ディスカッション2 RPA導入はどのように進めるべきか

 2日目午前は、行政事務を効率化するためのRPA(Robotic Process Automation)とOCR(光学式文字認識)の活用策がテーマ。RPAを実証導入した京都府、埼玉県、茨城県の報告に続いて、手順や体制、適用事務、効果・課題などを議論した。

報告 業務改革の成果を自治体間で共有したい

 京都府は、RPA活用を働き方改革の一環に位置付けた。「府民満足度の向上などのため、よりスマートな働き方を実現していく。手段として業務フロー改革、マネジメント改革、ICT改革があり、RPAはICT改革のツールの位置付けになる」(原田氏)。

 検証は2017年に実施。適用業務を文字認識系、画面入力系、自動実行系に分けて検討し、即効性が高い自動実行系を対象とした。導入に当たり、まずExcel、次にマクロやVBA、最後にRPAツールという方針を決めた。「RPAを前提とせず、Excelやマクロでは解決できず、管理コストに見合うか複数のシステムをまたぐ場合にRPAを利用することにした」(原田氏)。試行したのは、老人医療補助金の実績確認や統計のオープンデータ化など4業務。時間と人手の工数減(8~9割減)、事務ミスの削減や府民サービス向上の時間創出などの成果が得られた。

原田 智氏
京都府 政策企画部 情報政策統括監(CIO兼CISO)

 試行の過程では様々な阻害要因が浮き彫りになり、業務の分析・改革をセットで実施した。「作業手順が口伝え、業務ルールの設定不足、人による判断が多いなどが明らかになった。そこで業務をフローに沿って検証し、ルールの明文化を進めた」(原田氏)。

 得られた知見を「効果は対象業務の規模・数に比例、ライセンス料の制約から対象者が限定的な業務に向く、改正が頻繁な業務は適用が困難、効果の持続には手順書などの整理が必要、5年間の費用対効果を検証し導入判断すべき」(原田氏)と整理。注意点に、若手職員にExcelの知識がないこと、行政の継続性は前例主義の言い換えなので打破すべきことを挙げた。「現場の業務改革を進める上で非常にいいツール。業務が楽になる成功体験の積み重ねが大きな改革につながる」。

 最後に「今やRPAはやるかやらないかではなく、どう活用するかというステージ。負担がかかる業務改革が必須になるので、成果を自治体間で共有して改革をスピードアップしたい」と連携を呼びかけた。

報告 全庁導入では情報部門の一元管理が必要

 埼玉県は、2018年度からRPA実証実験を始めた。「スマート社会へのシフトに合わせ、予算約14億円でAI、IoT、RPAなどを積極活用していく」(山口氏)。RPAは身近な業務改革ツールとして初期導入が容易なスタンドアローン型とし、製品選択では他県での実績やサポート内容を考慮した。

 適用対象は、総務事務センター、教育局財務課、出納総務課の3課で、5業務を選定。ベンダーの協力を得て、業務ヒアリングから設計、効果検証までを実施した。蓄積したノウハウは2019年度からの本格導入に生かす。

山口 均氏
埼玉県 企画財政部 参与

 「3課5業務で実証したところ、意外と簡単にできたため内容を拡大。シナリオを追加作成して、総務事務センターだけで7業務を効果検証している」(山口氏)。最も効果があったのは、期末勤勉手当の除算期間計算という経理業務で、年間128時間(作業時間の80%)を節減できる計算という。手続き督促メールの自動送信などでも一定の効果があり、「作業数が多く、単純に動作を記録していくような業務は、効果が見込める」(山口氏)。

 職員からは「疑問に感じていなかった作業手順を見直すきっかけとなった」「類似の定型業務にも適用すれば大きな効果が見込める」といった声が寄せられたという。RPAに適するシナリオは、データ内容を精査するチェック型、複数システムからのデータを統合する収集・加工型、データ登録を行う登録型、更新情報などをメールで知らせる通知型、複数システムをつなぐ接続型の5タイプに整理できた。

 課題はメンテナンスと指摘。「十数年前にオフィスソフトのマクロ活用ブームが起こったが、今はしぼんでしまった。得意な職員がマクロを作り込むと、後任者が制度変更などに対応できず利用できなくなるケースが多発した」。RPAの全庁導入では、「継続性の確保の視点を忘れず、一元的なシナリオ管理、統一ルール・使用ソフトウエアリスト作成などを、情報部門で担っていく必要がある」と見ている。

報告 次は申請業務の電子化率を向上させる

 茨城県は、2018年8月から3カ月間、RPA導入の実証実験を実施した。「知事の肝いりで政策企画部に設けたICT戦略チームが中心となり、5月に庁内説明会、6月に業務の募集、7月に実施内容を決定し、8月からの3カ月間で実証を行った」(小室氏)。

