2021年10月、恐竜の専門博物館としては日本で3番目となる「長崎市恐竜博物館」がオープンした。長崎市では、以前から恐竜化石が数多く発掘されてきた。いわば「恐竜銀座」といえる同地に、観光・教育の発信地となる博物館が登場したのだ。博物館には、大型の遊具を備えた「こども広場」などの施設が隣接しており、これらの施設全体で「長崎のもざき恐竜パーク」を構成している。目の前に軍艦島(端島)を望む博物館を訪れ、関係者に話を聞いた。

 はるか昔に絶滅したにもかかわらず、いまなお我々の心をつかんで放さない恐竜。子どもたちにとっては人気玩具のモチーフであり、全国各地の博物館や科学館での展示も盛んに行われている。NHKでは折に触れて特集番組が組まれ、2019年に放送されたある番組では青い毛が生えたティラノサウルスがCGで描かれて話題を呼んだ。

国内初となる大型ティラノサウルス科の化石が発掘

 1978年に岩手県で竜脚類の「モシリュウ」の上腕骨の一部が発見されて以来、日本各地で恐竜化石の発掘が相次いだ。発見場所としては福井、北海道、福島、熊本、兵庫などが有名だが、長崎も負けてはいない。2010年に長崎市野母崎(のもざき)地区の海岸から大型草食恐竜であるハドロサウルス類の膝関節部、2011年に茂木(もぎ)地区北浦(きたうら)町で大腿骨の上半部、2017年に長崎半島西海岸の三ツ瀬層で左肩甲骨が見つかるなど、この10年ほどで発掘ラッシュが続いている。

 なかでも大きなインパクトを与えたのが、2014年に発掘された国内初となる大型ティラノサウルス科の歯の化石だ。歯のサイズから北米のティラノサウルスやアジアのタルボサウルス(どちらも肉食恐竜)など、ティラノサウルス科の大型種に匹敵すると推測され、太古の長崎市周辺にティラノサウルスがいた可能性を示す貴重な手がかりとなった。

ティラノサウルス科の歯の化石
ティラノサウルス科の歯の化石
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 これら学術的価値の高い恐竜化石を集約する施設として、長崎市が2021年10月にオープンさせたのが「長崎市恐竜博物館」である。日本では福井県立恐竜博物館、御船町恐竜博物館(熊本県)に続く3番目の恐竜専門博物館となった。

「長崎市恐竜博物館」
長崎で発見された化石や、迫力ある全身骨格など、約180点の貴重な標本を展示している
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 見どころは大きく3つある。1つ目は6700万年前のティラノサウルスの全身骨格レプリカ。オランダ・ライデン市のナチュラリス生物多様性センターに展示されている愛称「トリックス」の骨格レプリカであり、大きさは全長約13メートル、高さ約4メートルと世界最大級を誇る。実際に目の前に立つとその迫力に圧倒される。ライデン市は医学者のシーボルトが長崎市を離れた後に日本研究を続けたまちで、2013年に長崎市と市民友好都市を締結。そうした縁もあり、国をまたいだ今回の協力につながった。

ティラノサウルス・レックス(愛称:トリックス)の全身骨格化石
ティラノサウルス・レックス(愛称:トリックス)の全身骨格化石
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 2つ目が、2階の展示室にあるティラノサウルスのロボット。最新の学説をもとに羽毛やウロコなどを再現したティラノサウルスで、黄色がかった体が目に鮮やかだ。プログラムによって一定間隔で動き、鳴き声も真に迫る。すぐそばまで近づくことができるため、子どもたちに大人気だという。

頭や胴が動く全長約6メートルのティラノサウルスのロボット
頭や胴が動く全長約6メートルのティラノサウルスのロボット
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 3つ目がオープンラボ。各地から運ばれてきた化石の収蔵庫のほか、国内では3ヵ所の自然史博物館にしかないX線機器室や、スタッフが丁寧に作業に取り組む化石クリーニング室などがあり、恐竜研究の内容をガラス越しに見学できる。博物館の裏側を知ってもらうことで、より恐竜に対する興味・関心を喚起することが狙いだ。

X線機器を使用して化石や岩石の内部を撮影し、3次元データ化する
X線機器を使用して化石や岩石の内部を撮影し、3次元データ化する
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未来の恐竜研究者育成にも貢献

 長崎市秘書広報部広報戦略室主事の上野平将人さんは、新しくオープンした博物館を次のように語る。

 「2014年の大型ティラノサウルスの歯で一躍脚光を浴びましたが、それ以外にも長崎市では多くの恐竜化石が発掘されています。その資産を後世に伝える目的で、恐竜博物館をつくることになりました。観光スポットとして盛り上がってほしいのはもちろんですが、子どもたちに『研究者になりたい』『学芸員になりたい』というワクワク感を持ってもらいたい。教育・研究施設が備えてあるので、一度来て終わりではなく、何度も足を運んでもらえるように博物館の魅力を多くの人に伝えていきたいです」(上野平さん)

長崎市秘書広報部広報戦略室主事の上野平 将人さん
長崎市秘書広報部広報戦略室主事の上野平 将人さん
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 「長崎のもざき恐竜パーク」のデザイナーである松浦優花さんは、長崎市恐竜博物館ならではの学びの工夫についてこう語る。

