日経BPガバメントテクノロジーは2020年7月30日、「政令市・中核市・特別区CIOフォーラム」を東京都内で開催した。政令市、中核市(候補市を含む)、特別区のほか、先進的なIT活用に取り組む基礎自治体のCIO(情報化統括責任者)や情報化推進担当責任者が対象。新型コロナウイルス対応として初めてオンライン配信を組み合わせて開催し、88市区から計99人が参加した。

写真●2020年7月30日に開催した政令市・中核市・特別区CIOフォーラムの様子
写真●2020年7月30日に開催した政令市・中核市・特別区CIOフォーラムの様子
3密対策や検温・手指消毒を徹底して東京都港区の赤坂インターシティAIRで開催。リアル会場とオンライン配信を組み合わせた。会場来場が22団体26人、オンライン参加が66団体73人。
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台風で電話もネットも使えず

 午前は「ディザスタリカバリ&BCP(業務継続計画)」がテーマ。まず千葉県市原市総務部情報政策課システム管理係の清田安信副主査が、19年秋の台風等の災害での情報部門の対応を報告した。市原市は県内で最も面積が広く、災害対策にも多くのリソースが要る。19年秋は台風15号(9月9日)、台風19号(10月12日)、記録的な大雨(同25日)と立て続けに災害に見舞われた。

清田 安信氏
清田 安信氏
千葉県市原市 総務部 情報政策課 システム管理係 副主査

 一連の災害では暴風と水害による停電で情報インフラに大きな被害が出た。「台風15号で最大6万6800軒が最長15日停電するなど、3つの災害で計23日の停電が発生し、通信障害を引き起こした」(清田氏)。

 9月9日は、加入電話、ひかり電話、携帯電話、モバイル端末が使えなくなったうえ、災害情報を掲載する市のホームページが停止。職員もインターネットを利用した業務ができなくなった。通信事業者の局舎設備や無線基地局が停電や予備電源の枯渇で機能しなくなったためだ。「小中学校などの教育用ネットワークを迂回路として使い、当面の問題を解決した」(清田氏)。市民に被災や支援の状況を伝えるため、翌10日に市のトップページに災害情報のコーナーを立ち上げ、SNS(交流サイト)でも情報を発信した。

災害経験は自治体間で共有を

 後日高い評価を受けたのが、被災者生活再建支援システムを短期間で導入したこと。台風襲来の翌10日に導入を決定し18日に運用を始めた。罹災(りさい)証明の受け付けは、「10日に各小学校のコンピューター室からカラープリンタを借り出し、配線などを進め12日に開始できた」(清田氏)。ただし、申請書や被災家屋の写真をデータのまま処理・保存できていない点は課題という。

 台風15号で被災した屋根などを応急処置したブルーシートは、続く台風19号で多くがはがれてしまったことから、翌日にはブルーシートの受け付けコールセンターを設置した。この際、「住民基本台帳と災害台帳を基に、1日で受け付け簡易ツールを作成して対応した。災害義援金の配分対応でも同様のツールを作成した」(清田氏)。

 市原市は、2018年に新しい第1庁舎が完成した際に、基幹系サーバーは自庁での運用に切り替えて、データセンターをバックアップとして利用し、両者間の通信経路を冗長化してあった。「冗長化のおかげで、一方の回線は切断されたが通信は維持できた」(清田氏)。今後は、自治体情報セキュリティクラウドの迂回路を含むインターネット回線の冗長化も計画している。

 質疑応答では、藤沢市総務部IT推進課の大高利夫課長補佐が、「情報システム部門が災害に備える心構えで必要なことは何か」と尋ねた。清田氏は「個人的な感想だが、想定外のことが起こると、最終的に物を言うのは個々のマンパワー。加えて、実経験に勝るものはない。災害はたまにしか起こらないので、自治体間での情報共有が大切」と答えた。

クラウド障害で22システムが停止

 続いて、東京都中野区企画部の平田祐子情報システム課長が、19年12月に発生したクラウドサービス障害への対応について報告した。

平田 祐子氏
平田 祐子氏
東京都中野区 企画部 情報システム課長

 日本電子計算(JIP)が自治体向けに提供する共同利用型クラウド基盤サービス「Jip-Base」では、19年12月4日にシステム障害が発生。同サービスを利用していた全国約70団体のうち、53団体の計453システムが停止した。中野区は、ホームページやインターネット接続、戸籍、介護保険受給者管理など22システムが影響を受けた。

 日本電子計算が、不具合を起こしたストレージ装置のファームウエアを更新し、12月7日に動作確認を行ったところ、仮想OSにログインできないシステムが多数あることが判明。15日にはバックアップが取得できていない仮想OSがあることもわかった。平田氏は「当初これほど長期化するとは思わなかった。データ障害が完全に復旧するのに3月31日までかかった」と振り返った。

 中野区は、なんとか住民に障害の状況を伝えようと、影響がなかった図書館のホームページを通じて情報を発信。TwitterやFacebookも活用した。住民への影響が大きかったのは、戸籍業務が2日間停止したこと。戸籍に関する証明書の発行(205件)や届け出の受理(43件)ができなかった。届け出は受領のみとし、復旧後に遡って受理した。証明書は、復旧後に郵送した。

 システムが約19日間止まった介護保険業務の混乱も深刻だった。介護サービス費の支給が遅れて介護事業者への支払いが滞る恐れがあったほか、システム障害が長引けば、介護認定の期限が切れる人が続出しかねない。前者は手処理で対応。後者は東日本大震災の際に期限延長措置が取られたので、厚生労働省に期限の延長を依頼した。ところが「中野区単独の事由では認められない」と断られた。そこで「期限が切れてもサービスは利用できることを区が保証して乗り切った」(平田氏)。

バックアップ不備で影響が長期化

 庁内の事務管理(グループウエア、会計、文書、人事給与)への影響も大きかった。障害が発生した12月4日は様々な支払いの期日だったため、銀行に関連データを渡さなければならなかった。そこで影響を受けていないファイルサーバー上に、臨時にシステムを構築し対応した。

 完全復旧までにほぼ4か月かかるほど影響が長期化した最大の理由は、バックアップが利用できなかったことにある。管理系機能やバックアップファイルが、業務システム用のストレージ内の同じ領域にあったのが原因だ。サルベージでファイルを発見しても、一部しか残っていないものもあり、すべて使えるようにするのに時間を要した。

 再発防止策として、ICT-BCPの観点で自然災害とパンデミックに加えて、システム障害を想定した対策を新たに策定。「契約の仕様も見直し、ホームページとバックアップデータのサーバー上の保管場所を、業務システムとは別にすることを仕様書に明記した」(平田氏)。

 質疑応答では、大阪府枚方市総合政策部の市井智幸ICT戦略課長が、グループウエアが影響を受けた際に職員への通知はどうしたのかと質問した。平田氏は「各部の庶務担当課に電話して部内に伝達してもらった。個別対応が必要な案件は、職員が所管課に出向いて説明・調整した。当初1カ月は、窓口開始の30分前から全部長が出席する危機管理会議を毎日開催。復旧作業の進捗や新たに発生した問題など、全庁での情報共有や区長指示の伝達が必要な案件の情報を共有した」と説明した。