日経BPガバメントテクノロジーは2019年5月20日、「政令市・中核市・特別区CIOフォーラム」を東京都内で開催した。全国の政令市・中核市・特別区など47団体のCIO(情報化統括責任者)やICT政策担当者が参加し、自治体業務でのAI(人工知能)、IoT(インターネット・オブ・シングズ)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、EBPM(証拠に基づく政策立案)などの活用をテーマとした事例報告を基に活発な意見交換を展開した。

写真●政令市・中核市・特別区CIOフォーラムの様子
11政令市・21中核市(候補市を含む)・9特別区など47団体から59人が参加した(写真:皆木 優子、以下同じ)
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IoTはセキュリティ指針が必要

 「デジタルトランスフォーメーション時代の自治体業務」をテーマに据えた午前のセッションでは、まず横浜市の福田次郎最高情報統括責任者(CIO)補佐監が、「Society 5.0時代に向けた横浜市のICTニーズと方向性について」と題して報告した。同氏は、最高情報セキュリティ責任者(CISO)補佐監と、働き方改革を推進する総務局しごと改革室担当部長も兼務している。

福田 次郎氏
横浜市 総務局 CIO補佐監・CISO補佐監

 横浜市は、2018~2021年の中期4カ年計画を策定済みで、その中で「データ活用・オープンイノベーションの推進」をうたっている。ICTによるコスト削減、効率的な行政運営を目指すものだ。

 福田氏は、これまで手掛けた施策としてまずICT調達統制を紹介。「18年度の予算編成から、情報システムに関わる調達案件全件で、所管課と事前協議を行っている」(福田氏)。その結果、18年度予算で約3.4億円の削減を達成したという。

 テレワークは、在宅型テレワークを一部部署で試験的に導入。38人の利用者が延べ156回利用した。アンケートでは利用者の90%が有効と回答し、ワークライフバランスの推進に有効であることが確認できた。

 RPAに関しては、NTTグループなどと共同で実験を実施し、総務局、財政局、健康福祉局の計7業務に試験導入。作業時間の削減率は、年換算で平均84.9%に上った。

 また「横浜市官民データ活用推進計画」を策定して、オープンデータ化を推進。横浜市立大学データサイエンス学部と協力して、職員の教育にも取り組んでいる。「横浜市オープンデータポータル」サイトを再構築し、人口動態や都市計画道路の整備状況、喫煙禁止地区の新規指定などのデータを公開している。

 EBPMについては「2000以上ある事業を一気にERP(統合業務パッケージ)で可視化するのは無理なので、順次手掛けていく」と現状を説明。その際に「単にコードで仕分けるだけでなく、データを構造化して集計する仕組みが必要」と述べた。

 スマートシティ構想では、「多くの企業がIoTに関心を持っているが、セキュリティに不安を抱えている。リスクを軽減するためのガイドラインが必要」と指摘し、「一緒にIoTのセキュリティ拠点をつくっていけないかと考えている」と参加者に呼びかけた。

 質疑応答では、奈良市の中村眞最高情報統括責任者(CIO)がテレワークでの工夫について質問した。福田氏は「職員の自宅パソコンを使わないように、市で専用の端末を配った。情報が端末に残らない仕掛けを施している」と答えた。

RPAは費用対効果を評価すべき

 次に、東京都港区総務部情報政策課の若杉健次課長と川口弘行情報政策監が登壇。「自治体RPA1.0~導入の実態と見えてきた課題」と題し、他団体に先駆けて導入したRPAの効果を中心にICT政策を報告した。

若杉 健次氏
東京都港区 総務部 情報政策課長

 最初に若杉氏が、RPA活用に至る経緯を説明した。港区の人口はバブル崩壊後に15万人を割り込んだが、約20年で25万人を超えるまでに増加。27年には30万人に達するとの予測がある。「職員の負担を増やさずに住民サービスの水準を維持し、その上で働き方改革も推進しなければならないため、ICT活用が至上命題だった」(若杉氏)。

 同区は、定時退庁や有給休暇取得16日以上をうたう「みなとワークスタイル宣言」(2017年)、市町村官民データ活用計画として位置付けた「港区情報化計画」(当初2015年からの6年計画だったものを2018年~20年の3カ年計画に修正)を相次いで発表。さらに、「区民サービス向上と働きやすい職場づくりに向けてAIやRPAの導入を推進するため、2018年を『港区AI元年』と位置付けた」(若杉氏)。

 これに基づき、18年から19年にかけて、多言語AIチャットによる外国人向け情報発信、保育園入園選考のAIマッチング、AI議事録自動作成支援ツール、AI-OCR(光学式文字認識)による手書き申請書の読み込みを本格導入。RPAも18年に庁内7業務で導入し、産前産後家事・育児支援サービスなど主に区民からの電子申請の自動処理化によって、年間2000時間分の業務の自動化に成功。「19年度は10事業で年間8000時間分の自動化を目指す」(若杉氏)。

 続いて、同区情報政策監の川口氏はRPA導入の“影”の面を指摘した。「自治体のRPAはバージョン1.0の段階と言える。部分的な作業の省力化には効果はあるが、全体の業務改善に寄与しているかは疑問」(川口氏)と指摘。「RPAでバッチ処理だけを効率化しても全体のスループット向上には寄与せず、ボトルネックが生じる。費用対効果が高いとは限らない」と持論を述べた。

川口 弘行氏
東京都港区 情報政策監

 加えて、RPAを動作させるシナリオの作成について、「職員自身が手掛けるのは様々な問題がある」と指摘。異動してきた職員に継承できるか、エラー処理まで職員がやるのは危険ではないかなどと主張した。また、そもそも業務量の多くない中小規模の自治体にとっては、オーバースペックになりかねず、コストに見合わないと分析した。

 「自治体RPA2.0」に向けてやるべき事項として、現在の対象業務をPC操作と業務制御に分け、「前者をRPAに任せ、後者はBPMS(ビジネス・プロセス・マネジメント・システム)やBRMS(ビジネス・ルール・マネジメント・システム)などを組み合わせた方がいい」と提案した。

 質疑応答では、横浜市の福田氏がBPMSに関して具体的なシステム導入計画があるかを質問。川口氏は「いろいろと調べているが、財務系システムへの導入が有効と考えている」と答えた。