熊本県の小さな町に、日本初の恐竜博物館がある。それが御船町(みふねまち)恐竜博物館だ。始まりは武道館を改修した建物だったが、2014年に新館がオープン。現在は年間10数万人もが訪れる名所となった。開館のきっかけを作った学芸員と博物館を支える御船町の職員に話を聞いた。

御船層群で恐竜の中足骨を発掘したキーパーソン

 熊本市の中心地から車で30分ほどに位置する、人口約1万7000人の熊本県御船町。この小さな町で最初に恐竜の化石が発見されたのは1979年のことだ。ある高校教師とその息子(当時小学1年生)が、御船町上梅木で肉食恐竜の歯の化石を発見したのがすべての始まりだった。

 化石を横浜国立大学で調べた結果、日本初の肉食恐竜(通称ミフネリュウ)の歯の化石として世に認められた。しかし、全国的に話題となったものの、地元ではあまり盛り上がらず、その存在を知らない人も多かったという。

日本で初めて発見された肉食恐竜の化石(写真:石崎 純)
日本で初めて発見された肉食恐竜の化石(写真:石崎 純)
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 転機となったのは1990年。熊本大学の学生が卒業研究の調査で御船町天君(あまぎみ)ダム付近を訪れ、たまたま恐竜化石を発見したのだ。その学生こそ今回の主役、御船町恐竜博物館 主任学芸員の池上直樹氏である。

 「私の研究テーマは恐竜ではなく、二枚貝化石でした。御船町を中心とした『御船層群』と呼ばれる地層は、恐竜たちが栄えた約9000万年前の中生代後期の白亜紀にできたもの。もしかしたらとの期待もあって調査していましたが、本当に恐竜の中足骨を発見してしまったのです。詳細は不明ですが、アロサウルスに似た肉食恐竜の骨だとされています」(池上氏)

御船町恐竜博物館 主任学芸員の池上直樹氏(写真:石崎 純)
御船町恐竜博物館 主任学芸員の池上直樹氏(写真:石崎 純)
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 これを受け、1990年に御船町と熊本大学が協力して初めての組織的な恐竜発掘調査を実施。池上氏は大学院修了後に熊本市内で中学校の教員になったものの、1994年に御船町教育委員会に派遣されて発掘調査に携わり、数多くの恐竜化石を発掘した。御船町が「恐竜の郷(さと)」と呼ばれるゆえんはここにある。

「発掘調査を3年間継続するとのことで県から派遣されたのですが、掘れば掘るほど化⽯が出てきました。そこで町は博物館を整備して収集した化⽯を展⽰し、教育や町の活性化に⽣かしていくとの⽅針を決定し、私は御船町に割愛採用されることになりました。とりあえず武道場だった建物を博物館に改修して、御船町恐⻯博物館がスタートしたのです。1998年4月のことでした」(池上氏)

御船町恐竜博物館(写真:石崎 純)
御船町恐竜博物館(写真:石崎 純)
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 以降、池上氏は学芸員として御船町恐竜博物館とともに歩んできた。当初は恐竜の骨格1体、4つの展示ケースのみ。まさに“手作り”から始まったその歴史は、徐々にスケールアップしていく。もちろん、御船層群の恐竜化石の発掘調査も続けた。2002年にはティラノサウルスの復元模型が完成し、これは現在の新館前でも人びとを出迎えてくれる。入館者数も順調に伸び、開館10周年の2008年には30万人、15周年の2013年には45万人を達成。そして2014年、ついに新館がオープンした。

迫力満点のティラノサウルスの復元模型(写真:石崎 純)
迫力満点のティラノサウルスの復元模型(写真:石崎 純)
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 「日本に3つある恐竜博物館では最も古いですが(注:福井県立恐竜博物館が2000年、長崎市恐竜博物館が2021年)、日本初の恐竜博物館という意識はありません。ただ、ここは地元からたくさんの化石が発掘されるだけに、熊本大学と連携して発掘調査を進めたり、成果を発表するシンポジウムを開いたり、夏休みに子ども化石教室を開いたりと、博物館がオープンする前から町として積極的に恐竜と向き合ってきました。今では全国で化石発掘体験が盛んですが、恐竜を生かした取り組みを行う自治体としては先駆者だと思います」(池上氏)