日経BPガバメントテクノロジーは2021年5月14日、「政令市・中核市・特別区CIOフォーラム」をオンラインで開催した。当初は神戸市内の会場とオンライン配信を組み合わせたハイブリッド方式による開催を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が9都道府県に発出されたため、オンラインのみの開催方式に変更した。

 特別講演・報告のテーマは、(1)自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進、(2)新型コロナウイルスのワクチン接種管理、(3)全国・広域でのクラウド活用。基礎自治体の情報政策での喫緊のテーマをそろえた。政令市、中核市(候補市を含む)、特別区のほか、先進的なIT活用に取り組む基礎自治体のCIO(情報化統括責任者)や情報化推進担当責任者を対象とし、105団体から128人が参加した。

写真●2021年5月14日にZoomミーティングによる完全オンラインで政令市・中核市・特別区CIOフォーラムを開催。105団体から128人が参加した。
写真●2021年5月14日にZoomミーティングによる完全オンラインで政令市・中核市・特別区CIOフォーラムを開催。105団体から128人が参加した。
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 午前は総務省による自治体DX推進計画に関する特別講演(5ページ目の別掲記事を参照)と協賛社セッションを実施し、午後は内閣官房によるサービスデザインに基づく行政DXに関する特別講演(6ページ目の別掲記事を参照)と協賛社セッションを行った。休憩を挟んで、埼玉県戸田市がワクチン接種管理について、神奈川県藤沢市が自治体DXについて、それぞれ取り組みを報告し、最後にフォーラムのコンテンツ委員18人によるディスカッションを行った。

国のワクチン接種管理システムには課題が山積

 戸田市の企画財政部次長である大山水帆デジタル戦略室長(CDO)は、新型コロナウイルスのワクチン接種状況を管理するために2021年4月に国がクラウドシステムとして運用を始めた「ワクチン接種記録システム(VRS)」への対応について報告した。

 VRSは、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を円滑に進めるために、個人の接種状況を記録するシステム。氏名や生年月日、接種券番号などの接種者情報と、接種日、接種回数、ワクチンメーカー、ロット番号などの接種記録情報が、クラウド上のデータベースに記録される。

 各自治体が個別に運用している既存の予防接種台帳システムの仕組みでは、接種情報をデータ化して一覧・管理できるようにするのに2~3カ月かかってしまう。3~4週間の間隔で2回の接種が必要な新型コロナウイルスのワクチン接種では、転居者への対応が難しいうえ、各自治体での接種状況を即座に把握することもできない。そこで国が新規にVRSを開発した。

 接種記録情報は、接種を担当する市区町村・医療機関・企業などがVRSに登録する。具体的には、医療機関や集団接種会場で、住民が提出した予診票に貼られた接種券のバーコードまたはOCRライン(自治体コードや接種券番号を含む18桁の数字)を、国が配布した専用タブレット端末のカメラで読み込むと、インターネットを介してVRSのデータベースに登録される。

 一方、接種者情報は、自治体間の専用ネットワークである「総合行政ネットワーク(LGWAN)」を通じて、各市区町村からVRSに登録する。接種者情報と接種記録情報はVRS上で、接種券に記載されている自治体コードと接種券番号に基づいて対応付けられる。「接種者情報はマイナンバーにひも付けられており、転入者が以前に住んでいた市町村での接種履歴を確認できる」(大山氏)。

大山 水帆氏
大山 水帆氏
埼玉県戸田市 企画財政部次長 兼 デジタル戦略室長(CDO)

 戸田市は21年4月に独自の「新型コロナウイルスワクチン接種記録連携システム(T-SYS)」の運用を開始した。VRSのほか、接種予約、予防接種台帳、健康情報のシステムと連携して、各システムの機能を一括して管理できる。VRSは接種記録入力システムの一つに位置づけ、医療機関の協力を得て個別接種の情報をVRSに登録してもらい、そのデータをダウンロードして、T-SYSに接種記録を集めている。「2回目の接種の際に、1回目を接種済みなのかを確認できる。先行接種した医療従事者の情報や他団体からの転入者の1回目のデータも登録できる」(大山氏)。

 大山氏は続いて、「自治体に対する内閣官房の丁寧な対応と取り組み姿勢を評価する」と断ったうえで、VRSを利用した際に悩まされた事項について説明した。まずタブレット端末の利用では、情報の登録時や照会時の動作・検索の不具合があり、「特に困ったのが接種券のバーコードやOCRラインを正常に読み取れなかったこと」(大山氏)だった。結局、外付けのバーコード・リーダーを追加して対処した。

 システムの開発手法にも触れた。「国は迅速なシステム開発の推進に有効なアジャイル開発を選んだと聞く。だが、開発途中の不完全なプロトタイプをユーザーにデバックさせるものではない」と強調。あらかじめ対象範囲や実現するべき詳細が定められており、大規模でミッションクリティカルなVRSには、開発手法として不適切だったのではないかと訴えた。「特に検索、登録、連携などの基本部分は、失敗が許されないと考えている」(大山氏)。

 契約形態に関しては、業者選定が随意契約で、「予防接種事務の専門的な知見や管理などを行うためのシステム開発の実績を有する」という条件があった点を指摘。「VRSは、台帳を管理し検索するシンプルなシステム。取り扱うデータが接種記録というだけで、予防接種事務の専門的な知見は不要。本来は、サービスの提供上ほぼ一切の障害や誤作動が許されない基幹系の台帳管理、検索システムの開発ができる業者、マイナンバーを含む個人情報を取り扱う高度なセキュリティを実装したシステムの開発実績を有する業者といった条件を設定すべきだったのではないか」と疑問を呈した。

 質疑応答では、20年度まで東京都町田市のシステム担当部長を務めていた千葉県市原市総務部の中田直樹デジタル推進室長から、戸田市がVRSを医療機関に利用してもらえた要因について質問があった。大山氏は「ワクチン接種対策室を1月に入ってすぐに立ち上げ、医療機関との調整に入った。医師会も協力的で、ワクチン接種の集団訓練も実施できた。訓練の際にバーコード・リーダーを利用したVRSのデモを実施し、数秒で入力が終わり簡単で負担にならないというアピールができたのもよかった」と答えた。