これまでのところ、トラックの自動運転走行に関するわが国での一定規模の研究は、高速道路での隊列走行だけといっていい。一般道を無人トラックが走行できる技術の開発となると、相当先のことになりそうだ。乗用車では実用化されている自動運転による車庫入れや縦列駐車も、トラックではなかなか実現できていない。アラウンドビューさえないのが実情だ。

このように、トラックの方が乗用車より自動運転技術の開発は難しいと考えられる。それだけ開発コストもかかるだろう。トラックの販売市場は乗用車に比べて圧倒的に小さい。国内の自動車保有台数は約8000万台だが、事業用トラックに限れば130万台程度しかない。しかもトラックの9割は受注生産で、輸送品目に見合った各社各様の特別仕様だ。

トラックという一つの言葉でくくってはいるが、大きさや車型のバリエーションは数千種類あるともいわれる。汎用的なトラック向け自動運転技術が作れるかどうかもわからないし、その開発コストをどう回収するかの問題もある。

(写真)全国トラックドライバー・コンテストの実技風景(出所:全日本トラック協会)

――技術の問題以外の懸念点はなにか。

トラックドライバーの仕事は運転だけではない。輸送サービスの現場で、運ぶモノの価値を保つという重要な役割を果たしている。トラック運送業者は、さまざまな目的でいろいろなものを運んでいる。運転業務はもちろん大事だが、貨物の積み卸し作業や荷扱いも重要だ。例えば、花や果物は積み方や組み合わせを間違えると商品価値を損なうものがある。中には、走り方に注文がつく荷物もある。運ぶ荷物の特性に沿って適した積み付けや走り方をしなければならない。

このため、将来、仮に完全自動運転車がトラックの世界に登場しても、「無人トラック」が街中を行き交うという姿にはなりにくいのではないか。運転という役割がなくなっても、街中のトラックには貨物の積み卸しが輸送サービスの一環として求められ、それなりの人手はかかる。宅配でもマンションやオフィスビルなどでは戸口までの横持ち(手運搬)が必要となる。こうした観点で考えると、物ではなく人を輸送するタクシーやバスの方が無人化することの障害は小さいかもしれない。

――トラックの自動運転で期待するのは何か。

トラックの世界でも、技術の進展によってさまざまな自動化が進んできた。例えば、長距離用の大型トラックのトランスミッションはオートマチックが主流になりつつある。その理由は、省エネを追求するべくギアの段数が十数段と、複雑で細かくなったためだ。

ここまで細かくなると、ギアの選択において9速で走るのと10速で走るのはどちらが効率的なのか、一般のドライバーでは判断がつかなくなってきた。だから、最適な段数は機械に任せるようになったのだ。

我々は毎年、全国トラックドライバー・コンテストというイベントを実施して、優れたドライバーを表彰している。そこで優勝するドライバーの運転技術は本当に素晴らしい。特にトレーラーは運転が難しく、彼らの車庫入れやバックスラロームなどの運転技術は簡単に真似できない離れ業だ。例えば、そうした名人芸とも言えるドライビング技術をボタン一つで再現できるような仕組みをトラックに装備すれば、ドライバーの負荷は大幅に軽くなり、事故防止や街中の渋滞緩和などにも貢献できる。当面は、そんなトラックの早期実現を期待したい。

※この記事は日経BP総研 クリーンテック研究所の研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野のコラム「自動運転」に掲載したものの転載です。