事業を支援してくれたキーマンとの縁

 法人化する前から、河瀬さんは県内のさまざまな企業と交流する機会を持っていたが、そんな関係づくりをサポートしてくれたのが岐阜県庁の一人の職員だった。中小企業などを支援する商工関連の部署にいたその職員は、中小企業やネット通販の事業者と交流を深め、次々に新しい企画を立ち上げては熱心に取り組んでいたという。

 「その人は、さまざまな地域の課題を解決するには多分野にわたる力が必要だということを常々発信していました。一方、私は私で、保護猫の活動や猫の問題を解決するには行政の力が必要だと考えていたので、『いつか一緒に何かできたらいいですね』という話はずっとしていたのです」と河瀬さんは言う。ところが、その職員は2015年12月に岐阜県庁を退職してしまう。

 しかし、彼の新たな一歩は河瀬さんを鼓舞するものだった。翌2016年3月、彼が飛騨市長に就任したのである。現在、飛騨市長の2期目を務めている都竹淳也氏だ。

 飛騨市長に就任後の都竹氏から「ふるさと納税を活用して、ソーシャルビジネスを立ち上げるシステムをつくろうと思っている」という話を聞いた河瀬さんは、「もしそれがかなったら、必ず応募したい」と告げたそうだ。

 河瀬さんはそれまでも、企画した猫関連の事業を県内外のいくつもの市町村に提案してきた。資金源が確実でなければできないと思っていたので、「ふるさと納税を活用できたらいい」という話は、行った先々でしてきたのだ。

 それが、いよいよ飛騨市で実現することとなった。先にも少し触れた「飛騨市ふるさと納税活用ソーシャルビジネス支援事業」である。2021年度の対象事業として、ふるさと納税を活用して市内の社会課題や地域課題の解決に取り組む事業者を募集。応募したネコリパブリックの事業計画は審査を通過した。プロジェクト「SAVE THE CAT HIDA」への寄付は、2021年9月から受け付けが開始された。

保護猫が新しい家族と出会うための場所としてつくられた「ピュリナ ネコのバス」。猫カフェのようなゆったりした車内で、譲渡会を行っている(撮影:中島 有里子)
保護猫が新しい家族と出会うための場所としてつくられた「ピュリナ ネコのバス」。猫カフェのようなゆったりした車内で、譲渡会を行っている(撮影:中島 有里子)
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保護猫を高齢者に預けて見守る事業を提案

 では、飛騨市が抱える課題を、ネコリパブリックが掲げる「猫助け」と、どのように絡めるというのだろうか。

 飛騨市は岐阜県の最北端に位置する市で、人口は約2万3,000人。ご多分にもれず高齢化が進んでおり、河瀬さんの説明では「日本の30年後の姿」だとのこと。高齢化比率は約40%で、独居の高齢者も少なくない。河瀬さんの経験から、高齢者が多い地域には「猫問題」が隠れているという。いつの間にか多頭飼いになっていた、高齢の飼い主が亡くなって猫が行き場を失っている、などはよくあるケースだ。

 飛騨地方は雪が多く寒さも厳しいので、冬を越せない野良猫が多い。そのため暖かい地域に比べると野良猫の繁殖率は低いのだが、ヒアリングすると少なからず「あそこの家、猫が多いけど大丈夫かな」とか「ここの地域は野良猫がいる」という声を聞き、調べると保健所に持ち込まれる猫もいる。

 そこで河瀬さんたちは、高齢者と猫を結び付けた「ネコミュニティー」事業を考案した。保護した猫を高齢者に預かってもらい、猫の様子を確認するために訪問することで高齢者の見守りにつなげるという新しい形の高齢者見守り事業を、飛騨市で展開するつもりだ。ふるさと納税を活用する事業の一つに、保護猫を介した地域コミュニティの形成を掲げている。

 また「飛騨高山」といえば、国内有数の観光地として名高く、新型コロナ発生前にはインバウンドからも人気を集めていた。ただ、名称に「飛騨」が含まれているものの、観光エリアのメインは古い街並みや朝市、300年以上の歴史を誇る高山祭で名高い高山市。けれど、飛騨市も負けてはいない。城下町として栄えた面影の残る旅情豊かなまち並みがあり、毎年4月に開催される古川祭では、絢爛豪華な屋台がまちを練り歩く。その勇壮さと伝統美の競演は圧巻だという。

 とはいえ、観光客は高山で小京都の風情を堪能してしまい、飛騨市まで足を延ばしてもらえない実態もある。ならば、思いがけない新たな魅力の創生が必要だ。

飛騨市を「日本一猫に優しいまち」にしたい

「SAVE THE CAT HIDA」で打ち立てたコンセプト(資料:ネコリパブリック)
「SAVE THE CAT HIDA」で打ち立てたコンセプト(資料:ネコリパブリック)
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 そこで、飛騨市独自の魅力として「猫に優しいまち」をブランディングし、ネコリパブリックが猫イベントなどを定期的に行うことで集客につなげようと考えた。

 猫がまちの魅力の一つになっているところは少なくない。国内なら広島県の尾道市や東京の谷根千エリア、宮城県の田代島、瀬戸内海に浮かぶ青島(愛媛県)などがあり、猫好きにはたまらないスポットだ。海外でもギリシャのミコノス島や地中海のマルタ島は有名で、古くから島にいる猫が風景の一部になっている。

 河瀬さんは保護猫活動を通して、保護猫が生まれる原因はすべて人間にあり、人間の社会問題と密接に関わっていることを知った。人間の社会問題に寄り添うかたちで解決策を講じなければ、同じことが起こり続けると感じている。

 そのため、SAVE THE CAT HIDAの事業計画を立てる際には、社会問題を解決するためにはどういった事業が必要か、そしてその事業は継続性があるかを精査したという。

 初年度である今年は先にも触れた「猫勢調査」を中心に着手。2023年以降にはソーシャルビジネススクール「猫の学校」を創設して、飛騨市から猫助け人材を輩出することをめざす。折しも飛騨市には2024年4月に、科学や数学、芸術などを学ぶ「共創学部」を持つ4年制の私立大学「Co-Innovation University」(仮称)が開校する予定だ。ネコリパブリックでは市内の空き家を使って、学生や長期滞在者のためのシェアハウスやゲストハウスの運営も予定しているというから、シナジーが期待できそうだ。

 河瀬さんは「(ふるさと納税として寄付を募るやり方であれば)自治体は財政的な負担を強いられず、企業は(企業版ふるさと納税の仕組みを活用することになるので)税負担が軽減され、個人の納税者は返礼があり、私たちは寄付金で猫のために持続的な事業に取り組めます。誰も金銭的に苦しまず、夢が実現できる今回の仕組みは素晴らしいと思います。成功例になれるよう、その第一歩を飛騨市から踏み出します」と、力強く締めくくってくれた。