新型コロナウイルスの感染拡大に伴い全国の自治体は、特別定額給付金の支払いやワクチン接種など新たな行政サービスについて短期間での対応が迫られた。「マイナンバーを使ってほしい」といった国が推奨する方策は、現場ではどう受け止められたのか。神戸市長の久元喜造氏に、コロナ禍で行政の現場で起こったことや、2021年9月発足のデジタル庁への期待などを聞いた。(聞き手は、本誌編集長 菊池 隆裕)

久元 喜造(ひさもと・きぞう)氏
久元 喜造(ひさもと・きぞう)氏
1976年東京大学法学部卒業、旧自治省(現・総務省)入省。総務省自治行政局行政課長、大臣官房審議官、自治行政局選挙部長、自治行政局長、札幌市財政局長などを経て、2012年11月より神戸市副市長。13年11月より現職。神戸市出身。67歳。(写真:直江 竜也、以下同じ)

新型コロナウイルス対応は順調でしたか。

久元 コロナ禍で大きな仕事がたくさん増えましたが、市民に対してサービスを提供するという意味では特別定額給付金の給付とワクチン接種が特に大きな仕事でした。特別定額給付金の給付は、全国の大都市の中でも神戸市はかなり早く支給を行えたと自負しています。またワクチン接種対応は現実に進めているところです(取材日は21年8月13日。オンラインで実施)。

特別定額給付金の給付では、ITはどのように活用したのでしょうか。

久元 結論から言うと、マイナンバーカードを使わなかったことが、早く支給できた要因になりました。国は特別定額給付金の申請にマイナンバーを使うオンライン申請が郵送より早いと推奨しました。神戸市でもマイナポータルを使って給付する準備を始めましたが、実際にはマイナポータルを使った給付の仕組みは使い物にならなかったのです。

 広く報道されたように、給付金申請のためにマイナンバーカードを取得しようと市民が区役所に多く訪れました。マイナンバーカードは普段使わないので暗証番号が分からず、何回か間違ってロックされると窓口に問い合わせることになり大混乱に陥ります。さらに、マイナポータルから申請された内容と、神戸市が持っている情報を紐付けする作業を手作業で行わざるを得ませんでした。これでは効率的な給付ができません。

 神戸市ではマイナンバーカードの利用に見切りを付け、印刷業者を押さえて給付用紙を急いで印刷し、市民に郵送しました。ITを活用した方法の問題点にいち早く気づき、アナログの方法に切り替えたことで早く特別定額給付金の給付ができたのです。