「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」は、自治体の保健所などの業務負担を減らし、新型コロナウイルス感染者の情報を医療機関・保健所・都道府県等で迅速に集約・共有したり、データ分析したりすることで、感染対策に役立てることを目的に厚生労働省が2020年に開発・導入したクラウドベースのシステムです。略称の「HER-SYS(ハーシス)」は英文名のHealth Center Real-time information-sharing System on COVID-19に由来します。

 HER-SYSを導入する前は、医師が新型コロナ感染症の発生届を作成して、病院の事務職員が保健所にファクスで報告していました。しかし、届け出業務の負担や情報集約の遅れが問題となったことから、厚労省は急きょHER-SYSの開発に取り組み、20年5月15日に試験稼働、同29日から順次、全国の保健所で本稼働させました。その後、セキュリティ面の機能不足や入力項目の多さに伴う煩雑さなどの指摘を受けて改修を進め8月25日に再稼働し、9月10日時点で保健所を設置する全155自治体で稼働しました。

HER-SYSが必要とされた3つの理由

 感染症の患者情報を集計するためのシステムとしては、以前から「感染症サーベイランスシステム(NESID)」がありました。NESIDは、National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseaseの略称で、感染症に対する有効で的確な予防策を図り、多様な感染症の発生・拡大を防止するために開発されたシステムです。

 NESIDでは、感染症法に基づいて医師などから届け出があった情報を管理します。情報は各保健所で入力され、国立感染症研究所感染症疫学センターおよび全国の地方感染症情報センターで集計されます。集計結果は、感染症の発生状況、動向および原因を明らかにするための調査(積極的疫学調査等)や、国民・医療関係者への情報提供に利用されます。

 既に感染者情報を集計するシステムであるNESIDが存在するにもかかわらず、なぜ新たにHER-SYSを開発する必要があったのでしょうか。理由は主に3つあります。

 1つは、NESIDによる集計や報告に、ミスが生じがちだったことです。医療機関は感染症法に基づく発生届を手書きとファクスで保健所に送り、保健所や自治体がそれをNESIDに入力していました。手書きのうえにファクスで送られてくる不鮮明な発生届を読み取って手入力することが、システムへの入力ミスの要因になっていました。

 2つめは、感染者や濃厚接触者自らがNESIDに情報を入力できる仕組みがなかったことです。NESIDへは、スマートフォンやWebサイトを通した入力はできず、保健所職員が、自宅療養をしている感染者や濃厚接触者へ直接電話をかけて健康観察し、その結果を入力する運用となっていました。そのため、保健所職員への負担が大きくなっていました。

 3つめは、NESIDではリアルタイムの情報収集と分析ができなかったことです。NESIDは日次のデータ分析には対応していないため、患者数などの集計には数週間も待つ必要がありました。

 これらの理由から、NESIDとは別に、発生届の入力から健康観察の結果入力までを一貫して管理できるクラウドベースのシステムとして、HER-SYSを開発することを厚労省は決定しました。