デジタル社会を目指し20年が経過したIT基本法を見直し

 この目指すべきデジタル社会の実現に向けて、21年1月に始まった第204回国会では、デジタル改革関連法案として、デジタル社会形成基本法案をはじめとする6法案が衆参両院で審議され、5月12日に参議院で可決・成立、同19日に公布されました。

 6つの法律のうち、特にデジタル社会形成基本法は、デジタル社会の形成に関する基本理念や施策策定の基本方針、国・自治体・事業者の責務、デジタル庁の設置、重点計画の策定について規定しており、デジタル改革関連法の中でも中核となる法律です(図3)。

図3●デジタル改革関連法の全体像
出所:デジタル改革関連法案準備室他「デジタル改革関連法案について」(2021年3月)(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/dejigaba/dai14/siryou1.pdf)
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 これまで、政府が高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進するための法律として「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」(2000年制定)が存在していました。しかし、制定から既に20年以上が経過しており、「デジタル改革関連法案ワーキンググループとりまとめ」は、次のように改正の必要性を指摘しました。

  • IT基本法の施行後、インターネットを通じて流通するデータの多様化・大容量化が進んでおり、IT基本法が重点を置いていたインターネット等の高度情報通信ネットワークの整備に加え、データを最大限に活用していくことが、「あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展」の実現のために不可欠となっている。
  • 一方、多様・大量なデータ流通による負の側面も顕在化しており、デジタル技術の活用のみならず、悪用・乱用からの被害防止も含め、必要なリテラシーを育むことの重要性が増している。
  • また、今般の新型コロナウイルスへの対応において、国、自治体のデジタル化の遅れや人材不足、不十分なシステム連携に伴う行政の非効率、煩雑な手続きや給付の遅れなど住民サービスの劣化、民間や社会におけるデジタル化の遅れなど、様々な課題が明らかになった。
  • この他にも、少子高齢化や自然災害といった社会的な課題に対応していくために、データの活用は緊要なものとなっている。

 これらの指摘を踏まえ、デジタル改革関連法案ワーキンググループではデジタル社会形成基本法を検討する際に、「デジタル化の目的」や「デジタル化が実現する社会」「取り組み事項」「役割分担」「国際的な協調と貢献」が論点となりました(表1)。

