「魅力的なお店を集めてにぎわいを創出したい」「企業を誘致して税収を確保したい」「地場産業でまちおこしをして交流人口を増やしたい」──。「まちづくり」という言葉には、自由に「理想のまち」を思い描き、バラ色の未来を語り合える魅力がある。しかし、現実のまちづくりにおいては、人口問題、自治体財政、エネルギー問題など、さまざまなリスクやコストを想定しなければならない。未曽有の災害に見舞われることもあるし、利害の対立も起こる。まるで難解な方程式を解くような、複雑な思考と意思決定が求められるものだ。そうした「まちづくり」における思考や意思決定プロセスを、わかりやすく、実践的に学ぶことができるボードゲームがある。それが「みんなのまちづくりゲーム in cities」だ。

 「みんなのまちづくりゲーム in cities」の開発を主導したのは、横浜国立大学で教鞭をとる池島祥文氏、志村真紀氏、伊集守直氏の3人の教員。池島氏は地域経済学、志村氏は建築を中心とするデザイン学、伊集氏は地方財政論と、専門もバラバラの3人は、同大学の1、2年生を対象に、さまざまな学問領域の視点からまちづくりを学ぶオムニバス講座「かながわ地域学」を主宰している。

 「例えば『にぎわいを創出する』とひと言で言っても、どのようにヒト・モノ・カネを循環させるのか、税金をいかに地域内に投入するのか、といった幅広い視点が、まちづくりには欠かせません。そういった、まちづくりに必要な学際的な知識を身につけるプログラムを運営しています」(志村氏)

 その一方で、池島氏たちはあるジレンマを抱えていた。まちづくりに必要な知識を座学で教えることはできても、その知識を実際のまちづくりの現場で実践する機会は、社会との接点が少ない学生たちにとってきわめて限られているのだ。池島氏は「そこで、学生たちが座学だけでなく、能動的に学べるアクティブラーニング教材として、まちづくりをシミュレーションできるゲームを開発できないか、と考えていました」と話す。

「みんなのまちづくりゲーム in cities」
「みんなのまちづくりゲーム in cities」(写真提供: 池島祥⽂⽒)
[画像のクリックで拡大表示]

被災地で生まれたまちづくりゲームをバージョンアップ

 池島氏によると、当初はそのための教材を一から作ることも考えたものの、情報を集めている中で運命の出会いがあった。それが、宮城県南三陸町の「南三陸研修センター」が開発した「みんなのまちづくりゲーム」だ。

 2011年の東日本大震災からの復興をめざして、まちづくりの方法論を町民と共有するために開発されたというこのゲームに「まちづくりのプロセスがわかりやすく盛り込まれていて、楽しみながらまちづくりに必要な視点を学ぶことができる」と感銘を受けた池島氏たち。同センターに「このゲームをベースにした、新たなまちづくりゲームを一緒に開発したい」と呼びかけたところ、快諾を得た。

 こうして、南三陸町で生まれた「みんなのまちづくりゲーム」を、都市部から地方の村まで、どの「まち」にも適用できるゲームとしてバージョンアップしたのが「みんなのまちづくりゲーム in cities」だ。「あらゆるまちづくりの現場で使ってほしい」というメッセージを、「in cities」という複数形のネーミングに込めた。

まちづくりのスタートは「エネルギーの購入」から

 「みんなのまちづくりゲーム in cities」(以下「みんまち」)のゲームの流れを、池島氏たちにポイントを解説してもらいながら見ていこう。

 ゲームのアイテムは、ボード、5種類のカード(エネルギーカード、ハプニングカード、SDGsカード、政策カード、アクションカード)、お金、そして「エネルギー&ゴミチップ」「原子力&ゴミチップ」で構成される。そして、プレーヤーは一人の「役場」と、それ以外の「住民」に分かれる。

 ゲームはまず、住民の間でめざすべきまちづくりの目標を決めることから始まる。具体的には、17項目のゴールを記載した「SDGsカード」の中から3枚を選択する。

 「今日、まちづくりにおいてもSDGsの視点は欠かせません。そこで、ゲームを通じてSDGsについて自然と学べる仕掛けとして、このSDGsカードを導入しました」(志村氏)

 目標を設定したら、いよいよまちづくりの具体的なアクションに移る。ここでは、次のサイクルを一つの単位(=1年)としてゲームを進めていく。

①エネルギー施設の選択と購入
②住民によるアクション
③議会の開催
④役場による地域の運営
⑤ハプニング

 「①エネルギー施設の選択と購入」から始まるのは、まちづくりにおけるあらゆる活動には「エネルギー」を必要とするためだ。住民同士で話し合い、「エネルギーカード」の中から、エネルギーをあらかじめ購入しておく。域外のエネルギー施設(火力・原子力・再生可能エネルギー)から購入しても、域内にエネルギー施設をつくってもよい。

 エネルギーを調達したら、「②住民によるアクション」に移る。一人ひとりの住民は「アクションカード」から「ブランド産品の開発」「ファーマーズマーケットの開催」などのアクションを選択する。なお、アクションごとにあらかじめ購入しておいたエネルギーが消費される。

真剣な表情で話し合う学生たち。まちづくりにおける意思決定プロセスもゲームを通じて疑似体験できる
真剣な表情で話し合う学生たち。まちづくりにおける意思決定プロセスもゲームを通じて疑似体験できる(写真提供: 池島祥⽂⽒)
[画像のクリックで拡大表示]