多様なかたちで地域に貢献する水族館

実際に、地域コミュニティーとの関係づくりを積極的に進めている水族館も出てきていますか?

原澤個人的に優良なモデルケースになると考えているのは、神奈川県藤沢市の「新江ノ島水族館」です。前身の施設が1954年開館の歴史ある水族館ですが、江の島という地域にいかに貢献するかをしっかりと意識した運営を進めています。

 例えば、地域団体の「江ノ島・フィッシャーマンズ・プロジェクト」と協力して、海底清掃活動や藻場の保全活動を実施するなど、地元の人々と江の島周辺の環境保全に努めています。また、2009年から「えのすいeco」事業という環境活動にも取り組んでいます。「えのすいecoサポーター制度」を立ち上げて、水族館として活動資金の一部を確保しながら、個人・法人のサポーターとともに海岸の清掃活動や環境を学ぶ学習プログラムを展開し、地域の方が環境活動に参加する受け皿になっているのです。水族館の利用客や地元の人々と密接に関わり合いながら、江の島周辺の価値を高める活動として好例といえるのではないでしょうか。経営学の視点からは、地域との関わりを軸とした「ブランディング」の実践として捉えることができます。

「新江ノ島水族館」の館内に飾られている「えのすいeco活動」の紹介パネル(写真:原澤恵太氏)
「新江ノ島水族館」の館内に飾られている「えのすいeco活動」の紹介パネル(写真:原澤恵太氏)
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「新江ノ島水族館」の館内には「えのすいecoサポーター」の名前が書かれたプレートも掲示されている(編集部注:名前は写真を加工して消しています)(写真:原澤恵太氏)
「新江ノ島水族館」の館内には「えのすいecoサポーター」の名前が書かれたプレートも掲示されている(編集部注:名前は写真を加工して消しています)(写真:原澤恵太氏)
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■新江ノ島水族館
https://www.enosui.com/

地域振興という点から注目されている水族館は、ほかにもありますか?

原澤地域の人々がボランティアとして、水族館の運営に直接的に参画しているところがあります。こうしたケースも地域における大事な「コミュニティー」の役割といえます。愛知県名古屋市の「名古屋港水族館」では、生き物の解説や観察指導を多くのボランティアが担っています。ボランティアの年間活動人数は延べ約3000人にもなります。「タッチタンク」(さまざまな生き物に触れることができる水槽)を利用する子どもたちに対して、生き物に負担を与えない触れ方を教えたり、近隣の海の生物の状態を解説したりと、ボランティアが水族館の利用客と生き物の橋渡し的な役割を担っているのです。

■名古屋港水族館
https://nagoyaaqua.jp/

 福島県いわき市の「アクアマリンふくしま」や東京都江戸川区の「葛西臨海水族園」も、ボランティアが積極的に活動しています。ボランティアをすること自体がシニアの方々の生きがいになっていたり、生涯教育になったりする側面もあって、それもまた地域に根ざした水族館の機能の一つになっています。水族館とボランティアが相互に支え合うシステムによって、水族館はより地域にとって大切な存在になっていきます。また、この2つの水族館は「移動水族館」プログラムも実施しています。学校教育を補完する学びの場となるだけでなく、障がいや病気などの理由で来園が難しい人たち向けに生き物と触れ合う機会を増やすことも、地域貢献につながっています。

■アクアマリンふくしま
https://www.aquamarine.or.jp/
■葛西臨海水族園
https://www.tokyo-zoo.net/zoo/kasai/

 「アクアマリンふくしま」は“環境水族館”をコンセプトにしていて、環境保全にも非常に積極的です。館内のレストランでは面白い取り組みを行っています。できるだけ資源量が安定した魚介類を食べることを推奨する「ハッピーオーシャンズ」運動です。レストランでは、資源量が多い魚を中心としたメニューを提供しています。さらに資源量の多い順に青・黄・赤と交通信号になぞらえて分類し、ひと目で水産資源の現状がわかるようになっているのです。食育と資源持続性の啓発を組み合わせた試みで、館内だけでなく地元の飲食店も協力しています。アメリカにも同様の「シーフード・ウオッチ」というプログラムがあって、すでに数多くの水族館と飲食店が協力して全米に広がっています。日本でも「ハッピーオーシャンズ」の広がりに期待したいですね。

「アクアマリンふくしま」内レストランでの「ハッピーオーシャンズ」のメニュー(写真:原澤恵太氏)
「アクアマリンふくしま」内レストランでの「ハッピーオーシャンズ」のメニュー(写真:原澤恵太氏)
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「ハッピーオーシャンズ」の解説パネル(写真:原澤恵太氏)
「ハッピーオーシャンズ」の解説パネル(写真:原澤恵太氏)
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 地域振興でもうひとつ注目したいのは、水族館の研究が地域の水産業に貢献するという側面です。青森県青森市の「浅虫水族館」では、北海道大学と共同でゼニガタアザラシの生態などを研究しています。ゼニガタアザラシは一時期は絶滅が危惧されたこともあるのですが、漁師の立場から見るとサケ漁の定置網に入り込んで漁業被害を引き起こす害獣でもあります。そこで「浅虫水族館」では漁業とゼニガタアザラシの共存をめざして、さまざまな研究を進めているのです。ゼニガタアザラシは館内で飼育しており、研究結果を展示にも生かしています。こうした研究機関などとの連携も、今後はさらに重要になってくるのではないでしょうか。

浅虫水族館でのゼニガタアザラシの展示(写真:原澤恵太氏)
浅虫水族館でのゼニガタアザラシの展示(写真:原澤恵太氏)
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■浅虫水族館
http://asamushi-aqua.com/