レクリエーション以外の機能を充実させた収益化が課題

水族館と地域には、さまざまな関わり方があるのですね。地域振興にとって水族館が持つポテンシャルはかなり高いといえそうですね。

原澤そうですね。水族館にとって、長期的な社会環境の変化に対応するためにも「レクリエーション以外の機能をいかに強化していくか」を考えていく必要があります。そのためにも、「地域振興」の視点で新しい付加価値をつくることには大きな意味があるでしょう。

 水族館は地域にとって、集客装置としての効果が大きいことは間違いありません。最近のエンターテインメント重視の演出や民間参入の増加も、それを反映しています。ただ、例えば、ライティング演出を活用したアート性の高い「水族館」などが人気を集めていますが、生き物への配慮が十分でないようなケースも少なくありません。集客だけを重視して、こうした演出に偏ってしまうのは、生き物との適切な関わり方を発信すべき水族館の社会的役割を考えると問題でしょう。

 その一方で、水族館の収入は基本的に入館料から成り立っているので、短期的な顧客ニーズにも答えなくてはいけません。最近の全国での水族館の新設企画を見ると、やはり集客装置としての側面を重視しているケースが多いように感じます。今は技術の向上などによって「気軽」に水族館を設立できる時代になっており、官民を問わず全国的に水族館を地域振興の目玉として期待するような事例をよく目にしますが、生き物を「使う」という視点だけでなく、水族館であることの必要性や社会的役割の発揮などを十分に考慮することが求められるでしょう。

今後、水族館の社会的役割の向上と地域振興という観点から、どのような仕組みが必要だとお考えですか?

原澤水族館関係者のほとんどの人は、研究や教育、種の保全といった機能が重要であることを認識していますが、それが短期的には集客につながらないため、経営資源を割く意思決定が難しい構造にあります。そこで、今後は入館料以外に収入を得るシステムを作ることが今まで以上に重要になると考えられ、私自身も水族館の「ファンド・レイジング(編集部注:寄付や会費などを通じて、主に社会課題解決のために資金を調達する行為)」を研究テーマにしています。

 欧米の水族館では、寄付金による収入が全体の約3分の1を占めるところもあるほど、寄付で運営資金を調達する仕組みができあがっています。寄付が多いということは、寄付者(利用者)が水族館に対してその社会的役割を認めることであり、その地域にとって「水族館がなくてはならない存在」として深い関係が築かれていることでもあるため、水族館の資金調達としての意義だけでなく、地域との関係や社会的役割の発揮を裏付ける指標という点からも意義があります。日本でもいくつかの水族館でサポーター制度といった寄付を募る仕組みを持っていますが、運営資金としてまだまだ十分とは言い難い状況です。

 水族館の役割のうち「調査・研究」「教育」「種の保存(保全)」は、これまで直接の収益には結びつかないコストセンターと捉えられてきた一面もありました。これからは、こうした役割においても環境やサステナビリティの重要性といったメッセージを打ち出し、実践することで、水族館の利用客や企業の関心を集めていく。それが寄付などの新たな収入、さらなるボランティアの確保につながり、地域との関係をより深めていくことになります。1回限りの訪問客を増やすよりも、地域の人たちが繰り返し訪れるような水族館が求められています。そのためにも水族館は改めて地域の課題や地域の未来を見つめ直し、持続可能なかたちでその社会的役割や公益性を考えていく必要があります。

原澤恵太氏
[画像のクリックで拡大表示]
原澤恵太氏
水族館研究家。2018年、法政大学経営大学院(MBA)にて修士論文「水族館経営構造の体系化と持続的発展の考察」を執筆して修了。以降、経営学の観点から水族館の持続可能なビジネスモデルの構築に向けた研究を行いながら、水族館関係者向けの講演や経営支援のほか、帝京科学大学の非常勤講師として博物館学・水族館学の授業などを行う。2017年11月より「水族館.com」を開設・運営するほか、各種メディアやSNSにて水族館経営に関する啓発・情報を発信中。
■水族館.com
https://aquarium-japan.jp/