自動運転が産み出す次世代の高効率・高精度な建機を世界に先駆けて実用化し、「自動運転が作る建設現場」を現実世界に持ち込んだ建機大手のコマツ。同社が自動運転時代を見据えて取り組んでいるのが、建設現場を可視化するIoT(モノのインターネット)オープンプラットフォームだ。世界に先駆けて自動運転の実装を進め、自動運転が作る産業構造の変化を目の当たりしてきたコマツの野路國夫会長に、自動運転が作る未来の産業構造を聞いた。今回はその後編。

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――2017年7月にNTTドコモ、SAPジャパンなどのITベンダーと手を組み、建設業務向けのオープンなIoT(モノのインターネット)プラットフォームの立ち上げを発表した。その狙いは何か。

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コマツ 取締役会長の野路國夫氏(撮影:菊池くらげ)


野路 これまでも建機のお客さん向けのプラットフォームが必要だと認識していろいろやってきた。しかし、自分たちだけでやっていたのでは上手くいかない。顧客の生産性や安全性を高めるアプリは、アプリ提供者が互いに競い合って高い価値を顧客に提供すればよいが、プラットフォームはオープンでなければダメだ。そこでIT(情報技術)企業と手を組んだ。共同開発する建設現場のIoTプラットフォーム「LANDLOG」は、競合する他社のユーザーにも使ってもらえるように、別メーカーの建機による作業実績も管理できるようにする。


――建機のビジネスをプラットフォームのビジネスで囲い込むということなのか。


野路 そうではない。プラットフォームやその上でアプリを提供するビジネスと建機を売るビジネスは全く別だ。プラットフォームはアプリを開発しやすくするための基盤となるもの。そしてプラットフォーム上のアプリは、お客さんの工事現場における作業全体の生産性を高めるためのものだ。作っているアプリは、例えば建設現場のトータルな配送システム。ダンプトラックや建機を適切にジャストインタイムで配車するシステムだ。

我々はこれまで鉱山現場のユーザー向けに鉱山向けの配車管理システムを作り、それを提供してきた実績がある。そこでは競合メーカーの建機も動かしている。鉱山現場限定の「Uber(ウーバー)」(米ウーバー・テクノロジーズ)のようなものだ。この経験から言えるのは、一般建機の場合は、鉱山現場以上に配車を効率化しなければ生産性が上がらないということ。なぜなら、一般建機を用いるお客さんの仕事の生産性は、ダンプトラックの配車をどれだけ効率よくできるかにかかっているからだ。だから配車アプリが絶対必要になる。そしてアプリの基盤となるプラットフォームはオープンでなければならない。


――建機の世界で他社より秀でているだけではダメなのか。


野路 もちろん建機は我々のコアビジネスだからしっかりとやっていく。自律走行や自律操作、機械制御の研究はこれからも続ける。ただし、建機だけで達成できる生産性向上には限界がある。

お客さんにとって生産性を高めると言うことは、例えば道路を作る場合なら、工期全体をどれだけ短くできるかということだ。これは建機の高度化だけでは達成できない。道路を作るという作業のプロセス全体を見通して、工期を短くするための仕組みを組み込まなければならない。この効率化を図るのが、プラットフォーム上の「スマートコンストラクション」の各種アプリだ。プラットフォーマーは作業全体を見通して、課題解決を実現するアプリ提供者がアプリを開発しやすい環境を構築するだろう。それをお客さんや、アプリ提供者が受け入れるなら、ハードウエア・メーカーはプラットフォーマーの下請けになりかねない。

「自動車による移動」の世界ではそれが始まっている。ウーバーのようなプラットフォーマーが登場し、人工知能(AI)を活用して効率的に配車するサービスを開始した。シュエアリングエコノミーによって生産性が高まるため料金は安く、タクシーの半分以下だ。2017年になって米国の新車販売台数が減り続けているが、この影響を受けているのではないだろうか。将来、ウーバーは自動車メーカーの大手顧客となるだろう。自動車メーカーはウーバーの下請けになるかもしれない。


――建設事業者向けのプラットフォームは建設機械メーカーでなければできないものなのか。


野路 そんなことはない。自動車業界におけるウーバーのように、ICT(情報通信技術)に強いベンチャーが突然参入してくるかもしれない。我々がハードウエア・メーカーに徹して何もしなければ、誰かがプラットフォーマーとして入ってくるだろう。そして、誰かにプラットフォームを支配されれば、我々はその下請けになりかねない。