表1●デジタル社会形成基本法を検討した際の論点と方向性
論点 検討の方向性
デジタル化の目的
(何のためのデジタル化か)
○デジタル化は目的ではなく手段に過ぎない。デジタル化によって、多様な国民がニーズに合ったサービスを選択でき、国民一人ひとりの幸福に資する「誰一人取り残さない」「人に優しいデジタル化」を進めることが重要。
○そのためには、データが価値創造の源泉であり、その流通・利用がデジタル社会の重要な礎であることを踏まえ、デジタル技術によりデータを効果的に活用した多様な価値・サービスの創出を目指すべき。
○これにより、社会課題の解決や持続的かつ健全な発展、国際競争力の強化にも役立つ。
デジタル化が実現する社会
(どんな社会を実現するか)
国民の幸福な生活の実現 ○国民の幸福な生活を実現する「人に優しいデジタル化」のため、徹底した国民目線で、ユーザーの体験価値を創出していくことが重要。
○これにより、サービスの選択肢が増えるとともにサービスの価値も向上する。その結果、生活の利便性向上や生活様式の多様化に役立ち、国民がゆとりと豊かさを実感でき、幸福な生活を実現していくことに寄与する。
○また、地域社会においても、高度情報通信ネットワークの利用やデータの活用により、個性豊かで活力に満ちた持続可能な地域社会を実現し、住民福祉の向上に寄与すべき。
○そして、一人ひとりが安心して参画可能なデジタル社会の形成において、災害等に迅速・適確に対応可能な安全・安心な暮らしの実現に寄与すべき。
誰一人取り残さないデジタル社会の実現 ○人の多様性に尊厳を持つ社会を形成するため、「誰一人取り残さない」デジタル化を進めることが重要。すなわち、誰もが参画でき、個々の能力を創造的・最大限に発揮できる、包摂性・多様性あるデジタル社会を形成すべき。
○そのために、アクセシビリティの確保や年齢・地理的条件等に基づく格差の是正等により、全ての国民が、公平・安心・有用な情報にアクセスする環境を構築すべき。
○また、多様な環境にある全ての国民がデジタル社会に参画するには、その意義と効用、成果に対する納得が必要。そこで、デジタル社会がもたらす価値について丁寧に説明し、デジタルリテラシーの向上等を図りながら、デジタル化を浸透させることが重要。
国際競争力の強化、持続的かつ健全な経済発展の実現 ○「誰一人取り残さない」「人に優しいデジタル化」に加え、我が国としての価値創造能力の向上が、国民一人ひとりの幸せに役立つ。
○そこで、我が国の国際競争力強化や、持続的かつ健全な経済発展のために、デジタル化による事業者のデジタルトランスフォーメーションの推進や多様なサービス・事業の創出、労働者が能力を有効に発揮できる多様な就業機会の創出に寄与すべき。
○また、データの多様化・大容量化や、IoT、AI、クラウドコンピューティング等の技術進展を背景に、データの活用によって、「リアルタイム性」「ダイナミック性」「リモート性」を備えたサービスの創出が重要。そのためには、データ活用のルール等の整備が重要。
○さらに、デジタル社会の形成を促進する観点から規制を見直すことも重要。
取り組み事項 ネットワークの整備・維持・充実 ○高度情報通信ネットワークは、データの活用に不可欠なので、広く国民の利便性向上等を目指して、その整備・維持・充実を図るべき。
○その際には、IoTの利用や、災害発生時の利用も念頭におき、さらに、我が国を取り巻く国際的な通信インフラの多様化の状況に着目すべき。
データ流通環境の整備 ○徹底した国民目線でユーザーの体験価値を創出するため、多様な主体によるデータの円滑な流通と、分野をまたがったデータ連携の推進が重要。そのためには、データの標準化やデータ連携基盤の整備、APIの整備・公開を図るべき。
行政や公共分野におけるサービスの質の向上 ○行政において、徹底した国民目線でユーザーの体験価値を創出するためには、デジタル化により、行政の簡素化や効率化、透明性向上を図るべき。
○また、多様な主体によるデータの円滑な流通によりユーザーの体験価値を高めていくためには、社会全体でのデジタル化の円滑な推進が求められる。
○そのため、以下の3点が重要。
(i)行政のデジタル化に重要な役割を果たすマイナンバー関連制度について、国民にとって使い勝手の良いものとしながら、活用を図っていく
(ii)国や自治体が保有する有用な情報をオープンデータとして整備・公表していく
(iii)デジタル社会における基幹的なデータベースとしてベース・レジストリを整備していく
○健康や教育といった公共分野におけるサービスは、国民一人ひとりの幸せに大きく関わるので、デジタル技術の活用により質の向上を図るべき。
人材の育成、教育・学習の振興 ○デジタル社会の発展を担う専門的・創造的な人材が不足しており、その育成が急務。
○また、国民一人ひとりがデジタル社会の中で豊かに生きていくためには、デジタル技術の活用や悪用からの被害防止といった、デジタル社会に必要なリテラシーを育むための教育・学習の振興が重要。
安心して参加できるデジタル社会の形成 ○デジタル技術の悪用への対応や、災害時も機能するネットワーク環境が重要である。そのためには、サイバーセキュリティや個人情報の保護、信頼性のある情報の自由かつ安全な流通の確保、災害対策を促進すべき。
○プライバシーやセキュリティの確保を通じた人々や企業間の信頼醸成により、信頼性のある情報の自由かつ安全な流通の確保とデータの国際的な流通促進を期待。
役割分担 官民が果たす役割 ○デジタル化によって、多様な国民がニーズに合ったサービスを選択するには、民間が主導的役割を担い、官はそのための環境整備を図っていくべき。
○また、行政における徹底した国民目線によるユーザーの体験価値創出には、ユーザーインターフェースに係る機能などの民間企業の知見を積極的に活用していくべき。
○さらに、多様な主体によるデータの円滑な流通によりユーザーの体験価値を高めるには、国、自治体、事業者が連携・協力すべき。
国と自治体の関係 ○国および自治体において、相互連携や情報システムの共同化・集約の推進等のデジタル技術を積極的に活用するための措置を講じるべき。
○自治体が地域の実情に応じた施策を実施するには、国は施策に利用するための全国的に統一された基盤を整備すべき。
国際的な協調と貢献 ○信頼性のある情報の自由かつ安全な流通を図るため、我が国はグローバルなサイバー空間のガバナンスを先導すべき。そのためには、我が国はデータの世界的な流通に係る国際的なルール形成において主体的に参画し、積極的に国際的な協調・貢献を行うべき。
取り組みの実施方法 重点計画の策定 ○デジタル社会の形成のため、以下に例示される政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策について、施策の目標や達成期間を明記した「重点計画」を作成・公表すべき。
・ネットワークの整備・維持・充実
・データ流通環境の整備
・行政や公共分野におけるサービスの質の向上
・人材の育成、教育・学習の振興
・安心して参加できるデジタル社会の形成
IoT:インターネット・オブ・シングズ
AI:人工知能
出所:首相官邸ホームページ「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(2020年12月25日)を基に作成(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/201225/siryou1.pdf)