2021年9月のデジタル庁発足に合わせ、自治体システムの共通化や標準化などデジタル行政は転換期を迎えている。住民サービスや行政事務のデジタル化が加速する期待がある一方、既存システムとの調整も必要になろう。17年9月の就任時からいち早く「IT先進県」を掲げ、デジタル行政を推進する茨城県知事の大井川和彦氏に行政のデジタル化のポイントや国との役割分担などを聞いた。(聞き手は、本誌編集長 菊池 隆裕)

大井川 和彦(おおいがわ・かずひこ)氏
1988年東京大学法学部卒業、通商産業省(現・経済産業省)入省。初代シンガポール事務所長、商務流通政策グループ政策調整官補佐を歴任。2003年米マイクロソフトのアジア法人入社、04年マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)執行役常務パブリックセクター担当。シスコシステムズ、ドワンゴ取締役を経て17年9月より現職。土浦市出身。56歳。

自治体の行政に対する問題意識とは何でしょうか。

大井川 最大の問題意識は、地方がこれから生き残っていくために変化への対応力をつける必要があるということです。人口減少や社会のデジタル化などの変化に対して、今までと同じことをやっていたら生き残ることが難しいと予測したのです。10年といった単位で、大きな変化に対応できないと、地方は生き残っていけない。そういう社会を作るために県の行政はどうあるべきかを考えました。

 そこで、県の行動原則を「挑戦」「スピード感」「選択と集中」に集約することにしました。

 この3つの行動原則に沿って仕事をするには、ITは必要不可欠です。今までのやり方ではテレワーク1つできません。決裁文書を持ち回るために出勤してこないといけないわけです。すなわち、IT化するためにIT導入を推進するのではなく、自分たちの問題意識のもとで自らの仕事を変えるためのツールとしてITが必要になるということです。

IT化の推進で知事の役割は。

大井川 IT業界で公共部門を担当してきた経験から、失敗するパターンがあると思います。それは「IT化しろ」と旗は振るけれど、それっきりというトップの姿です。大切なことは、現場で実際にうまくいっているかどうかを見て、うまく進まないならば理由を細かいものであっても問いただして自ら原因を潰していくという姿勢を持つことです。

 電子決裁への移行はその1つの例です。これまで紙の稟議書が来て知事がハンコを押していましたが、そもそも時代遅れですし知事が不在だと決裁が遅れて行政が滞ります。調べると茨城県にも電子決裁の仕組みがあるので、「100%電子決裁しかしない」と宣言しました。

 すると「電子決裁にすると、申請書の大量の添付資料をスキャンするなど仕事が増えます」といった抵抗が出てきます。そこで私が直接ヒアリングすることにしました。

 例えば添付資料ならば、そもそも大量の資料など見ないので「それは別の場所に保管して見たい人が見に行けばよいのでは?」と指摘していくわけです。知恵を出しながら抵抗を潰していったら、それまで10%ぐらいしかなかった電子決裁率が、4カ月でほぼ100%になり、テレワークでも使われるようになりました。

 現場は抵抗しているというよりも、部局間の調整の問題や前例を勝手に変えられないという意識があって乗り越えられないので、トップが入って「できない理由」を潰してあげることが有効でした。