プラットフォームを作るには現場作業のすべてを知り、現場全体の可視化を実現しなくてはならない。建機の知識だけではダメだ。だから測量にも取り組んだ。ドローンを使って測量する手法を使うが、その測量技術は米シリコンバレーの企業と共同開発した。この技術は測量メーカーに提供している。プラットフォームのためだ。


――プラットフォームの登場によって産業にはどのような変化が出てくると見ているか。


野路 ハードウエアの販売台数が激減するだろう。なぜなら、プラットフォーム上の各種アプリはハードウエアの稼働率を高めることで生産性を上げるからだ。稼働率が高くなるのだから、そこに必要なハードウエアの数は少なくて済む。今までの半分程度になってしまうかもしれない。配車アプリで言えば、建機や自動車の稼働率が高まるのだから、建設機械の販売台数も、自動車の販売台数も減っていくだろう。つまり、機械を売っているだけなら、売上は必ず減っていくのだ。


――プラットフォーマーは、その業界の習慣や慣例を知っている方が有利なのだろうか。


野路 そんなことはない。コマツ以外の誰がアプリを作るのか、どんなプラットフォームなら受け入れられるのかはまだ見えていない。それでも、既存の業界の人より業界と利害関係のない人の方がアプリを容易に作れることは間違いない。しがらみがないから、効率的なことを大胆に提案できるし、実行できる。業界の人はしがらみが強いので、そうした行動は取りにくい。


――プラットフォーム・ビジネスで重視していることは何か


野路 まず、どれだけ多くのお客さんを対象にできるかどうかだ。プラットフォームの価値は、どれだけのアプリ提供者が参加しているか、どれだけのアプリ利用者がいるのか、どれだけのデータ量が流通するのか、そのボリュームだと思う。

アプリ提供者はわかりやすいメリットをお客さんに訴求できるかどうかも重要だ。メリットが伝わらなければ「今のままでは生産性が上がらない」と悩んでいるお客さんであっても、アプリを使ってくれないだろう。お客さんが使いたくなる、わかりやすいメリットをきちんと提案できるかが大事なポイントになる。ただ、ここが難しい。アプリの良さを説得しているようではダメだ。まだまだ十分ではないが、行動を起こすことが大事であり、やっていればヒントやアイディアが生まれる。


――企業競争においては、やはり技術よりビジネスモデルが重要なのか。

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「生産性が上がれば、必要なハードウエアの数は少なくて済む。機械を売っているだけなら、売上は必ず減っていく」と説く野路会長(撮影:菊池くらげ)


野路 かつて国内で「日本は技術に勝って、ビジネスモデルで負けた」と分析されていたが、今は違う。技術もビジネスモデルも大事。技術の進化を知らなければビジネスモデルを作れない時代になったからだ。AIやIoTといったイノベーションを引き起こす技術を使いこなせば、新しいビジネスモデルを作れると思う。

我々は地図サービス「Google マップ」(米グーグル)をビジネスに活用しているが、Google マップの特徴はクルマを走らせるだけで地図を作るという計測技術を作ったところにある。我々も自動的に計測する仕組みを導入しているからよくわかる。優れた計測技術がなければ莫大な金がかかるはずだ。

ウーバーにしても、何十万台というクルマをリアルタイムで管理し、瞬時に適切な配車指示を実行し、決済まで済ませてしまう。その仕組みを、AIをフル活用することでコストをかけずに実現した。効率よく配車するAI技術があったから、あのビジネスモデルを作れたと思う。


――新しいビジネスモデルにしても、新しい技術にしても、なかなか日本からは生まれないとの見方がある。


野路 今までは、どちらかというと最後まで答えが見えてからやろうとすることに問題があった。答えが見えないとやらない。これではイノベーティブなことはできない。多くの人が我々の「コムトラックス(機械稼働管理システム)」のことを高く評価してくれるが、あれも、もともとは盗難防止で始めた。いろいろなアイディアはあったが、最初から完全なシナリオを描けていたわけではない。それでもやっていくうちにみんなが育ててくれて、どんどんバリューチェーンができてきた。

まずはやってみる。やってみて、みんなに使ってもらう。使ってもらう中でどんどん発展する。我々はお客さんの現場で一緒になって取り組み、技術を磨いて自分のものにしてきた。お客さんの現場で一緒に仕事をしていると見えてくることがある。日本には優れたハードウエアの会社がたくさんある。勇気を持って、まだ答えの見えていない領域に向かって新しい一歩を踏み出してほしい。

この記事は日経BPクリーンテック研究所の研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野「自動運転」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2017年10月12日)。