自治体DXは住民がメリットを感じられるように

 フォーラム冒頭の特別講演では、総務省地域情報化企画室(旧・地域情報政策室)の神門純一室長(当時)が、「自治体のデジタル・トランスフォーメーションの推進等について」と題して講演した。2021年1月にスタートし26年3月までの約5年間を対象期間とする「自治体DX推進計画」について、国による施策の詳細と基礎自治体への期待を述べた。

 神門氏はまず、前々日の5月12日にデジタル社会形成基本法やデジタル庁設置法を含むデジタル改革関連6法案が国会で成立したことを伝え、「デジタル社会の実現に向けて、いよいよ執行の段階に入っていく」とフェーズが変わったことを強調した。

神門 純一氏
神門 純一氏
総務省 自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室長(当時)

 自治体でのDXの推進については、「まずはバックヤードである庁内業務の電子化から取り掛かることになるが、この部分は住民からは見えない。行政サービスにデジタル技術やデータを活用することで住民にメリットを実感してもらえるようにする必要がある」(神門氏)と訴えた。これには住民に身近な市区町村の役割が極めて重要だと指摘。同時に、デジタル手段を選択しない住民に対するデジタルデバイド対策の必要性にも触れた。

 さらに、データが価値創造の源泉であることを自治体が認識し、データ様式の統一、データの円滑な流通などの重要性を指摘。「EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)などにより行政の効率化・高度化を図り、民間との連携を進めて、特に社会保障の分野で価値の創出を目指してほしい」と訴えた。

 法整備の面では、自治体の基幹17業務を処理するシステムの標準仕様をデジタル庁主導で作成する「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」と、民間と国、自治体で「個人情報」の定義を統一した改正個人情報保護法も成立した。「システム、ルール、データが統一され流通することによって、プッシュ型サービスなど様々な行政サービスが可能になり、住民にメリットを実感してもらえるようになる」(神門氏)。

 続いて神門氏は、「地域デジタル社会推進費」について説明した。高齢者など多くの住民へのデジタル活用支援、地域社会のDX化やデジタル人材の育成・確保などを目的とした財政措置である。地方公共団体金融機構の公庫債権金利変動準備金を活用し、21年度と22年度の2年間にそれぞれ2000億円(都道府県800億円、市町村1200億円)の事業費を計上する。

 策定中の「自治体DX推進手順書」についても説明した(7月7日付で公表済み)。自治体によってデジタル化の進捗が大きく異なることを前提とし、推進体制が不十分な小規模自治体でも、AI・RPAなどの最新技術を活用する先進的な自治体でも、「各自治体の目指すデジタル化の水準に応じて活用できる幅を持たせた手順書にする」(神門氏)。

 手順書の構成は「手順書の趣旨」「全体手順書」「個別プロジェクト推進手順書」からなり、自治体情報システムの標準化・共通化や行政手続きのオンライン化などの詳細は個別プロジェクト推進手順書としてまとめる。別冊として参考事例集も作成する。

 「全体手順書」では、DXを推進するための意識の共有や人材確保・育成を含む組織体制の整備のあり方を示す。神門氏は、PMO(Project Management Office)、PM(Project Manager)の重要性を強調。「個々のプロジェクトの進捗を管理する組織が必要。各自治体では行政経営部門が担当するケースなど、さまざまなやり方があると思う。外部人材の活用についても、週1~2日ずつ近隣の自治体を巡回してもらう共同任用を考えられないかなどのアイデアを考えている」と述べた。

 加えて神門氏は自治体内部の職員育成について、「ポストごとに求められる役割とスキルの明確化が必要。どういうスキルを求めているのか、どういう仕事をしてもらおうとしているのかを明確化してほしい」と強調した。

 自治体の行政手続きのオンライン化についても解説。政府は22年度中にほとんどの国民にマイナンバーカードを持ってもらうことを目指しており、同時並行で国民の利便性向上につながる手続きについて、マイナポータルからマイナンバーカードを用いてオンラインでの手続きを可能にすることを目標にしている。そのために内閣府の主導で、自治体に対してマイナポータルの接続環境を整えた。「現在、全自治体で接続テストを進めているが、マイナポータルが使いにくいという意見があったので、UX(ユーザー・エクスペリエンス)・UI(ユーザー・インタフェース)で抜本的な改善をしている」(神門氏)。

 また総務省では、自治体の基幹システムと、国がマイナポータルを通じて提供する「ぴったりサービス」とのエンドツーエンド接続の標準仕様を作成し、市町村に提供する。住民がインターネット経由で、マイナポータルや、「ぴったりサービス申請API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)」を介して連携している民間運営のWebサイトから申請すると、自治体内のLGWAN(総合行政ネットワーク)接続系を経由する「特定通信」を通じて、受け付け処理を行うマイナンバー利用事務系に情報を取り込む仕組みだ。自治体内のシステム改修にかかる費用を補助するため、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)を通じて、必要経費の2分の1の財政措置として22年度まで249.9億円を確保してある。

 質疑応答では、尼崎市の村田氏が、政府が整備し自治体も利用する「ガバメントクラウド」について、データ連携を含む共通基盤機能なども自治体DX推進手順書で明らかになるのかどうかを質問した。神門氏は「手順書には、そのときの最新の情報を盛り込んでいく。新たな情報が出るたびに手順書に加えていく方針。別途、情報を提供することもあり得る」と答えた。