――2016年後半から、Cloud-to-Carの技術連携が活発だ。自動運転車の車載コンピュータの地位を狙う米NVIDIAとIntel、画像処理ソフトとCloud-to-Carベースのビッグデータ解析技術を持つイスラエルMobileye(2017年3月にIntelが153億ドルで買収を発表)、3D-LiDAR(Light Detection and Ranging)とセンサーデータの解析技術を持つパイオニアなど、提携企業はそれぞれが競合関係と言えるケースも見られる。なぜ多くのメーカーとの提携が必要なのか。


カレシー 我々はクラウドベンダーだ。さまざまな自動車メーカーや自動車部品メーカーが自動運転技術を実装するときに、我々が構築している位置情報プラットフォームを使ってもらえるように体制を整えている。自動車を作るメーカーはたくさんあるし、車載コンピュータも自動運転ソフトウエアもいろいろだ。このため、できるだけ多くの企業と提携し、多くの自動車が手軽に我々のプラットフォームを使えるように環境整備を進めていきたいと考えている(図)。

自動運転分野におけるHEREの出資・提携・連携関係
自動運転分野におけるHEREの出資・提携・連携関係
さまざまな事業分野の企業と関係構築を進めている

――自動運転車がクラウドとやり取りする地図情報については標準策定が始まっている。HEREもその仕様作成活動に積極的に参加している。標準仕様があれば、個別の提携は必要ないのではないのか。


カレシー 標準は、取り扱うデータの種類や表現の仕方を決める紙の上の規定だ。それが決まったとしても、実際のCloud-to-Carの利用現場で使えるようにするには、個別のソフトウエアや機器をつないで相互運用するための調整が必要になる。個別にテストするなどして、相互運用性を確認しておかなければ、すぐに使えるようにはならない。


Cloud-to-Car関連の提携は、お互いが持っている地図データや分析データを相互活用できるようにしていくという狙いもある。例えばMobileyeとの提携では、Mobileyeの車載機器から送られてくるセンサーデータをHEREのクラウド地図をアップデートする用途で使えるようにするだけでなく、Mobileyeが集めた道路やランドマークの情報「Roadbook」をHEREの「Open Location Platform」の一部のサービスとして利用できるようにする。Roadbookは、Mobileyeが同社の車載機器から収集したセンサー情報をビッグデータ解析して構築したもので、速度規制や渋滞情報などのリアルタイム性が高いことが特徴だ。


このように、それぞれが持っている情報を相互に利用し合うことで、リアルタイム性が高くて、精度の高い位置情報サービスを作ることができる。つまり、それぞれが情報を隠し合うことで独立性や違いを出すのではなく、それぞれの情報を組み合わせてこれまでにない品質を作ることで利用価値を高めようと考えている。

――自動運転になると高精細な3次元デジタル地図が必要と言われているが、そのデータ量はかなり大きくなるのではないか。


カレシー 誤差が10cm程度というレベルの高精細な3次元デジタル地図となるとデータ容量はかなり大きい。このため、自動運転車に世界中のすべての3次元デジタル地図情報を持たせることは現実的ではない。走行する区間のデジタル地図をニーズに応じた精細さでクラウドから配布するのが現実的だ。

ただし、すべての自動運転車が最高精度の3次元デジタル地図を求めるとは限らない。車載センサーを活用して自ら車両周辺の高精細デジタル地図を作る自動運転ソフトウエアなら、クラウドからもらう地図情報は車線やセンターラインの情報など、部分的なもので十分と判断するケースもあるだろう。

また、3次元デジタル地図を活用するにはそれを分析・処理する高額な車載機器が必要になる。低価格の車両はそうした高額機器を装備するのは難しい。低価格の車両なら、簡易な地図情報で十分なケースが一般的だろう。

――自動運転ソフトウエアやADAS(先進運転支援システム)ソフトウエアによって、求めるクラウド地図の精度は異なるということか。


カレシー そうだ。10cm程度の精度を求めるかどうかはアプリケーション次第だ。ADASならセンサーに任せるから道路形状だけでいいかもしれない。車載通信機能の制限から、データのやり取りを制限したいケースもあるだろう。逆に、常時最新データがほしくなる場面もある。レーンの中でレーンの幅を細かく判定したくなれば、より細かなデータが必要だ。このように、どの程度の精度の地図を求めるかは、自動運転ソフトウエアを開発する側が決めなければならない。

我々は、さまざまなレベルの精度に柔軟に対応できるように、API(Application Programming Interface)を統一し、求める地図情報の種類や精度を指定して呼び出せるように設計している。こうすれば、自動運転ソフトウエアを開発する側のリソースを効率化できる。将来、もっと高精細情報が欲しくなったとき、あるいはもっと簡単な地図でいいと判断したときは、パラメータを変えるだけでクラウドから取り出す地図の精度や情報の種類を変更できるからだ。

高度自動運転に向けた高精細地図の提供開始は少し先になる。大事なことは、今自動運転ソフトウエアを開発している人が将来にわたって、同じコードを使い続けられるような環境を作ること。APIを変更することなく、同じAPIで利用できる機能や地図情報をどんどん増やす考えだ。