 ICT戦略チームからのRPA業務の募集には、36所属から65業務の提案があった。資金を投じる意義があるか、業務フローがルール化されているか、電子データで入力されているか、業務発生頻度と入力件数は多いかを基準に16業務に絞り、うち4業務で実証した。

小室 彦三氏
茨城県 政策企画部 情報化統括監

 RPA化したのは、(1)県立学校121校のExcelシートの運営予算配分書の内容を財務会計システムに転記する、(2)市町村の国民健康保険実績報告と業務システムの登録データを突合する、(3)漁業協同組合からメール送信される水揚げデータファイルを自動ダウンロードしデータを整理する、(4)県立高校1校で教職員の出張旅費申請を事務職員がシステムに代理登録する、の4業務。「時間削減効果は80~90%。人件費換算では年間560万円の削減効果」と小室氏は説明する。

 実証を踏まえ今後の計画は、「都道府県は県民からの直接申請が多くないのでスタンドアローン型を採用、シナリオ作成は人材面もあり業者に委託、業務プロセス改善は必須、RPAツールのライセンス管理は当面ICT戦略チームが担当」(小室氏)とする。

 課題として、職員の異動サイクルが3年程度でシナリオのメンテナンスや担当職員の育成が困難、適正な導入規模が不明、現状は紙の書類が多くデジタル化が不十分の3点を挙げた。

 今後に向け、政策企画部次長をチーム長とするRPA導入推進プロジェクトチーム(任期2019年度末)を組織した。チーム員はICT戦略チーム、情報システム課、総務部次長や同部行政経営課から集めた。約40業務まで拡大を想定している。「電子決裁率100%をほぼ達成したので、次は申請業務の電子化率向上に取り組む」(小室氏)。

 まず司会を務める富山県の半田氏が、事前アンケートの結果を提示。RPAによる事務作業の自動化は、2団体が本番運用中、20団体が試行中、7団体が計画中で、14団体が検討中という状況。未検討は4団体にとどまる。RPA導入時のBPR(業務プロセス改革)は、運用・試行・計画中の29団体のうち実施したのは17団体だった(予定を含む)。

書類様式や保存方法を見直し

 RPA導入時のBPRについては、数団体から説明があった。滋賀県は、指定難病の支給認定業務で、県民からの紙の申請書の内容をシステムへ入力する事務にRPAを適用した。その際に「該当番号に丸印を付ける様式から、OCRで判別しやすいチェックボックス方式に変更した」(県民生活部の宇野良彦IT統括監)。

宇野 良彦氏
滋賀県 県民生活部 IT統括監

 鳥取県は、職員の通勤手当の認定業務で、算定根拠となる資料を紙保存から電子データ保存に変更した。「自宅から勤務地までの距離を地図ソフトで確認し、根拠資料として画面ショットを印刷して保存していた。ここをRPAに任せ、電子ファイルでの保存に改めた。同時に、3人いた審査者を2人に見直す検討をしている」(鳥取県の下田氏)。

 京都府では、まず必要性や法的要件を調査して業務を最適化した上でツールを選んでいる。「目的は働き方改革や効率化。RPAは一つの選択肢にすぎない」(原田氏)。

LGWANのAI-OCRサービスは割高

 RPAを運用・試行・計画中の29団体のうち、約半数はOCRを利用中または検討中。内訳は、従来タイプが5団体、AI(人工知能)機能付きが10団体である。北海道の千葉氏は、「スマートフォンと従来型OCRによる実験では、識字率が50%で使い物にならなかった。別のOCRの利用を検討中」と状況を説明した。

 大阪府の八尾氏は、「AI-OCRを導入して、コスト面で財務当局の理解を得られる業務は何か」と質問。香川県政策部情報政策課の北村卓司専門監は、「RPA導入について庁内でヒアリングしたところ、75業務が挙がり、半数以上がAI-OCRを希望した。県の補助金関連業務で活用できると考え、2019年度予算に含めた」と答えた。ただし「LGWAN-ASP注1)のAI-OCRサービスの利用料は、インターネット上のサービスの1.8倍と割高。本当に費用対効果が見込めるか検証したい」という。

注1)LGWAN-ASP
自治体間の専用ネットワークであるLGWAN(総合行政ネットワーク)上で提供されているASP(Application Service Provider)サービス。
北村 卓司氏
香川県 政策部 情報政策課 専門監

