老若男女を問わず、多くの人に親しまれる水族館。数多くの海の生き物に出合えるだけでなく、生き物のショーや触れ合い体験など楽しみ方もさまざまだ。新しい水族館が各地に誕生し、地域観光の核になる施設として人気を集める水族館も多く、その人気は高まっている。一方で、2021年に「志摩マリンランド」「京急油壺マリンパーク」が相次いで閉館するなど、地域に根差してきた水族館の撤退も見られる。水族館を研究テーマとしている原澤恵太さんに、まちづくりや地域コミュニティーにおける水族館の可能性や、運営における課題などを聞いた。

今回は「水族館と地域との関わり」というテーマでお話をお伺いしたいのですが、まず日本の水族館全体の動向として、施設数や利用客は増えている状況なのでしょうか?

原澤まず前提として、実は水族館の数に関する正確な統計データがありません。日本には日本動物園水族館協会という古くから存在する業界団体があり、この団体に加盟している水族館は全国に49館あるのですが、加盟していない水族館も多いです。水族館は統一的な根拠法もないため厳密な定義がなく、正確な数は誰にもわからないのですが、小規模な水族館や水槽展示施設みたいなものも含めると全国で100ヵ所を優に超える数があります。

水族館研究家・原澤恵太氏
水族館研究家・原澤恵太氏
[画像のクリックで拡大表示]

 これは世界的に見てもかなり多く、日本は世界屈指の水族館大国ともいわれています。海外では、いわゆる水族館が動物園と併設されている場合も多く、水族館が単独で運営されているケースが多いのも日本特有の傾向です。日本は島国で海岸線が非常に長いことから、海や海の生物への親しみが強いという国民性や文化的背景を根底に、未知の生き物に対する知的好奇心、天候に左右されにくい利便性などさまざまな要因が水族館の人気につながっているのでしょう。現在はコロナ禍の影響を大きく受けて厳しい状況ですが、水族館の利用者は近年、着実に増加傾向にありました。

全国各地には、いろいろなコンセプトの水族館がありますが、最近は何か新しい傾向が出ていますか?

原澤最近の傾向として、デジタル技術を活用した演出が増えていることが挙げられます。例えば、2020年開業の沖縄県豊見城市の「DMMかりゆし水族館」では「リアルとバーチャルの融合」をテーマにしています。巨大なバーチャル水槽があり、ダイオウイカやジンベイザメなど展示できない生き物の迫力ある映像コンテンツを公開しています。また別の展示では夜に星空が見えるようになるなど、時間帯によって演出が変わることも特徴で、一つの展示エリアで複数のコンテンツを表現することでリピート来館を促そうという狙いもあります。デジタル技術の活用はまだ過渡期にありますが、飼育できない生き物の生態などをデジタルならではの技術によって再現する演出は、水族館展示の一つの進化だと思います。

「DMMかりゆし水族館」の昼間のバーチャル映像の例(写真:原澤恵太氏)
「DMMかりゆし水族館」の昼間のバーチャル映像の例(写真:原澤恵太氏)
[画像のクリックで拡大表示]
「DMMかりゆし水族館」の夜間のバーチャル映像の例(写真:原澤恵太氏)
「DMMかりゆし水族館」の夜間のバーチャル映像の例(写真:原澤恵太氏)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方で、近年では「そもそも水族館とはどのような存在であるべきなのか」が改めて議論されており、SDGsへの貢献や環境配慮、動物福祉という観点も重要なテーマになっています。

水族館の社会的役割と地域振興

具体的にはどのような議論が進んでいるのでしょう?

原澤例えば日本動物園水族館協会では、水族館には次の4つの社会的役割があると説明しています。生物の生態、飼育法などの「調査・研究」、自然や生物について考えるきっかけにもなる「教育」、絶滅の危機に瀕している生物を保護する「種の保存(保全)」、そして訪れる人々に娯楽や安らぎを提供する「レクリエーション」です。それぞれ大事な役割ですが、この4つのバランスが悪くなっているのではないかという指摘が出ています。

水族館の4つの役割(資料:原澤恵太氏)
水族館の4つの役割(資料:原澤恵太氏)
[画像のクリックで拡大表示]

 いま、水族館を訪れる利用客のほとんどが「レクリエーション」を目的にしていて、水族館をある種のテーマパークのようなものと認識しているのではないでしょうか。そこで、言葉を選ばずに言うと、人間のレクリエーション「だけ」のために生物を利用、消費していいのかというのが論点になります。水族館の4つの社会的機能はバランスよく存在するべきで、レクリエーション偏重の傾向があるなら、それを見直そうという動きが強まってきた。いま、そういう転換期にあるといえます。

 「環境」を意識した取り組みが増えていることも、そうした問題意識を反映しています。教育的な内容の体験プログラムや飼育員とのインタラクティブなコミュニケーションを取ることで、生物や生態、環境により深い興味を持ってもらえるようにするなど、コンテンツの質的な改善をいかに進めるかが水族館関係者の大きなテーマになっています。

環境テーマの特別展の開催も増えている。写真は「上越市立水族博物館うみがたり」(新潟県上越市)の例(写真:原澤恵太氏)
環境をテーマとした特別展の開催も増えている。写真は「上越市立水族博物館 うみがたり」(新潟県上越市)の例(写真:原澤恵太氏)
[画像のクリックで拡大表示]

水族館と地域振興というテーマについては、どのようにお考えですか?

原澤もともと水族館は集客力が大きく、地元のまちづくりに貢献するという意味で地域振興の側面は強かったと思います。民営の場合にも鉄道会社や不動産会社などが運営するケースも多く、水族館が地域沿線の活性化につながったり、水族館を訪れる人が増えたりすることで鉄道利用者も増加するといった経済波及効果が期待されていました。ただ、2021年に相次いで閉館した「京急油壺マリンパーク」(神奈川県三浦市)や「志摩マリンランド」(三重県志摩市)に象徴されるような、人口集中地域から離れている水族館は、設立の段階から経済波及効果への期待が特に強かったと考えられ、コロナ禍の集客減など経営環境の変化を受けやすい構造にあります。

 もちろん経済波及効果も大切なのですが、これからの水族館のあり方を考えると水族館ならではの地域コミュニティーとの新たな関わり方が重要になっています。水族館が社会的役割を発揮するためにも、例えば地域の人々が直接的・間接的に水族館の運営に協力する“関係づくり”が、今後の水族館にとっても、地域にとっても大きなプラスの効果を生むはずです。