全国各地に人口減少と高齢化の波が迫り、自治体による行政サービスの持続性に対して危機感が高まっている。総務省は、AI(人工知能)などのICTを駆使して職員の事務負荷を軽減することで行政サービスを維持する「スマート自治体」への転換を推し進めようとしている。マイナンバー制度の活用をはじめ、自治体の行政運営の支援を担う総務省自治行政局の髙原剛局長に聞いた。(聞き手は本誌編集長、井出 一仁)
髙原 剛(たかはら・つよし)氏
1984年京都大学法学部卒業後、自治省入省。神戸市理財局財政部長、長崎県総務部長などを歴任。2008年総務省自治行政局合併推進課長、11年住民制度課長、12年地方自治情報センター(LASDEC)統括研究員(電子自治体企画担当)、13年岐阜県副知事。15年内閣官房内閣審議官(2020年オリンピック・パラリンピック東京大会推進室長代理)に就任。16年総務省自治行政局公務員部長、17年地方公共団体情報システム機構(J-LIS)副理事長を経て、19年7月から現職。復興庁付併任。大阪府出身。(写真:新関 雅士、以下同じ)

総務省は自治体に対し、「スマート自治体」への転換を促す施策を矢継ぎ早に打ち出しています。

髙原 2017年10月に総務大臣主催で立ち上がったのが「自治体戦略2040構想研究会」で、その報告を受け18年9月から「スマート自治体研究会注1)」を開催し、さらにそれを引き継いだのが19年8月に立ち上がった「自治体システム等標準化検討会」です。

注1)スマート自治体研究会
正式名称は「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」。19年5月に報告書を取りまとめた。

 2040年とは、71~74年生まれの団塊ジュニアが65歳以上の高齢者になる年。国立社会保障・人口問題研究所などの推計では、年間の死亡者数は168万人に上り、出生数を90万人程度に維持できても、毎年80万人規模の政令指定都市が一つずつ消えていくような時代が来ます。

 15~64歳の生産年齢人口は今後、15年の7700万人から40年には6000万人を割り込むほどに急減します。労働力の供給が大きく制約を受けるなかで、高齢化で増大する介護や福祉を含め住民生活に欠かせない行政サービスを提供し続けるのは、今までのやり方では困難です。

18年7月の2040研究会第2次報告は「自治体職員数は従来の半分で」と提言し、注目を集めました。

髙原 研究会には地方6団体注2)が参加しておらず、また圏域行政の推進も提言したため、「政府は平成の合併に続いて圏域行政を目指しているのではないか」との懸念を抱かせ、ハレーションが起こりました。

注2)地方6団体
全国知事会、全国市長会、全国町村会の執行3団体と、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会の議会3団体。地方自治法で規定。

 ただ、自治体関係者に危機意識を持ってもらうことができた点で、報告には大きな意義がありました。危機意識を広く共有できたからこそ、業務プロセスやシステムの標準化・共通化、AIやRPA注3)の活用を通してスマート自治体の実現を目指す流れへつなげられたわけです。

注3)RPA
Robotic Process Automation。ソフトウエアロボットによる事務の自動化。

 自治体行政のデジタル化は、地方6団体、国会議員、有識者で構成する地方制度調査会でも、2040研究会報告を念頭に議論しています。たとえば、ほとんどの事務が法令で定められている住民基本台帳や税務などの基幹系システムについては、法令を根拠に持つ標準を設けて、その標準に即して事業者が開発したシステムを全国の自治体で共同利用する形態などを検討しています。

 今までの自治体ごとのシステム構築・運用では、維持管理や制度改正に伴う改修などの負担が大きいからです。地方分権の考え方を踏まえても、観光・産業などの分野に比べて基幹系では自治体ごとの創意工夫の余地は小さいはずです。地制調の6月答申には、こうした標準の策定プロセスや効力の基本的な考え方も盛り込まれるでしょう。

国が自治体システムの標準化に本腰を入れるということですね。

髙原 これまで国は、自治体システムの標準化については、想定される事務量と責任の大きさから、「とてもできません」というスタンスでした。

 しかし、生産年齢人口の急減などがはっきりしてきて、いよいよ見過ごせない状況になりました。国としての責務を果たすために、自治体システムの標準化に取り組まないといけないと腹をくくったわけです。地制調の6月答申に基づいて法制化の検討を進めます。

 自治体システムの標準化が進めば、クラウドへの移行も促進されるでしょう。標準化への対応やクラウド移行に伴う自治体での費用増については、要望があれば支援を検討することになります。自治体の首長・幹部には、AIなどのICT活用によって生み出される余力を、人にしかできない地方創生の取り組みに生かしていっていただければと思います。