 2018年12月から2019年3月まで請求書や申請書の読み取りなど3業務でRPAを実証しているのが長崎県。AI-OCRによる手書き文字の認識率は99.22%という。総務部の山崎敏朗情報政策課長は、「2019年度はRPA製品の選定とOCRの試験運用を行い、20年度以降に本格運用したい」と説明した。愛知県振興部の加藤雅士情報企画課長は、「業務改革部門の主導で、2019年1月から請求書で実証実験中だが、AI-OCRの精度は構築中のため不明」と報告した。

山崎 敏朗氏
長崎県 総務部 情報政策課長
加藤 雅士氏
愛知県 振興部 情報企画課長

BPRはどの部門の役割か

 RPAの適用対象と効果については、実証中の団体などから多数の発言があった。秋田県の本庄氏は、予算獲得にこぎ着けた経緯を紹介。「数字を出そうと、予定価格算出業務(総務事務センターの物品調達システム)で実証を行い、2940時間の削減見込みという結果を出した。ほぼ職員2人分になる。申請の結果、2019年度予算が付いた」。

 続いて本庄氏は、RPA導入時のBPRについて、「業務原課が自らBPRを実行しないと、情報部門だけでは実現が難しいのではないか」と問いかけた。新潟県総務管理部情報政策課の宮典男情報主幹も、「現場の抵抗がかなりあるのではないか。協力を得るコツがあれば教えてほしい」と重ねて質問した。

宮 典男氏
新潟県 総務管理部 情報政策課 情報主幹

 茨城県の小室氏は、「業務プロセスの変更は原課でやるべき。ICT部門や行政経営課が様々な部門を主導するのは無理がある。現状では、知事の協力をうまく引き出すというアイデアくらいしか思いつかない」と答えた。京都府の原田氏は、「e-Japan 戦略注2)の遂行時に、添付書類や根拠も含めて全ての申請業務を見直した経験がある。今後、デジタル手続法案が成立すれば、各原課業務の根拠整理と手続き整理は避けられないだろう」と発言。RPA導入の有無によらず、広範な業務でBPRが必要になるとの見方を示した。

注2)e-Japan 戦略
2001年1月に政府が決定したIT国家戦略。電子政府の実現を目指す取り組みの中で、行政手続オンライン化法などが策定された。

会計事務で9割の時間削減も

 兵庫県は、41市町への調査・照会事務でRPAの適用実証を進めている。「和歌山県の取り組みを参考にした。市町振興課は、国の様式のWordやExcelの調査票フォームをメールで送って、添付ファイルとして回収している。これをRPAで自動的に読み取って、CSV注3)などでデータベースに集積する試みだ」(企画県民部科学情報局情報企画課の津川誠司システム管理室長)。

注3)CSV
Comma Separated Valueの略。

 徳島県は、支払関係や公会計財務諸表の作成など4業務で実証中。経営戦略部電子行政推進課の山住健治情報セキュリティ担当室長は、「主管は会計課。例えば公会計財務諸表は7種類355帳票あるが、出力のためのシステム操作をRPAにやらせたところ、年換算327時間の業務が14分で済んでしまった。Excelデータを財務会計システムの画面に入力して支払調書を作成するなど他業務も、時間削減率がすべて9割を超え驚いている」と、効果を報告した。

山住 健治氏
徳島県 経営戦略部 電子行政推進課 情報セキュリティ担当室長

 大分県は、11業務でRPAの導入を検討している。「行革部門が業務量を基に選定したので、申請書や届出書をOCRで読み取ってExcelにまとめたりシステムに入力したりする業務がほとんど。電子申請システムとの連携はこれから」(商工労働部の安藤善之情報政策課長)という。

安藤 善之氏
大分県 商工労働部 情報政策課長

 司会の半田氏がRPA導入の推進主体について挙手を求めたところ、業務改革部門と情報政策部門がそれぞれ20団体ほどで、連携して推進している団体も約20あった。

 関連して、RPAの管理規定に関して、静岡県経営管理部ICT推進局の小泉圭之ICT政策課長が課題認識を説明した。同県は2018年度前半に53業務の応募の中から5業務で実証を実施。年度後半は約60の追加応募から15業務で実証を進めている。

小泉 圭之氏
静岡県 経営管理部 ICT推進局 ICT政策課長

 「スモールスタートを基本としたうえで、管理、シナリオ作成、メンテナンスは原課の担当にしたい。現在ガイドラインとマニュアルを作成する方向で取り組んでいる。RPAのブラックボックス化を防ぐため、業務・データの重要度による導入範囲の決定、導入業務の簡素化、シナリオ管理、異常時の対応、後任者引き継ぎの徹底、担当職員・RPA・情報システムの役割の明確化など、さまざまな規定を固める必要があると考えている」(小泉氏)。