オープンソースコミュニティの協力により短期間で開発

 COCOAの試行版は、2020年6月19日にリリースされました。政府が導入検討を始めてから約2カ月、アップルとグーグルのAPI公開(5月20日)から約1カ月という短期間での開発です。官公庁のシステム開発としては異例のスピードを実現できた背景には、民間の有志のエンジニア等によるオープンソースコミュニティの協力がありました。

 スマートフォンのBluetooth機能を活用して感染者との接触を検知する仕組みは、新型コロナウイルスの感染拡大が国内で目立ち始めた20年3月から、一般社団法人のコード・フォー・ジャパンなど、民間の有志による複数のプロジェクトによって開発が進められてきました。当初、これらの有志のプロジェクトはシンガポールにおける同様のアプリ「Protect Together」を参考にするなどして開発を進めており、4月10日にアップルとグーグルからAPIのリリースが公表されると、この共通規格に対応することを前提として調整が進められました。

 4月からは、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策テックチームで、これらのプロジェクトをベースとした国内での実装方法が検討されてきました。アップルとグーグルのAPI利用規約に「政府あるいは公衆衛生当局によって作成される必要がある」「実装できるのは1つの国につき1アプリのみ」と定められたことから、最終的にはオープンソースのコミュニティである「COVID-19 Radar」が開発していたアプリをベースとして、厚労省からパーソルプロセス&テクノロジー株式会社に開発・運用を委託することになりました。

 プログラムの開発については、COVID-19 Radarが引き続き協力し、またコード・フォー・ジャパンもこれまで開発してきた接触確認アプリ「まもりあいJAPAN」の仕様やサンプルコードの公開などを通じて協力することを表明しました。

 COVID-19 Radarのソースコードは、オープンソースライセンスの一つであるMPL(Mozilla Public License)ライセンスによって公開されています。COCOAのリリース後も、有志によって問題報告(Issue)や修正コードの提案(Pull Request)が続けられています。ただし、COVID-19 RadarはあくまでもCOCOAのベースとなったアプリであり、COCOAそのものではないため、COVID-19 Radarの改善は必ずしもCOCOAへ反映されるわけではありません。

 一方、厚労省は9月1日に、COCOAのソースコードを公開しました。これは、MPLライセンスには改変内容の公開義務があるため、COVID-19 Radar をベースとしたCOCOAがライセンス違反とならないための措置とみられます。厚労省のウェブサイトには、「接触確認アプリの仕組みについて透明性を確保し、皆様に安心してご利用いただくため、また、国民の皆様から幅広くご意見をいただいて接触確認アプリの機能等の改善を図っていくため」との説明を掲載しています。

人口普及率はまだ15%、運用上の課題も

 COCOAは、20年10月21日時点で、合計約1869万件ダウンロードされています。日本の総人口(約1億2581万人)の約15%に相当します。英オックスフォード大学が4月に公表したシミュレーションによると、「人口の6割近くにアプリが普及し、濃厚接触者を早期の隔離につなげることができれば、ロックダウンなど他の防止策がなくともエピデミック(局地的な流行)を避けることが可能になる」としています。このため、COCOAが効力を最大限に発揮するには、まだまだ普及率の向上に努める必要があります。

 同シミュレーションでは、普及率が60%に達した場合にしか機能しないのではなく、10%台でも「アプリなし」よりも効果があることを示しています。つまり、現状の普及率でもアプリ導入の意義はあるといえますが、経済活動を再開しながら感染防止に取り組むには、より多くの人がアプリを活用することが望ましいでしょう。

 また、運用上の改善事項も指摘されています。20年10月21日時点で、COCOAにおける陽性登録件数は合計1263件ですが、COCOA(試用版)が導入された6月19日から累計すると、約7万人の感染者が発生しています。アプリ普及率15%に比べて陽性登録件数が伸び悩んでいる状況です。

 この原因について、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策テックチームの有識者検討会合では、(a)処理番号の発行が不十分、(b)陽性登録の促しがなされていない、(c)利用者が陽性登録を拒否する、(d)感染者は感染防御を軽視してリスクの高い行動を取る傾向があるため、そもそもCOCOA利用の割合が低い――といった事項を挙げて、(a)と(b)の改善のためには保健所への周知徹底などが必要と提言しています。また、処理番号の迅速な発行の徹底や、被通知者の自宅待機を支援する運用の構築を改善事項として挙げています。