部は「横見水槽」として一部がガラス張りになっているので、池で泳ぐ魚たちを横から見ることができる(写真:中島 有里子)
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2階には広々としたデッキが設けられ、周囲の森林との一体感が楽しめる、まさに森の中の水族館だ(写真:中島 有里子)
2階には広々としたデッキが設けられ、周囲の森林との一体感が楽しめる、まさに森の中の水族館だ(写真:中島 有里子)
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 山梨県というと、ブドウやモモなどの果樹栽培やワインが有名だが、水産業(内水面漁業)が盛んなことはあまり知られていない。海で営まれる海面漁業に対して、河川や湖沼など淡水で行われる漁業を内水面漁業と呼び、山梨県では内水面漁業の中でも特に養殖が盛んである。豊富で良質な天然水が、淡水魚の養殖にはもってこいなのだ。

 養殖といえばブリやタイなど、海の魚を思い浮かべることが多いだろう。だが、実は食卓に上るニジマスやイワナ、コイ、アユなどよく知られている川魚は、そのほとんどが養殖されたものだ。山梨県では食用としてだけでなく、放流や釣り堀などのレジャー産業向けにも養殖生産を続けている。

 海での養殖は赤潮や海水温の上昇など、海洋環境の影響を強く受ける。しかし内水面では、台風や豪雨などによって水量の増減はあるものの、生育環境の変化が小さいため、比較的安定して漁獲量を確保できる。資源管理がしやすく、食の安全や安定量を維持できる内水面養殖の利点と、山梨県がいかに水に恵まれ、いかに多くの淡水魚を養殖しているかを知ってもらうことが、富士湧水の里水族館をつくった目的だったという。

 養殖業の普及啓発活動の一環として、2001年4月にオープンした富士湧水の里水族館は、忍野村の水と森のテーマパーク「さかな公園」の園内にある。木立に囲まれ、建物の半分を外池で縁取られた館内には、二重構造になっている巨大な回遊水槽や、大きなガラス窓から水族館の外にある池の中の魚を見ることができる横見水槽など、大掛かりな工夫が凝らされた水槽が設置されている。館内には約100種、1万匹に及ぶ生き物が展示されている。

二重回遊水槽は内外二重に仕切られた大型の回遊水槽で、外側にイトウやニジマスなどの大型魚、内側に小型のニジマス類や稚魚などが回遊しているが、一見、ひとつの水槽内に大小の魚が混泳しているように見える(写真:中島 有里子)
二重回遊水槽は内外二重に仕切られた大型の回遊水槽で、外側にイトウやニジマスなどの大型魚、内側に小型のニジマス類や稚魚などが回遊しているが、一見、ひとつの水槽内に大小の魚が混泳しているように見える(写真:中島 有里子)
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1階の二重回遊水槽の向かい側、なだらかに傾斜する通路には、川の源流から中流までの魚の生息環境を再現した「川の魚水槽」が並ぶ(写真:中島 有里子)
1階の二重回遊水槽の向かい側、なだらかに傾斜する通路には、川の源流から中流までの魚の生息環境を再現した「川の魚水槽」が並ぶ(写真:中島 有里子)
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 「この円形の二重回遊水槽は内側にも通路があるので、外側からも内側からも水槽の中を見ることができます。1階には水中トンネルもあって、下からも魚が遊泳している姿を見ることができる。いろんな角度から1本の水槽が見られるようになっているのです。回遊水槽には合わせて4,000匹くらいの魚が入っているのですが、その7~8割がニジマスです。内側の水槽には主に体長20cmくらいのニジマスが、外側だと大きいもので50~60cmにもなるニジマスがいるんですよ」と飼育スタッフの羽生純さんが説明してくれた。

 水槽の水は、地下55~70mの層にある富士山由来の地下水をくみ上げて使っている。一日中、常にかけ流しになっており、排水は最終的に園内を流れる桂川に合流するか、再度地下に浸透させる。「つまり自然濾過するということです。水族館自体が地下から川までの水の循環の一区画に組み込まれていると思ってください」と羽生さん。富士湧水の里水族館では、自然界の水の循環システムをうまく活用しているのだ。