海外での取り組みでは成果とともに課題も

 海外でもスマートシティと同様の取り組みは盛んで、既にサービス実装に至った地域もあります(図4)。以下では代表的な事例として、スペインのバルセロナ市、韓国のソンド(松島)市、中国の杭州市を取り上げます。

図4●海外のスマートシティの主な事例
図4●海外のスマートシティの主な事例
出所:首相官邸「スーパーシティ解説」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html)
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 スペイン第2の都市であるバルセロナ市では、2000年から知識集約型の新産業とイノベーションの創出を目的として、Wi-Fiを都市のICT化のインフラとして利用したスマートシティ構想が進行中です。街路の通行量をセンサーで測定して街灯を適切な明るさに調整・点灯するスマートライティングや、駐車場やごみ収集箱の空き状況をセンサーで把握するスマートパーキング・ゴミ収集管理といったサービスが実装されています(図5)。こうした取り組みを通じて、スタートアップを中心とした企業数の増加等の経済的なインパクトが確認されています。

図5●各種センサーを活用したスペイン・バルセロナの取り組み
図5●各種センサーを活用したスペイン・バルセロナの取り組み
出所:首相官邸「スーパーシティ解説」※シスコシステムズ提供資料(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html)
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 韓国の仁川空港のほど近くに位置するソンド市は、自由貿易地域の一部となっており、国際都市を目指す新しい街づくりとしてスマートシティが位置付けられています(図6)。バルセロナで実装されているスマートライティングやスマートゴミ収集のほか、外気のセンシングによる大気汚染の状況監視、車両のセンシングによるバスの運行情報管理、遠隔医療・遠隔教育が実践されています。

図6●大気汚染の監視や遠隔医療も行う韓国・ソンドの取り組み
図6●大気汚染の監視や遠隔医療も行う韓国・ソンドの取り組み
出所:首相官邸「スーパーシティ解説」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html)
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 中国の浙江省北部に位置する杭州市では、IT大手のアリババ集団と連携した「City Brain」構想の一環でスマートシティが推進されています(図7)。市内に約3000台のサーバーと4000台超のビデオカメラを設置して交通状況を監視することで、事故等の異常検知や信号機のリアルタイム制御による渋滞改善、道路整備計画への反映による恒久的な渋滞改善を進めています。また、商業分野では無人コンビニ等の取り組みも進めています。こうした取り組みの成果として、信号機のリアルタイム制御によって走行速度が15%上昇しただけでなく、一部区域では新規道路の整備によって通過時間が15%短縮されるなど、渋滞による経済損失の低減に寄与しています。

図7●ビデオカメラで交通状況を集中監視する中国・杭州の取り組み
図7●ビデオカメラで交通状況を集中監視する中国・杭州の取り組み
出所:首相官邸「スーパーシティ解説」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html)
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 このように世界中で先進的な取り組みが広がる一方で、当初計画が実現しなかったプロジェクトも存在します。米グーグルの親会社である米アルファベットの傘下のSidewalk Labsは2017年に、カナダ・トロント市のウォーターフロントエリアをスマートシティとして再開発することを発表しました。Sidewalk Labsはプロジェクトを通じて雇用創出・経済活性化、環境性能の高い開発とインフラ整備、安価な住宅、自家用車不要の輸送システムの構築を目指していましたが、2020年5月7日に不安定な経済情勢と不動産市場に起因する収益性の悪化を理由として、プロジェクトの中止を発表しました。

 同プロジェクトは当初から取得データの取り扱いについて、プライバシーの問題が指摘されていました。KDDI総合研究所の『調査レポート R&A「Googleのスマートシティ開発~狙いとビジネスモデル~」』(2019年7月4日)によると、2018年にプロジェクト委員会に所属していた専門家らがプライバシー問題のために辞任しただけでなく、2019年にはカナダ自由人権協会が個人のプライバシーの保護を主張してプロジェクトの打ち切りを求めてカナダ連邦政府、オンタリオ州、トロント市を相手に訴訟を起こしていました。

 都市におけるデータ取得と商業利用について、データ所有権やプライバシー侵害をどのようにデザインするか、住民との慎重な議論が行われるべきテーマとなっています。スーパーシティ法では、住民の代表が参画する「区域会議」が設定されることになっています。利便性の高い街づくりを進めつつ、安心して生活ができる都市とするために、発展的な議論が求められています。