 「館内にはトリケラトプスの本物の骨や、クビナガリュウの骨の模型にじかに触れるハンズオン展示もあるので、自分たちが考えながら見学する教材として活用できるのが特徴です。さっそく多くの学校が授業の一環で訪問したり、修学旅行のコースに組み込んでくれたりしています。子どもたちが学習シートを使って展示を見ながら問題を解き、最後に学芸員と答え合わせをするイベントなども実施しました。これまで恐竜に興味のなかった子どもたちにも、面白く感じてもらえるきっかけを提供したいと考えています。トリックスのレプリカを組み立てるときは、地元小学校の児童が訪れて目を輝かせて見学していました。そうした、一生心に残る体験を提供していきたいと思います」(松浦さん)

「長崎のもざき恐竜パーク」のデザイナー・松浦優花さん
「長崎のもざき恐竜パーク」のデザイナー・松浦優花さん
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 先に挙げた発掘調査は、国内でもトップの実績を誇る福井県立恐竜博物館との共同研究で進めてきた。さらに熊本県の御船町恐竜博物館のエリアには、長崎市と時代が近い地層がある。お互いに研究を進めることで、白亜紀後期の九州にいた恐竜たちの様子が明らかにできるのではないかと期待している。

 「日本に3館しかない恐竜専門博物館として、連携を強固にしていきたいと思っています。企画展の開催準備にあたっては、福井、御船、当館とも、それぞれ収蔵されている骨格標本などをお互いに貸したり、借りたりすることで、充実した企画展の開催をめざしています」(松浦さん)

館内には大小を問わず多数の恐竜が展示されている
館内には大小を問わず多数の恐竜が展示されている
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長崎市郊外のランドマークに秘めた可能性

 化石発掘地の一つでもある野母崎地区に建てられた長崎市恐竜博物館は、正面に海が広がる絶好のロケーション。1階展示室の大窓からは世界文化遺産に指定された軍艦島を望むことができる。ここでは、長崎に恐竜がいたとされる8100万年前の白亜紀後期と、明治〜昭和にかけて栄えた石炭産業の功績がリンクする。

 松浦さんは、野母崎で生まれ育った生粋の地元っ子。博物館で働くことになったのは、同級生で、野母崎の魅力をSNSで発信する「水仙マン」からの紹介がきっかけだ。野母崎は以前から約1000万本の水仙が咲く水仙の里として知られ、毎年冬に「水仙まつり」が開催されている。水仙マンは水仙にちなんだ地元のキャラクターで、地域の魅力を発信する活動をしている。

 「2021年10月のオープン以来、遠方からもたくさんの観光客が来てくれています。博物館のスタッフは地元の人が多く、私も顔見知りの近所の人たちに声をかけてもらうことも多いです。ショップでは私がデザインしたグッズが売られているので、購入して近所に配ってくれたりするのもありがたいです。最近では野母崎周辺におしゃれなカフェやピザ店などができ、長崎市からのドライブデートの場所としても有名になってきました。ここがハブとなり、野母崎エリアがもっと盛り上がってほしいと思います」(松浦さん)

長崎市恐竜博物館では珍しい化石も展示されている。左から、アンモライト(アンモナイトの化石の中で表面が色を伴って結晶化して宝石になったもの)、ビンクティファ―
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長崎市恐竜博物館では珍しい化石も展示されている(左から、アンモライト、ビンクティファ―)
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長崎市恐竜博物館では珍しい化石も展示されている(左から、アンモライト、ビンクティファ―)

 敷地の一帯は「長崎のもざき恐竜パーク」という複合施設として整備され、まさにハブの様相を呈している。恐竜博物館を最奥に、さまざまな遊具があるこども広場、軍艦島資料館、約1000万球の水仙を植栽した水仙の丘、恐竜サンドや地元の名産品を販売する売店などを配置した。さらには地域住民のための野母崎文化センター、恐竜パーク体育館も併設している。

 「博物館はもちろんですが、恐竜パーク全体としてもアピールしていきたいと思っています。ここに来れば家族で楽しめる。長崎市から恐竜パークに来るまでの道中は美しい海沿いが多く、途中には恐竜時代よりも古い約4億8000万年前に生成されたという名勝の夫婦岩があります。一方で、長崎市の中心では舶来文化や幕末の史跡を堪能できます。恐竜パークが完成したことで、長崎市の観光は古代、近世、近代までを一気に駆け抜けることができるようになりました。2022年秋に西九州新幹線が開業すれば、野母崎のような郊外にも、より多くの人の流れが生まれるに違いないと思っています」(上野平さん)

 なお、恐竜博物館の目の前には「野母崎のモンサンミッシェル」と呼ばれる田ノ子島がある。その名の通り、大潮の干潮時に博物館下の砂浜と陸続きとなり、恋愛成就のパワースポットとしても名高い。タイミングが合えば、1階の展示室からティラノサウルス、陸続きとなった田ノ子島、軍艦島が同居する風景を撮影できる。究極の“映え”スポットとして火がつく日も近いかもしれない。

上野平将人さん/松浦優花さん
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(編集部注:「ニッポン恐竜博物館行脚」と題して、長崎市恐竜博物館を皮切りに、今後も恐竜専門博物館の話題を紹介していく予定です)