全国各地で大きな問題となっている空き店舗や空き家。富士山のお膝元、山梨県富士吉田市のかつての目抜き通りでも、シャッターが下りたままの店が少なくない。しかし、その風景に大きな可能性を感じて移り住んだ人がいる。同市で宿泊施設SARUYA HOSTEL(サルヤホステル)などを経営する八木毅さんだ。2021年末から2022年1月にかけて開催されたアートイベントを仕掛けたが、そこにも地域再生を見据えた視点があった。シャッター街の可能性とは何か、どうすればその風景が変わるのか。八木さんに話を聞いた。

 近年、全国各地でアートフェスティバルが開催され、多くの人の関心を呼んでいる。その中で、ユニークな内容で注目されたイベントがある。2021年末から2022年1月にかけて、山梨県富士吉田市で初めて開催された「FUJI TEXTILE WEEK(フジ テキスタイル ウィーク)」だ。織物の名産地として千年以上の歴史を持つ同市で、テキスタイルをテーマとし、アート展と機屋(はたや)の展示会を同時開催したもの。数多(あまた)のアートイベントの中でも、地場産業と密接に結び付いた内容は珍しい。

 「フジ テキスタイル ウィーク」のアート展では、10組のアーティストが市内の空き店舗、蔵などのスペースで作品を展示。富士吉田の機屋の素材を用いた作品や、まちの風景、歴史を映した作品など、アート作品というだけでなく、地域の個性を強く鑑賞者に訴えかける内容となった。

 「このイベントでは、各アーティストがテキスタイルを用いて、さまざまな表現を見せてくれました。アートはモノの価値を大きく高める力を持っています。アーティストとコラボレーションしたり、作品からインスピレーションを得たり、アーティストと直接触れ合ったりする機会を持つことで、機屋さんたちにも自ら表現することの価値に気づいてほしかったんです」。こう話すのは、実行委員長を務めた八木毅さん。フランスの美術大学院を修了したクリエイターでもある。

「フジ テキスタイル ウィーク」実行委員長の八木毅さん。株式会社DOSO(ドーソ)代表(写真:大塚千春)
「フジ テキスタイル ウィーク」実行委員長の八木毅さん。株式会社DOSO(ドーソ)代表(写真:大塚千春)
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 織物のまちとして長く栄えてきた富士吉田市も、戦後の「ガチャマン」(ガチャッとひと織りすれば万のお金がもうかるという意味)と呼ばれた時代以降は、外国産の安い織物に押され、産業が衰退した。しかし10年ほど前から、デザインに力を入れた織物で再び大きく注目されており、「フジ テキスタイル ウィーク」はさらなる飛躍をめざすためのイベントと、八木さんは位置づける。

 作品の中には、油彩作品のイメージを表現した生地やアーティストの要望を反映した生地を地元の会社が製作し、これらを用いたインスタレーション(展示空間を使った3次元的な表現)や絵画もあった。「こうした経験を通して、『こんなテキスタイルをつくりたい』という機屋さん自身の発想につながれば、産業の推進力になる」と八木さんは考えている。実際、作家と共同制作をした会社からは、アーティストから通常の業務では聞いたことのない要望を伝えられ、その実現のためどのような布を織ればよいのかなどと考えることで、非常にいい刺激になったという感想が聞かれたそうだ。

児玉麻緒『在る織る』 2021年 油彩・キャンバス・織物 制作協力:宮下織物株式会社、舟久保織物(撮影:吉田周平)
児玉麻緒『在る織る』 2021年 油彩・キャンバス・織物 制作協力:宮下織物株式会社、舟久保織物(撮影:吉田周平)
正面に見える作家の油彩からインスピレーションを受け、地元の織屋が製作した布を用いて構成されたインスタレーション。油絵の具の凹凸を布で表現するなど、機屋の技術を駆使している
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